第8章

第21話 8

 家に帰り着く一つ前のバス停で、勇太と貴奈は祥二に捕まった。

「おい、お前ら。連絡もしないで、どこに行くつもりだ?」

「……。家に帰ろうと。」

「……。一言、連絡ぐらいしてもいいだろ。電話もできないってか。」

「すみません。なんか、急にスマホの電源が切れちゃって。」

「ああ。ちょっと待て。」

 何かいらついた様子で話していた祥二は、電話がなった。

「はい。千哉さん。大丈夫です。今、見つけました。二人とも無事です。怪我も無し。襲われたわけじゃないので、安心して下さい。なんか、電話の電源が急に切れたと本人達は言ってます。まだ、これから詳しい話を聞くところです。……ええ、はい、分かりました。

 それで、アリアさんの具合はどうですか? 昇君大丈夫です?」

 何か千哉から聞いて、うんうん、と祥二は繰り返し頷いた。

「痣ですんで良かったっすよ。ほんと。至近距離からでしょ? たれたの。昇君も花月ちゃんも何もなくて良かった。」

 はあ、と祥二は心底安堵したように息を吐く。

「え…? えぇ!? まあ、分かりました。……そりゃ、多少はちょっと引きますよ、その提案。でも、安全が最優先ですもんね。分かりました。…はい。そしたら、こっちは任せて下さい。……はい。……また、連絡します。アリアさんにお大事にとお伝え下さい。…はい、じゃ失礼します。」

 勇太と貴奈は顔を見合わせた。一体、何の話をしているのだろう。言っている意味が分からない。“撃たれた”と言ってなかったか?

「お前ら、どんだけ心配したか、分かるか……!」

 祥二が怒っている。平日なら人がいるが、かえって日曜日で周りに人がいなかった。貴奈がびくっと身を引く。

「いいか、お前ら。心して聞け。今日、お前らが戻らなかったのは、不幸中の幸いだ。もし、戻ってたら、お前ら犯人と鉢合わせしたかもしれない。」

「…犯人って?」

 勇太の質問に、祥二が大きなため息をついた。

「アリアさんが撃たれた。お前らが出かけた後だ。もし、帰ってきてたら、逃げる犯人と鉢合わせしてたかも。そうなれば、お前らも場合によっては口封じされたかもな。」

「え!?」

 勇太と貴奈は顔を見合わせた。

「昇君がちょうど出てきてしまって、危なかった。でも、犯人は子供が出てきたことで、動揺して逃げ去ったらしい。頭に銃口を向けたが、できずに腹の辺りを撃って逃げたそうだ。」

「でも、それじゃあ、大丈夫なんですか?」

 貴奈がおろおろした声を出した。

「大丈夫だ。ちゃんと防弾ベストを着ていたさ。」

 二人は目をしばたたかせた。防弾ベスト?

「まあ、秘密があってな。聞くな。どうして持っているのかは。それでも、撃たれた所はあざができて、内出血しているようだ。激痛で動けないって。昇君も、花月ちゃんも無事だから心配ないって。」

「良かったー!」

「ああ、びっくりした。」

 二人がほっとすると、きびしい顔で祥二がにらんだ。

「そんな時にお前らがいなくなったから、焦っただろうが。どんだけ心配したことか。お前らがさらわれたのかとか、本当にびっくりしたんだぞ。トイレにいないし。こっそり、女子トイレまで入ったんだぞ。冷や汗かいたわ。」

 ショッピングモールで男に言われたことがあったが、祥二の様子からすると、悪い人にはどうしても見えない。

「すみません。あの、ここで立ち話もなんだし、近所の公園に行きますか? 近くに自販機もあるし。飲み物くらい、おごります。」

 勇太が言うと、祥二はうなずいた。

「そうだな。ずっと走ってきたから、汗かいた。」

 三人は公園の遊具にそれぞれ座った。今の時間に人はいなかった。みんなゲームにはまっているのだろうか。

 祥二は仲間の車と自分の足でずっと走って来たそうだ。おそらく家に帰ったんだろうと見当をつけてきたらしい。千哉とアリアには家がどこか話してあった。

 そこで、勇太と貴奈は、素直に祥二にもう一度謝罪して、ショッピングモールで会った男と女のことについて話した。

 男の服装について話すと、祥二は考え込んだ。スマホを操作し、写真を勇太に見せる。

「もしかして、この男か?」

 防犯カメラの映像だろうか。鮮明ではないが似ているようだ。

「たぶん。ほんと、背も高くて俳優みたいな感じでした。」

「顔見てないんだろ?」

「はい。見たうちに入らないっていうか。一瞬、俺の後ろに立つ前に見たくらいです。チラ見した感じ。」

「まあ、確かに当てになんないな。女の方については分かんないな。うーん。これじゃあ、ダメだな。」

「写真無いのか、残念だな。ほんと、美人だったんですよ。色気っていうの、こんな感じだって。」

 貴奈が少し元気を取り戻した。さっきの話を聞いて、落ち込んでいたのだ。電話もしなかったことを。

「色気と美人は違うと思うが……。色気のあある美人なら分かる。」

「たぶん、それです。色気のある美人。」

 貴奈は頷いた。

「たぶんだが、男の方はシャイン・アイズのけっこう、上の方のヤツかなー。リセットの本部の方から、要注意人物として上がってたヤツかもな。無事で良かったな、お前ら。」

 やっぱり、そういう裏情報が入っている様子からして、リセットもグレーな組織かもしれないと勇太は思った。

「それで、何を引いてたんですか? 千哉さんから何か言われて、言ってましたよね。引くって。」

 勇太が聞くと、祥二が困ったように鼻をかいた。

「それがさ、千哉さんがお前らが危ないから、勇太、お前の家に俺が泊まれってさ。俺、一応、合気道五段だし。」

「ええ、そうなんですか!?」

 勇太と貴奈が驚くと、祥二はうんと頷いた。

「まあ、そうだよな、いきなり泊まれって言われても、お前の親に何て言うかってあるしさ。」

「そうじゃなくて!」

「あ?」

「鈴木さんって合気道五段だったんですね!」

「……ああ、そこに、驚くの? 親への言い訳とか考えなくていいわけ?」

「そりゃ、考えますけど、凄いじゃないですか! 全然、武術の黒帯持ってる感じがしないもんな!」

「こら、失礼だよ、さすがに!」

 貴奈に注意されて、さすがに勇太は頭をかいた。

 祥二は二人には言わなかった。リセットのメンバーが昨日、何者かに殺害されたことを。二人が出かけた時は、まだ連絡が来ていなかった。その後に分かり、祥二には連絡が入っていた。そして、続けてアリアの襲撃しゅうげき事件。急に事が動き始めていた。

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