第11話 MOTHERES
マザーの店に戻る最中、ヴァンは少し残念に思っていた。
それはミーヤが期待よりも遥かに弱かったからだ。
ミーヤはエンジよりも魔術の腕も魔力量も遥かに高かった。
そのため、熱い戦いが出来るとヴァンは勝手に思っていた。
しかし、実際のミーヤは予想以上に弱く、戦闘センスがまるでなかった。
これなら、エンジの方が戦闘においては強いまである。
所詮は力によるゴリ押ししか出来ない雑魚だったのかとミーヤにガッカリした。
だが、あの周囲へ放つ冷気は生身相手には特攻になる可能性が高いため、あの技に関しては評価が高かった。
そうして、戦いを終えたヴァンがマザーの店へ戻ってくると、マザーが出迎えてくれる。
しかし、マザーと一緒にいた楓の姿が見えなかった。
「マザー?楓はどこ行った?」
なので、ヴァンはマザーに楓はどこにいるのかと質問した。
ヴァンはマザーのことを信頼しているため、彼女が楓を連れ去ったなどとは考えていない。
ただ単純に楓の姿が見えなかったので、気になっただけだ。
そうして、ヴァンが不思議そうにマザーに楓の居場所を聞いてみた時、
「やっと戻ってきたのか、ヴァン」
店の奥から手に大きな袋を持った楓がやって来た。
彼女は先ほどまでのボロボロの服とは違い、マザーが選んでくれた服を身に纏っている。
青色のロングスカートに白いカーディガンと言う清楚系な服装である。
新しい服に身を包んだ楓を見たヴァンは素直に綺麗だと思った。
楓の美しさはまるで、彫刻のようであった。
まさか、ここまでの美女だったとは思ってもいなかったので、ヴァンは驚いてしまった。
楓はヴァンと出会ってからフードを深くかぶっていた。
そのこともあり、ヴァンはしっかり楓の顔を見ていなかった。
なので、ヴァンは変えての美しさに驚いてしまったのだ。
ヴァンが驚きのあまり黙りこんでいると、
「それで、、、この服はどうだ?」
楓が少し恥ずかしそうに服の感想を聞いてきた。
楓から感想を聞かれたことで現実世界に意識が戻ってくる。
そして、ヴァンは楓からの質問に答える。
「ああ、すげぇ似合ってるぜ?似合いすぎて俺は見惚れちまっていた」
見惚れてしまうほど似合っていると言った。
実際、ヴァンは楓に見惚れていた。
それは服が似合っているからでもあるが、何よりも楓が美しかったからだ。
ヴァンは思った感想を素直に答えた。
ヴァンから似合っていると褒めてもらえた楓は満更でもない笑みを浮かべており、ヴァンに褒められたことを喜んでいるようだ。
そんな二人のやりとりを見ていたマザーは生暖かい目を二人へ向けていた。
その視線に気がついたヴァンは不思議そうな顔で話しかける。
「どうしたマザー?なんが言いたいことでもあるのか?」
「いえ、貴方が他人の容姿を誉めているところを初めて見たから驚いただけよ。貴方って、他人の容姿に興味があったのね」
どうやら、マザーはヴァンが他人に興味があったことに驚いたようだ。
確かに、ヴァンは他人の容姿などを褒めたりすることはほとんどない。
それは単純に褒める相手もいなければ、ヴァンの周りに容姿を褒めて欲しい人間などがいないためだ。
だから、決して他人に興味がないわけではない。
まあ、確かに他人への興味は一般人と比べてだいぶ低いことは確かなのだが。
ヴァンはそのことを否定しようとする。
「いや、そりゃそうだろ。俺をなんだと思ってるんだ?俺はロボットじゃねぇぞ?」
「あら、貴方は昔、殺人ロボットだと言われてなかったかしら?」
「いや、あれはバカな連中が勝手につけたあだ名だろ!!俺には関係ねぇよ!!」
「はいはい、そう言うことにしといてあげるわ」
ヴァンは自分はサイボーグではあるもののロボットではないため、他人に興味がないわけではないと弁明したが、マザーから手痛い反撃を受ける。
それも否定したのだが、マザーからは軽くあしらわれてしまった。
ヴァンはこれ以上言い争っても意味はないとため息をつく。
相変わらず、マザーには頭が上がらないな。
ヴァンはそう思いながら、まだ楓の服の代金を払っていないことを思い出す。
「それで、マザー?楓の服は全部でいくらしたんだ?」
ヴァンはマザーに楓の服の値段を尋ねる。
「そうね、全部合わせて三万ミランよ」
ミランとはこのカーサスの独自通貨であり、カーサス以外では使用出来ない。
ちなみに、一ミランは約一円である。
そして、このミランはカーサスで唯一の中立組織であるカーサス銀行が発行している。
そのため、ミランはカーサスという混沌とした街で最も信用性のあるものと言っても過言ではない。
マザーから服の代金を聞いたヴァンは、
「それまじで言ってやがるのか?流石に三万ミランはあり得えねぇだろ。今着ている服以外にも何着か買ったんだろ?流石に安すぎないか?」
思ったよりも値段が安かったことに驚いた。
マザーの店はこのサーカスの街でも有名な服のブランドである。
その店名はMOTHERESであり、マザーが創設者のブランド店だ。
この店以外にもMOTHERESはサーカスの街に何店も出店している。
そのため、服の値段は一般人が手を出せないほど高い。
だが、MOTHERESの服の質はその値段に見合った高さを誇っており、ヴァンはマザーがこの店をオープンした頃からの常連である。
なので、マザーが提示した額があまりにも安すぎることに一瞬で気づき、不審に思った。
それに対してマザーは、
「たまには貴方にサービスしようと思ってね。貴方は私が店をオープンした頃からの常連でしょ?だから、たまには良いかなって」
ヴァンは自分の店の最初期からの常連であるため、たまにはサービスしようと思ったからだと答えた。
「それに、楓には私の趣味に付き合ってもらったの。だから、サービスしたのよ」
そして、マザーは楓が自分の趣味である着せ替えに付き合ったもらったお礼でもあると答えた。
その話を聞いたヴァンは納得する。
そうして、ヴァンはマザーと言い分に納得を示し、代金を払うためにレジへ向かおうとした時、
「それに、この子は貴方と同じでそんな姿の私にも普通に接してくれたもの」
マザーが誰にも聞こえない声でそう呟いた。
そして、ヴァンはその消えてしまいそうな呟きが聞こえていたのだった。
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