第3話 手柄は横取り
それから、ヴァンはバレないように少女とそれを追う同類の跡を追いかけ続けた。
少女の逃げスキルは相当のものであり、同類たちは彼女を追い詰めるのに時間がかかっていた。
そして、少女たちを追いかけ続けるうちに同類たちの正体が判明した。
彼らは魔術協会『グリモワール』の下っ端構成員たちだ。
グリモワールとは、このサーカスに巣喰う五大派閥のうちの一つであり、彼らは魔術の探究者だと自称している。
グリモワールは閉鎖的な組織であり、裏切り者は絶対に許さない。
そして、グリモワールに所属する魔術師の多くは人格破綻したサイコパスが多く、彼らは非人道的な実験を日々繰り返している。
そのため、魔術師の品格を落としたとして、魔皇国アナスタシアからは異端の烙印を押され、国際指定のテロリスト団体となった。
もう一つの特徴として、グリモワールは魔術が至高であると考えているため、科学技術を見下し、軽蔑している。
その影響で五大派閥であるとある企業とは犬猿の仲である。
グリモワールも政府と同様に白髪の少女を狙っているらしく、彼女のことを追いかけ回している。
それも最初は四人だけかと思っていたが、実際は最低でも二十人は動いており、グリモワールにしては珍しく、大規模な捜索を行っていた。
そのことから、白髪の少女はいかに重要な存在なのかが窺えた。
ヴァンはグリモワールの連中にバレないよう少女を追いかける。
どうやら、少女はヴァンの存在には気が付いていないらしい。
このまま狙い撃ちにしても良いが、それではグリモワールの連中にバレる可能性が高い。
ただでさえ、グリモワールから目の敵にされているのにこれ以上奴らにちょっかいをかけると少々面倒臭いことになる。
流石のヴァンも無駄に敵を増やしたりなどはしない。
そうして、ヴァンが跡をつけていると、ついにグリモワールの下っ端共が少女を行き止まりに追い詰めた。
これはチャンスだと思い、ヴァンも動き始める。
ヴァンが右手を突き出すと、右腕が変形していく。
そして、右腕にトリガーのついた取手のようなものが現れた。
その取手を掴み、引っ張ると、右腕の中から大口径のリボルバーが現れた。
リボルバーを取り出したヴァンは右腕を勢い良く振ると、変形機構が発動し、金属音と共に元の腕に戻る。
ヴァンは取り出した大口径のリボルバーを構えると、目にも留まらぬ速さで少女を追い詰める四人の下っ端構成員たちの頭を撃ち抜く。
それは神技とも呼べる早撃ちであり、下っ端構成員では彼の速射を見切ることは出来ない。
一瞬にして構成員を撃ち殺したヴァンはゆっくりと少女に近づいていく。
彼女は怯えたような表情でヴァンのことを見ており、ぱっと見ではどこにでもいそうな普通の少女であった。
しかし、ヴァンは彼女から異様な力のようなものを感じ取っていた。
その正体は何なのかヴァンでも分からない。
それでもその力は普通ではないことは容易に想像ついた。
だから、
「おいおい、俺の獲物を取ろうだなんて良い度胸しているじゃねぇか」
ヴァンは慎重かつ、相手には余裕そうな態度をとる。
少女はヴァンも自分を狙っていることに気づいているのだろう。
彼の軽口を聞いた途端、その表情にはより濃い絶望の色が見えていた。
この様子を見るに、彼女には戦闘能力がないことが分かる。
だが、得体の知れない力を持っていることは間違いないため、早めに彼女を処理することにした。
「テメェには恨みはねぇが依頼を受けちまったからな。ここで大人しく死んでもらうぜ?」
そうして、ヴァンがリボルバーのトリガーを引こうとした時、
「待ってくれ!!」
少女が声を上げた。
普通ならば、ヴァンは関係なくトリガーを引いていた。
しかし、今回の相手は普通じゃない。
ならば一旦、彼女の話を聞いてみるのも悪くない。
ヴァンはそう判断した。
ヴァンはリボルバーを構えたまま相手の行動を監視していると、少女が話し始める。
「私からの依頼を受けてくれないだろうか?」
それはヴァンにとっては予想外の提案であった。
まさか、この状況で自分に依頼を頼み込んでくるとは。
そこでヴァンの少女へ対する興味が湧いて出てくる。
少女に興味が湧いたヴァンはまずは話を聞いてやることにした。
「依頼の内容は?」
ヴァンはリボルバーを構えたまま少女に質問する。
少女の表情にはいまだに恐怖の感情が色濃く残っているが、それでも覚悟を決めたような表情を浮かべている。
コイツは中々骨のある奴だなとヴァンは少女の評価を上げる。
少女に依頼の内容を聞いてみると、
「私の護衛だ。期間は私の安全が確保されるまで。依頼の期間中、私の安全が確保されているのであれば、他の依頼を受けてもらっても構わない」
彼女はヴァンからの質問に答えた。
依頼の内容は至って普通のものだ。
少し違うところがあるとすれば、身の安全さえ守ってくれれば、他の依頼を受けても問題ないという点だろうか。
そして、ヴァンは少女がこの条件を提示した理由も何となく察する。
だが、ヴァンは傭兵として当たり前の質問を少女に投げかける。
「依頼の報酬は?」
ヴァンは少女にそう聞くと、彼女の顔に一瞬、焦りと動揺の表情が浮かび上がる。
ヴァンは何となく、この少女には護衛依頼を出せるほどの金などないことは分かっていた。
そもそも身なりもボロボロであるのに加え、追われているのに護衛の一人もつけない。
明らかに金の持っていない者の行動だ。
それでもヴァンは少女に報酬の話を振った。
それは彼女の覚悟を問うためだ。
ヴァンが深く被ったカウボーイハットから少女のことを見ていると、彼女は覚悟の決まった顔で答える。
「報酬は私自身を好きにしてもらっても構わない。それで良いか?」
報酬は自分自身だと。
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