第6話 役人との駆け引き

 ヴァンは空を猛スピードで飛翔することで敵に見つからずに事務所まで戻ってきた。


 少女は目まぐるしく変わる景色に酔ってしまい、そのまま気絶してしまった。


 仕方ないので、ヴァンは少女を担いだまま事務所へ戻ってきた。


 事務所へ戻ってくると、気絶している少女を近くにあるソファーに寝かせると、帽子掛けにカウボーイハットをかける。


 カウボーイハットを脱いだヴァンはそのまま仕事机に座ると、ポケットの中から通信端末を取り出す。


 そして、そのまま誰かに電話をかける。


『やあ、ヴァン。依頼の方はもう終わったのかね?』


 相手は電話に出るなり仕事は終わったのかと質問してくる。


 ヴァンが電話をかけた相手は依頼を出してきた政府の役人である。


 質問に対してヴァンは、


「いや、依頼の方はまだ終わってねぇ。だが、仕事に関する話をテメェとしなくちゃいけねぇことがある」


 仕事について話したいことがあると言った。


 政府の役人も何かに気がついたのだろう。


 ヴァンの話に聞く耳を持つ。


「グリモワールの連中が動いてやがる。それも大規模でだ。そこんところをそっちは把握してんのか?」


 ヴァンは政府の役人にグリモワールが動いていることを知っているのかと質問する。


 ヴァンは政府の役人からの回答は概ね予想できている。


 それでも相手の出方を窺うためにもこの質問を投げかけた。


『ああ、もちろん知っているよ。知っているからこそ君にわざわざ依頼を出したんだ』


 政府の役人はヴァンにグリモワールが関わっているからこそヴァンに依頼を出したのだと言った。


 その話を聞いてヴァンは少し機嫌が悪くなる。


 だが、ここで言い争っても意味はない。


 だから、ヴァンは話を続ける。


「それでだ。たまたま依頼のターゲットを見つけたんだが、ちょっと違和感を覚えてな。少し捕まえて色々と調べたんだ」


 ターゲットである少女に違和感を感じたのだと。


 これはあながち間違っていない。


 ヴァンは少女から異様なオーラを感じ取っていたからだ。


 自分たちと少女では何だか生物としての根本が違う気がする。


 ヴァンはそのような気がしてならなかった。


 そうして、ヴァンが少女について調べたと嘘をつくと、


『それで、結果はどうだったのかね?』


 役人はその結果を催促してきた。


 結果を催促されたヴァンはわざとらしく嫌そうな雰囲気を出しながら答える。


「俺が捕まえたターゲットは本物ではなく、ターゲットをコピーしたホムンクルスだった」


 自分が捕まえた少女は本物ではなく、ホムンクルスだったのだと。


 ヴァンは自分が追っていた少女はターゲットを模して作られたホムンクルスであると嘘をついた。


 こう言っておけば、彼女を連れ回したところで問題になることはない。


 まあ、他の組織には狙われそうではあるが。


 衝撃の事実を伝えられた政府の役人は驚きのあまり絶句してしまう。


 だが、すぐに冷静さを取り戻すと、ヴァンのことを疑うように質問する。


『それは本当なのかね?間違っている可能性とかは考えられないのか?』


 その情報は正確なのだと。


 ヴァンは答える。


「お前も俺が魔術に関して詳しいのは知ってるだろ?一応、これから精密な検査をする予定だが、ほぼ間違いなくホムンクルスで間違いない」


 自分の見立てだと、この少女はほぼ100パーセントの確率でホムンクルスだと。


 その情報を聞かされた政府の役人はため息をつく。


 そして、ヴァンは言葉を続ける。


「お前たちの資料ではターゲットは人間だと聞いていたんだが、本当はホムンクルスだったのか?そこんところを詳しく聞かせてくれねぇか?」


 ターゲットは人間ではなく、ホムンクルスだったのかと。


 政府の役人は答える。


『いや、ホムンクルスではなく、ターゲットの少女は普通の人間だ。だから、そのホムンクルスは本物の少女が撹乱するために用意したものの可能性が高い。そうなると、誰がこれを仕組んだのか…』


 政府の役人によると、少女はホムンクルスではなく、普通・・の人間だと答えた。


 これは本物の少女であることがバレた時の良い言い訳になる。


 少女は明らかに普通の人間ではない。


 だから、ヴァンは勘違いしてしまったと苦し紛れの嘘をつくことが出来る。


 そして、依頼人自らが普通だと言ったせいで起こったミスであるため、相手に責任も押し付けられる。


 これで、何とか少女を匿うことが出来るなとヴァンが安堵していると、


『それで、ヴァンはそのホムンクルスを誰が作り出したか見当はついているかね?』


 政府の役人がヴァンにホムンクルスの製造元の見当はついているのかと質問される。


 ヴァンは『そんなもん知るわけねぇだろ!!嘘をでっち上げてるんだからな!!』と言ってやりたいところだが、そうはいかない。


 だが、実際にこんなことをするとなると、どこの組織がしそうかと聞かれるとヴァンも悩む。


 どの組織も同じような手口を使いそうであるためだ。


 そうして、ヴァンが押し黙っていると、政府の役人はヴァンでもその情報を掴めていないと勝手に誤解する。


 そして、ヴァンに話しかける。


『分かった。その辺りは私たちの方で調べておこう。それで、そのホムンクルスはどうする予定だ?』


 少女はどう扱うのかと。


 そう聞かれたヴァンはあらかじめ決めていた答えを伝える。


「ああ、それなら俺のところで働いてもらう予定だ。ぱっと見じゃバレねぇし、他の組織に対する揺さぶりにも使えそうだしな」


 自分の下に置いておくと。


 それらしい理由もつけてそう答えると、


『ああ、分かった』


 ただ分かったと返事を返した。


 そして、政府の役人は電話を切る。


 そうして、ヴァンはひとまずの危機を脱することが出来たのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る