第5話 ヴァンの移動手段

 ヴァンは少女からの依頼を引き受けることにした。


 その理由としては様々であるが、何よりも少女の味方をした方が何だか面白いことになりそうだと感じたからだ。


 そうして、少女の依頼を受けることにしたヴァンはそのことを告げると、


「それは本当か!?こんなことを言うのもなんだが、私の依頼は相当そちら側が不利なものになっているのだぞ?それなのに本当に依頼を受けてくれるのか?」


 少女は最初は嬉しそうな笑顔を浮かべていたが、よくよく考えてみると、自分の依頼は相当ヴァン側が不利なものであるため、本当に受けてくれるのかと心配そうな顔で聞いてきた。


 わざわざ自分が不利になるようなことを聞いてくる少女にヴァンはため息を吐く。


 こんなことをすれば、普通なら足元を掬われてしまうだろう。


 今回は戦闘と美味いメシにしか興味のないヴァンだから問題ない。


 彼はそうやって少しでも報酬を上乗せしようとするような性質ではないからだ。


 それに、彼はそんな不利な条件だと分かった上で依頼を受けたのだ。


 今から依頼を断るようなことはしない。


 そのことをヴァンは少女に伝える。


「そんなこと分かった上でお前からの依頼を受けたんだ。報酬のことはあんま気にすんな。最初から報酬なんて期待してねぇしな」


 ヴァンは最初から報酬なんて期待してないから気にするなと言う。


 ヴァンに報酬のことについて言われた少女はとても申し訳なさそうな顔をしている。


 どうやら、少女は依頼に見合った報酬を渡せないことを相当気にしているらしい。


 そして、


「もしも、私が家に帰ることが出来た時には依頼の内容に見合った報酬を渡すと約束する。私の家はこう見えて裕福なんだ。だから、安心してくれ」


 少女は家に帰ることが出来た暁には依頼に見合った報酬を支払うと約束する。


 この少女の家は裕福らしい。


 そのため、報酬に見合った金額は用意できると、少女は豪語した。


 ヴァンはその話を聞き流した。


 何故なら、特に報酬について気にしていないからだ。


 だが、無反応を貫くのは少し印象が悪い。


 これから長い間、共に過ごすのだ。


 少しでも衝突は避けておきたい。


 そう思ったヴァンは、


「ああ、その時は期待しているぜぇ?俺の依頼料は高いからな」


 それとない言葉を返す。


 こう言う言葉を投げかけておけば、お互い納得できるし、関係も悪くなりにくい。


 今まで嫌というほど依頼人と喧嘩してきたヴァンだからこそ、喧嘩を避ける方法を熟知している。


 それでも気に入らないことには徹底的に反発するため、争いは絶えないのだが。


 それは彼の性分なので、仕方ないだろう。


 そうして、依頼の報酬について話した後、ヴァンはリボルバーを後方へ投げ捨てる。


 そうすると、リボルバーは粒子となって塵も残らずに消えたのだった。


 その光景を見ていた少女は少し驚いたような表情をしたが、彼が何をしたのか気づき、納得したような表情を浮かべる。


 少女の様子を見ていたヴァンは、彼女がヴァンが何をしたのか一瞬で気づいたことに感心した。


 リボルバーを手放したヴァンは後方へ視線を向ける。


 そこにはグリモワールの末端構成員の死体が転がっている。


 このまま長居するのは危険だろう。


 そう判断すると、


「とりあえず、移動するぞ。ここに長居したらグリモワールのクソ野郎どもに見つかっちまうからな」


 ヴァンは少女を連れてこの場を離れることにした。


 少女もヴァンの意見に賛同し、彼についていく形でこの場から離れることにした。


 そうして、移動を開始したヴァンはこのまま彼女を連れて歩くのは少々危険であることに気がつく。


 少女は目立つ長い銀髪を持つため、彼女のことを知っている者ならば、フードを被っていても気が付かれてしまう。


 それに、周りにはグリモワールの連中もうじゃうじゃいる。


 このまま徒歩移動ではいつか見つかってしまうだろう。


 それならば、多少目立っても速い移動手段を取ることにしよう。


 自分が目立てば、自然と少女への意識も逸らすことが出来る。


 そう思ったヴァンは少女に話しかける。


「このまま歩くのはめんどくせぇし、グリモワールのクソ野郎どもにも見つかっちまうかもしれねぇから、別の移動手段を使うぞ。とっとと安全な場所へ向かいてぇし、問題ねぇよな?」


 このまま歩いて移動するのは危険であるため、別の移動手段を使っても良いかと質問してみる。


 少女もそのことを気にしていたらしく、すぐに了承した。


 彼女の了承も得たので、ヴァンは早速少女のことを抱える。


 いきなりヴァンに抱えられた少女は驚きのあまり固まってしまう。


 その隙にヴァンは両足を変形させ、勢い良く飛び上がると、足裏から勢い良く炎が噴き出す。


 そうして、両足をジェットにしたヴァンはそのまま空を猛スピードで駆け抜けたのだった。


 ちなみに、少女は目まぐるしく変わる景色で目が回ってしまい、途中から気絶していた。



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