第六話


ゲホーデン「魔鳥よ!この国にはゴールドメッキ族がコレクションとして売られていたな?」

近衛魔鳥「ハイ、ざっと15体程いるようデス…」

ゲホーデン「うむ。そやつらに変化魔法をかけ、戦いから逃げ遅れた人間を演じてもらう。勇者たちは必ず分かれて助けに行くはずだ…」

近衛魔鳥「ギギ、では軍の皆には人間を見つけても手を出すなと知らせておいた方が良いデスカ?」

ゲホーデン「そうだな。早急に頼む!」

約5分後…


近衛魔鳥「ギギ、魔王様、準備が整いマシタ!…ゴールドメッキ族が1名足りませんが、14名全員が協力してくれるようデス!」

ゲホーデン「よし…二軍から四軍までを率いて先に帰って構わないぞ。最近、皆にはほぼ休み無しで働いてもらっていたからな…そろそろまとまった休みが無いとな。」

近衛魔鳥「あ…ありがとうございマス!それでは、先に戻らせていただきマス!」

ゲホーデン(さてと…一軍には悪いが、もう少し働いてもらおう。魔物がいなければ意味が無い…ん、外が騒がしくなってきたな…勇者一行が来たか。音からして…どうやら上手くいっているようだな。)


ゲホーデンの読み通り、勇者一行を散り散りにする事に成功した。


ゲホーデン「…よし、行こう。」


隠し通路を出る。


ゲホーデン「…ん?あそこにいるのは戦士か…!何をしているんだ…!」

変身したゴールドメッキ族A「と…!ギャア…!」

ゲホーデン「戦士は魔力を察知する能力も低いはずなのに…何故だ…!?変化魔法を見破っていないという事は、この戦いから逃げ遅れた一般人と認識しているはず…!尚更理解出来ん!戦士は駄目だ…他を当たる!ひとまずそっちに…ん?」

魔法使い「はあ…ゲホッ…はあ…」

僧侶「ゲホッ…ゲホッ…」

ゲホーデン「あそこにいるのは魔法使いと僧侶か。どうやら疲弊しているようだ…丁度良い。」

魔法使い(…!魔王…!?)

ゲホーデン「眠れ。」

魔法使い(な…き…急に…っ…)

僧侶「ZZz…」

ゲホーデン「…勇者にも分かりやすく魔力を残留させておこう。しかし、私と妹は本当に魔力の特徴が似ているな…勇者たちが魔法使いの魔力と勘違いしそうだな。まあ、どちらでも同じ事だがな…」


魔法使いと僧侶を連れ、隠し通路へと戻る。


ゲホーデン「…最近覚えた魔法の鎖でしっかりと捕らえておこう。…捕らえよ!」

魔法使い「………ッ!?ゲホッ…ぐ…あ…!」

僧侶「うっ…なにっ…ゲホッ…これ…!?」

ゲホーデン「しばらく大人しくしてもらおう。」

魔法使い「た…たすけ…!」

僧侶「勇者っ…!」

ゲホーデン「…このまま魔王城に連れて帰っても良かったが、なるべく時間はかけたくないからな。一網打尽にしてやろう。」


魔法で生み出した玉座に座り、勇者たちを待つ…


ゲホーデン「…懐かしいものだ。私が魔王の座に着いてから勇者一行が来るまでの短い時間だったが、色々とくだらない魔法も練習する時間があった。あの頃は楽しかったな…だからこそ、今が苦しむ時なのかもしれんな。奥に人影が見える…勇者たちか…どれ、少し試してやろう。」


勇者たちの道を阻むように光線を放っていく。


ゲホーデン「…クックック、貴様らがこの程度で歩みを止めるわけないだろう?なあ…!」


光線を弾きながら勇者たちはじりじりとこちらへ近付いてくる。


ゲホーデン「………クックック…貴様らは必ず、ここに来ると思っていた…だが、そこの魔族は私が殺したはずだが…何故生きている?貴様は私がこの手で跡形も無く消し飛ばしたはずだが…まあ良い。貴様らに見せたいものがあるのだ…これを見ろ!」

魔法使い(たすけ…て…)

僧侶「う…あ…」

勇者(魔法使い!僧侶!)

ゲホーデン「…おや?なるほど……クックック…見世物を見物しようと人間…いや、神が来たぞ?」


そこに現れたのは、姿がぼやけた女神だった。


僧侶(……!?)

