『無垢の怪物─Geschöpf,Liebe.─』感想

タイトル:無垢の怪物─Geschöpf,Liebe.─


作者:メイルストロム


作品URL:https://kakuyomu.jp/works/16817139559064849305


キャッチコピー:私に『 』を教えて下さい、マスター。


あらすじ:

──愛せないなら、なぜ作った。


あるとき、始まりの怪物は創造主へと尋ねたという。


その重く短い問いになんと答えるべきなのだろうか?

なんと答えればその怪物は納得したのだろう?


愛していると伝えたところで怪物は否定するだろう。

さりとて作り上げた理由を説明しても理解されない。


造物主と被造物。両者の関係性が変わらぬ限り、怪物が求める答えは埋まることのない溝として横たわり続けるのだ。

故に人々はゼロから人造人間を創ることを禁じた。

元となる魂を、人格を与えることで親からの愛を求めぬようにしたのである。


こうして怪物の存在は御話の一つへと成り代わり、人々の記憶に残り続けることとなった。


──しかし、人は同じ過ちを繰り返すものである。


人造人間技師の一人、ルーザー・アンブロシアは自らの願いの為に禁忌を犯すことを選択した。


産まれ落ちた第二の怪物は、最初の怪物と同じ疑問を抱き同じ末路を辿るのか?

それとも異なる結末を迎えることができるのか?──





※本作品はSF(スペキュレイティブ・フィクション)的要素を多分に含みます。ご了承いただいた上でお読みいだくようお願いします。


また現在改稿作業を行っております。

改稿済みのものにはver.1.1がついております。


読了時の文字数:99000文字連載中


送った星:☆☆


送ったレビュー:『人か、怪物か。それを問うあなた自身は怪物じゃないと言いきれるのか?』

作者さんお得意の、『重厚』という言葉すら軽く感じられてしまうようなヘヴィでシリアスなダークファンタジーです。

軽い気持ちで読み始めると、恐らく後悔するレベルでしょう。しかし一度足を踏み入れてしまえば、その極限まで練り上げられた文章と設定に、きっと目が離せなくなるはずです。

フランケンシュタインの怪物や人造人間をテーマに、生と死、人間と被造物、優しさと暴力が相反しつつ渦巻く世界の中で、希望と絶望が濃すぎるくらいに色濃く表現されています。

よくこんなモン(褒め言葉)思い付くなって。そう感じさせる物語でした。まだまだ続きが気になります。



感想

ラスボス第一関門。本当は昨日レビューするはずでしたが、体調不良により一日ズレ込みました。

読者の肉体にもメンタルにもダメージを与えてくるタイプの重量級作品です。しかしこれがまた面白い。


かの有名なヴィクター・フランケンシュタインと同じ姓を持つヴィクトール・フランケンシュタインは、死体から新たな生命を生み出す技術を確立させてしまう。

それから100年後。世界には人造人間の技術が普及し、様々な問題を抱えつつも、『造物主』と『被造物』は互いに欠かせない存在として共存していた。

優秀な人造人間技師の『ルーザー・アンブロシア』は、自らが造り出した美しき無垢な少女『シオ』と共に、慎ましく穏やかに生活していた。

しかしある日、突如として『安魂教会』の刺客に襲撃され、二人は離れ離れになってしまう。

『マスター』と呼んで慕うルーザーと再会するためシオは命からがら、非合法が跋扈する街を訪れるが、そこで彼女が目撃するものとは――。


序盤はルーザーとシオの微笑ましい共同生活が見られるので、「おっ、この作者さんにしては珍しく美少女ヒロインとのイチャイチャ同棲ライフが楽しめるのかな~?」と期待して読み進めていったら、見事に裏切られました。前回の感想企画で読んだ作品のことを思えば、引っかかるはずのないトラップだったのに……。

文章的にも世界観や設定的にも、ライトなWeb小説を読むつもりで触れると大怪我します。異世界ファンタジー好きの純粋無垢なキッズ達にはオススメできません。人造人間とはいえ、ヒロインがダルマにされるのは尖りすぎだって!


そんな感じで解体されたり引っ付けたりといった描写が普通に出てきますが、それもまた単にグロいとか悪趣味というわけではなく、気迫すら感じさせる文章によって、ファンタジーながら実際の医療行為を間近で見ているような気分にさせてくれます。


ライトな文体とは対極にあるような書きっぷりですが、読みにくいとか冗長ということはなく、とにかく先へ先へと読み進めたくなってしまうパワーを持っています。

そこに『帰還者』だったり『安魂教会』といった様々な造語・設定も大量に出てきて、作品全体から質量を感じるほどのガッチリ固まった世界観が伝わってきました。


過去作の時もそうでしたが、暴力や絶望や理不尽をこれでもかと表現することによって、逆に他者の優しさや愛情、微かな希望というものが強く光り輝く作風になっています。人がゴミのように死ぬことで、生きることの尊さが浮かび上がるんだね。

こういう『大作』を生み出せる作者さんは、本当に尊敬します。


ただ星2つにした理由としては、テーマに対してもう少し個性が発揮されてほしかったなと感じたからです。

文章や設定、ハードな展開は唯一無二だと思いますが、根底のテーマとしての『フランケンシュタインもの』『人造人間』、『生と死、人間と非人間』という要素は、王道と言えば王道ですし、普遍的でありふれていると言えるかもしれません。

そういうテーマ性だからこそ、各作者の思想や信条、哲学というものが色濃く作品に反映されるとは思います。

ただ現在約10万文字の段階で、まだまだ前半戦といった感じなので、そういった部分が未だ強く見えてこなかったため、星2つにしました。

そういう点で言えば、過去作の『Save Us From Dream』は設定も世界観もストーリーも何もかもがオリジナリティに溢れていて、連載中でも星3つを出しましたね。


とはいえ前々から言っていますが、基本的に星3は完結作に出したいという自分の方針も関係しています。連載中で星3はかなりの特例です。自分の中では。

10万文字に到達してもシオのストーリーはここからが本番でしょうし、今後の展開で間違いなく星3に変わるだけのドラマ性やメッセージ性が出てくると思います。「最終的な評価を下すにはまだ早すぎる」という意味で、星2にしたわけです。


万人受けする内容や作風ではなく、かなり人を選ぶ作品だと思います。しかしその『選ばれた読者達』からは、確実に高評価を受け、強く心に刻まれる物語となっています。そういう作品を生み出す技量が本当に優れている。


今後のストーリーに期待です!

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