第22話

 京太郎は何とか上層部を宥めた。涼が暗殺を失敗したことで、上がかなり怒っていたからだ。確実に殺すだろうと、オートマとさえ言われている涼を選んだのに、その涼が失敗したからだ。

『今回だけだからな! 次はないぞ!』

 なんとか許して貰えたが、今までも楽な仕事ではなかったのに、心証を悪くしたせいで余計にきびしくなる。評価が辛くなるからだ。

 その時、スマホのバイブが鳴った。車の中で確認すると、一件の動画がメールで来ていた。

「!!」

 思わずスマホを取り落としそうになる。そのスマホが光り、電話が鳴った。

『………リリーか。何の用だ?』

 知らず声が冷たくなる。リリーの話を聞いているうちに、思わずスマホを握る手に力がもった。

『余計なことはするな。』

 それだけを言うと、電話を切った。思わずハンドルに突っ伏した。

(……桂香。お前を守れなくて、すまない。私のせいだ。私がお前を……殺してしまった。)

 送られてきた動画。それは、桂香をリリーがつ場面だった。防犯カメラの映像だ。しかも、防犯カメラがある所ですることか。全てにおいて、リリーはお嬢様で甘いのだ。全て、自分の意のままになると思っている。

 一体、どこなのかは分からなかった。だが、京太郎なら、調べればすぐに分かる。それくらいは自信があった。桂香の遺体はどこにあるだろう。おそらく即死だ。見れば分かる。心臓の真上だ。カメラの映像は不鮮明だが、そのように見えた。悔しくて拳を握りしめる。

 だが、今はそれを捜す時間がなかった。早く涼を捜さないと。何度電話をかけても通じない。ようやく、京太郎は顔を上げた。

 車にエンジンをかけようとして異変に気づき、大急ぎで数メートル先のワンボックスカーの影に隠れた。

 間一髪。

 一瞬、爆風の方が早かった。腕を盾にして顔を守る。直後にドンッッ!!という音がして、炎が巻き上がる。パリンパリン、という音もして車の窓ガラスが砕け散った。

 車が大きかったので、かなり盾になってくれた。タイヤも大きかったのが幸いした。京太郎は無事に済んだ。

 誰が自分を殺そうとしているのか。組織内で京太郎が邪魔な者だろう。この機に追い落とそうとしているのだ。

 京太郎は立ち上がると、駐車場を出た。


 貴奈は家にやってきた人物を見て、ぎょっとした。

「リズ先生、どうして家に……? どうやって、家が分かったんですか?」

 玄関先で、貴奈は思わず後ずさりそうになった。

「やっほ、貴奈。来ちゃった。ちょうど、リズ先生が貴奈の家、捜してたから。律儀だよ、わざわざ落としたハンカチ、届けようと来てくれたんだよ。」

 唯がリズ…リリーの後ろから姿を現した。リリーは先日のように指をピストル型にして、唯の背中に向けた。それは、明らかに脅しだ。唯を殺されたくなかったら、言うことを聞けという。

「すみません、ありがとうございます。」

 貴奈は部屋着のまま、つっかけサンダルを履いて、とりあえず玄関の扉を後ろ手に閉めてハンカチを受け取った。使っているにしては随分綺麗で、買ったばかりのタオルハンカチだ。

「ううん。いいのよ。」

「せっかく来て下さったんですけど、家、ちょっと散らかってて、先生に上がって頂くわけにはいかなくて。すみません。」

「そっか。でも、せっかく来てくれたのに、これで帰って貰うのもなんじゃない?」

 何も知らない唯が言った。ALTの仮面を被ったリリーは生徒受けがいい。外国の美人の先生と仲良くなりたいのだ。貴奈は考えた。仮病を使って家にもどっても唯が危なくなる。だからといって、唯だけを家に入れるわけにもいかない。帰るまで待ち伏せしていそうだ。

「……。じゃあ、近くの公園に行きます?」

「OK,いこ。そこに。」

「すみません、ちょっと着替えてきます。これじゃ、あんまりだし。」

「いいよ、いいよ、すぐに終わるんだしさ。それで。待たせたら悪いじゃん。」

 何も知らない唯は、一旦、部屋に戻って助けを呼ぼうと考える貴奈の考えを邪魔する。

「嫌だ、これじゃ、あんまりにダサいもん。」

「だいじょぶ、だいじょぶ。」

 リリーは唯の後ろで鋭い目つきになり、薄手のコートのポケットに手を入れた。膨らんでいる中身は銃だと思わざるを得ない。

「ほら、いこ。」

「……。」

 貴奈は仕方なく、はしゃいでいる唯の手に引っ張られて玄関前の階段を下りた。

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