第2話 怪しい依頼

 ここは陰謀渦巻く都市『サーカス』


 この都市では毎日のように争いが起こり、日々各勢力が権力闘争に励んでいる。


 そんな危険な都市の中にある少し古びたビルの中。


 とある男は依頼人と話をしていた。


「はあ?女の子の暗殺だぁ?わざわざそんな依頼を俺に頼む意味あるのかぁ?他のサド好きの変態に依頼すれば良いじゃねぇか」


 その男『ヴァン・セント』は依頼人に悪態をついていた。


 どうやら、依頼の内容が不服らしい。


『いやいや、そう言わずにお願いだよ。報酬の方は弾んでおくからさ』


 依頼人の方もヴァンにどうしても依頼を受けて欲しいらしく、なかなか引き下がる気がしない。


「どうして、そこまで俺に拘るんだ?俺以外にもフリーの傭兵なんてごまんといるだろ」


 多少落ち着きを取り戻したヴァンは自分に異様に拘る依頼人である政府の人間を不審に思う。


 このサーカスでは暗殺の依頼など当たり前にある。


 政府の役人から一般人に至るまで、この街では暗殺依頼で溢れかえっている。


 そして、今回ヴァンが持ちかけられている依頼はどこにでもいそうな普通の少女の暗殺依頼だ。


 それはサーカスにとってはごく当たり前の暗殺依頼だ。


 だが、何かがおかしい。


 政府がわざわざ普通の少女の暗殺依頼を頼むのだろうか?


 いや、そんなわけがない。


 この少女には何か隠された秘密がある。


 しかし、全く興味がそそられない。


 秘密のある奴なんてこのサーカスには溢れかえっている。


 だから、ヴァンは政府からの依頼を断ることにした。


 だが、普通に断ろうとしても先ほどと同じような押し問答になり、断ることは難しいだろう。


 そのため、ヴァンは無理矢理条件を引き上げることにした。


「それなら、今の報酬を50倍にしてくれたら受けてやっても良いぜ?」


 これだけ条件を引き上げたならば、相手もおとなしく引き下がってくれるだろう。


 ヴァンはそう思い、政府の人間に報酬の引き上げを条件にした。


 しかし、


『ああ、分かった。今の報酬を50倍に引き上げよう。これで契約成立だな』


 ヴァンの無茶な要求を何の戸惑いもなく聞き入れられた。


「ちょっ!!まっ!!」


 まさか、聞き入れられるとは思いもしていなかったヴァンは急いで撤回しようとしたが、ヴァンが話す前に電話を切られてしまう。


 これで、契約は成立してしまった。


 こうなってしまえば、政府からの依頼を受けるしかない。


「ホーリーシット!!全くどうなってんだよ!!」


 ヴァンは予想外の展開に驚きを隠せなかった。


 ヴァンへの報酬は元から依頼の内容に比べて破格のものだった。


 ただでさえ、破格な報酬だったのにそれが50倍まで膨れ上がった。


 この額は下手をすると、五大派閥の上級幹部の暗殺依頼の報酬を超えている。


 これは明らかに異常だ。 


 この依頼の裏には何か大きな陰謀が隠されていることは間違いない。


 ヴァンは政府の役人によって面倒事に巻き込まれてしまったのだ。


 だが、巻き込まれてしまったのなら仕方ない。


 ヴァンはニヤリと笑みを浮かべる。


 そこまでして政府が追いかける人物だ。


 他の組織の連中も動いているに違いない。


 そうなると、戦いは避けられないだろう。


 一体どんな敵と戦えるのだろうか?


 ヴァンはこれから繰り広げるであろう戦いに思いを馳せ、笑みがこぼれ落ちる。


 政府の陰謀がなんだ?


 俺には関係ない。


 ただ目の前の敵を全てぶっ壊すだけだ。


 それがどんな敵であろうともだ。


 ヴァンは己のモットーを胸に椅子から立ち上がると、近くの帽子掛けに置いていたカウボーイハットを手に取る。


 彼にとってカウボーイハットはトレンドマークのようなものだ。


 そして、ヴァンはカウボーイハットを深く被る。


 これで準備万端だ。


 ヴァンはカウボーイハットを被った後、事務所から外に出る。


 とりあえず、街に出てきたヴァンはターゲットが近くにいないか確認して回る。


 政府から指名手配されているような人物だ。


 そんな人物が簡単に見つかるわけがない。


 なので、ヴァンは軽い運動がてらに政府から送られてきた情報を確認しながら近くを歩いていた。


 そうして、政府からの資料に大体目を通した時、ヴァンの目に信じられないものが映る。


 それは送られてきた資料に載っていた写真と瓜二つの白髪の少女が目についたからだ。


 まさか、こんな早く見つかるとは思っていなかったヴァンはあまりにも物事が順調に進んでいることを不審に思う。


 もしかしたら、あの少女は影武者の可能性もある。


 まずは跡をつけてみることにした。


 ヴァンは少女の跡をバレないようにつけていると、自分と同じく彼女の跡をつける四人組を見つける。


 どうやら、彼女は本物のターゲットのようだ。


「ホーリーシット…まさか、本物だったとはな」


 まさか、本物だとは思ってもいなかったヴァンはあまりにも上手くことが進んでいることに嫌な予感がする。


 だが、依頼を受けたからには追跡をやめられない。


 とりあえず、ヴァンは同じく少女を狙う四人組の跡をつけていくことにした。


 ここで邪魔者を始末しても良いが、それでは下手に目立ってしまう。


 それに、ターゲットの少女が自分を警戒してしまい、面倒なことにもなるだろう。


 だから、先に同類に少女を追い詰めてもらう。


 そして、少女を追い詰めたところでそれを掠め取る。


 完璧な作戦だ。


 ヴァンはそう思うと、彼らの跡を追いかけ続けたのだった。



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