魔法使い「あ……っ…?!」

戦士(この雰囲気…女神様…なのか?)

勇者(どっ…ど、どうしてここにぃ?!)

トキラ「えっ…!」

ゲホーデン「…神が何の用だ。」

女神「流石は魔王ですね。一瞬で私が神であると気付くとは…はあ…はあ…」

勇者(め…女神様?姿が曖昧でぼやけてるけどよ…何があったんだ…?)

女神「はあ…はあ…次元…」

戦士(次元…?)

女神「この次元は特殊だった…残った2人は完全に消滅した…それでも私だけは意識だけ…はあ…」

トキラ「訳が分かりません…!僕たちにも分かるように説明してください!」

女神「意識だけは…この次元に…繋がった…」

ゲホーデン「意味不明でつまらない話は終わりにしようか…?クックック…ハァッ!」


ビビビビビッ!


女神「っ…」


スゥ…


ゲホーデン「…ちっ、すり抜けるか。」

女神「今までは私に都合良く事が運んだ…だが…これからは違う…この世界に私が来た事により、元の私は消滅した…石も…無いようだ…力…無き者…生きるべからず…か…」


謎めいた事を語るだけ語り、消滅してしまった。


勇者(な…なんだったんだ…?)

ゲホーデン「全くだ、はあ…つまらん。くそ…」


パキ…


魔法使い「っ…?!」

僧侶「ぐっ…?」

トキラ「あ…魔法使いさん!僧侶さん!」

戦士(な…何故解放した…!?)

ゲホーデン「…もう良い。女神め…あんなものを見せやがって…」

勇者(何の事だよ…!)

ゲホーデン「…もしも」

勇者(もしも…?)

ゲホーデン「幸せを臨んでも良いのなら…いや、もうどうでも良い事だ。はあ…帰る。」

勇者「あっ…おい!どこ行くん…あれ?」

戦士「の…呪いが…!」

魔法使い「な…なんで…?」

僧侶(な…何も分からない…!どういう事…!?)

トキラ「み…皆さん、大丈夫ですか!?」

ゲホーデン「不思議と今日は気分が良いからな…呪いは解いてやる。だが…女神が消えた今、貴様らに女神の加護は無くなった。次に会った時は確実に殺してやるからな。覚悟しておけ…!」

勇者「あ…おい…」


速めの足取りで通路を出る。


ゲホーデン「…少し寄っていくか。」


ギャンブル洞窟へとやってきたゲホーデン。物思いにふけりながら最深部へと進んでいく…


ゲホーデン「そういえば、トキラとか言ったか…あいつには友がいたらしいな。確か…G国の奴隷になっていたか?…友に会えないというのはとても辛い事だ。私も昔は少ないながら、友達がいた…だが、私は父の後継として育てられていたからな…その友達は父にっ……過去を振り返るのはやめよう。過去を振り返ると、ふとした時に弱かった頃の自分が出てくる…私は魔王なのだから…はあ…今日は色々な事がありすぎた。物思いにふけるのはやめにしてさっさと帰ろう。」

トキラ「…あれ?魔王………っ様?」

ゲホーデン「トキラか…格上に媚びへつらうな。敵のくせによくも媚びを…」

トキラ「…こう見えてまだ葛藤はあるんですよ。」

ゲホーデン「ふん…どうだか…」

トキラ「魔王の方こそ何か葛藤があるんじゃないですか?あんな優しさがあるのに、何故様々な国と戦争を…?」

ゲホーデン「黙れ。貴様には到底理解出来んような悩みが…っ……」

トキラ「…悩み、あるんですか?」

ゲホーデン「…………ある。………帰る。」

トキラ「あ…ちょっと…」


一歩一歩大きく足音を立てながら洞窟を出る。


ゲホーデン「はぁ〜ぁ…何故だ…言葉に明らかな隙が出来ていた……心を…許しかけていたのか…?何故…今日も…勇者たちを見逃してしまった…勇者を倒せないのならば…もう私に…生きる意味はっ…」


自らの存在意義を考え直したが、答えは出ない。多くのしがらみの中で、徐々に目標を見失いつつあるゲホーデンだった…


次回に続く


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風に揺らぐ宿木の影は邪を映す ニラたま @Niratama1013

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