第13話 楓の特技

 ヴァンから賞金首ドットコムについて教えられた楓は理解はしたもののフジシマの事件の内容が頭にこびりついており、気分が優れない。


 まあ、詳細欄には報道できないレベルの残虐行為がびっしりと書かれていたので、それを読んで気分が悪くなるのも仕方ない。


 ヴァンは賞金首ドットコムに普段からお世話になっているので、そのようなことには慣れているため、全くダメージは喰らっていない。


 それでもこのフジシマは最低のゴミだとヴァンも思っている。


「まさか、ここまで残虐な奴だったとは思いもしなかったぜ。それで、体調の方は大丈夫か?」


 ヴァンは気分が優れない楓を気遣う言葉をかける。


 ヴァンもわざとではないとは言え、あのような内容を楓に見せてしまったのだ。


 彼もそのことを申し訳ないと思っている。


 ヴァンが心配しように楓に話しかけると、


「ああ、多少は落ち着いてきたから大丈夫だ。心配をかけてしまってすまない」


 楓はいまだに全快とまではいかないが、それでもだいぶ体調は落ち着いてきたから大丈夫だとヴァンに伝える。


 少し心配ではあるが、本当に彼女は無理をしていないようなので、このまま買い出しを続行することにした。


 そうして、二人が日用品の買い出しをし終える頃には既に日は沈みかけていた。


 そろそろ夕食の時間かとヴァンは今日の晩飯をどうしようかと悩んでいると、


「もうそろそろ夕食の時間か。ヴァン?家には食材とかはあるのか?」


 楓から家に食材はあるのかと質問された。


 ヴァンは酒のつまみはたまに作るが、ほとんど料理をしない。


 そのため、ヴァンの家には食材はないと言ってもいいだろう。


 ヴァンは家に食材はないことを伝える。


「いや、家には酒以外はねぇな」


「そうなのか。なら、帰りにスーパーに寄って帰ろう。私が今晩の夕食を作ってやる」


 そうすると、楓が帰りにスーパーに寄って食材の調達をすることを提案してきた。


 どうやら、今晩の夕食は楓が作ってくれるらしい。


「それは別に良いんだが、楓は料理が出来るのか?お前って確か、良いところのお嬢様じゃねぇのか?」


「確かに、私の家は他の家と比べて裕福だが、それは料理が出来るかどうかとは関係ないと思うのだが?」


「いや、金持ちは基本的に料理人とかをやっているもんじゃねぇのか?」


 ヴァンの疑問は別に普通だ。


 楓は自分の家はとても裕福だと言っていた。


 彼女がこのような嘘をつくとは思えないため、それは本当のことなのだろう。


 そして、裕福の家庭では基本的に召使が家事を行い、専属の料理人が食事を作っているのだと一般的には思われている。


 実際にこの世界の大金持ちたちはヴァンの思い浮かべるような生活を送っている。


 そのため、料理とは無縁だと考えるのは別におかしなことではない。


 ヴァンから質問を受けた楓は、


「いや、うちの家には家政婦なんて一人もいなかったぞ?基本的に家事は家族でやってたしな」


 自分の家では家政婦などはおらず、家族で家事を行なっていたと答えた。


 それはヴァンの知る常識とは異なる回答だった。


「それはマジなのか?裕福なのにわざわざ家事を自分たちでやってたのか。こりゃ驚いた。まさか、そんな金持ちがいるなんてな」


「そんなに珍しいのか?私たちの国では裕福だろうが、貧乏だろうが関係なしに家事は家族でしている家がほとんどだぞ?」


「そんな一般常識がある国なんて俺は知らねぇよ。なんで、わざわざ面倒クセェことを自分たちでするのか俺には分んねぇな」


 どうやら、楓の国では誰であろうが、家事などは自分たちで行うことが常識のようだ。


 それがお金持ちであったとしても、はたまた貧乏だったとしても関係ないらしい。


 そんな常識がある国なんて、ヴァンは知らない。


 それもそのはずだ。


 そのような常識がある国なんて、この世界には存在していないからだ。


 明らかにこれは異常なことだ。


 やはり、この少女は何か大きな秘密がある。


 ヴァンが楓について考えていると、


「おい、ヴァン!私の話は聞いているのか!?」


 少し怒った様子の楓が話しかけてきた。


 どうやら、今までヴァンに話しかけていたらしい。


 しかし、ヴァンは考え事をしていたため、その話を一切聞いていなかった。


 そのため、ヴァンは素直に謝る。 


「すまねぇ、ちょっと考え事してたから聞いてなかった。もっかい話してくれねえか?」


「ヴァンは仕方のない奴だな。私は優しいからもう一回話してあげようじゃないか」


「それは助かる」


 ヴァンも楓からの話は少しでも聞いておきたい。


 彼女から少しでも多くのヒントを引き出し、答えに辿り着きたいのだから。


 そうして、楓は先ほどヴァンに話した内容をもう一度伝える。


 自分の家では父が忙しくて家にいないことが多いので、母親が料理をしていたこと。


 家に父がいる時は父が料理をしていたこと。


 父は料理がとても上手であり、父から料理を教えてもらっていたこと。


 そして、


「今晩の夕食は何が良い?」


 今晩の夕食は何が良いのかと。


 夕食に何を食べたいのかと聞かれたヴァンは頭を悩ませる。


 特にこれと言って食べたいものがない。


 そのことを楓も察したのだろう。


 助け舟を出す。


「特に食べたいものがなかったら私が決めるが、それでも構わないか?」


 頭を悩ませていたヴァンは助け舟を出されたこともあり、それにしっかり乗っていく。


「ああ、構わないぜ?楓の方で決めてくれ」


「了解だ」


 そして、二人はスーパーに立ち寄った。


 スーパーに立ち寄った楓は何個か見たことのない食材はあったもののほとんど見知ったものであったことに安心する。


 知らない食材に手を出すのも良いが、今回は見知った食材だけにしておこう。


 楓は己の好奇心を抑えて、買い物をした。


 そうして、二人はスーパーでの買い出しを終えたのだった。





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