第14話
「出たか?」
「はい。」
「青海の山団地行きのバスに乗れ。」
その通りにすると、次のバス停で下りろと指示がくる。さらに、別のバスに乗り、下り…を数度繰り返し、よく分からない住宅街の公園に着いた。
「電源を切って、そこから下にある別の公園に行け。」
言われた通りに電源を切り、歩き出した。下、というので小高い丘の住宅街の坂道を下っていく。
「どこにあるんだ?」
勇太はきょろきょろしていたが、貴奈が見つけた。
「あれじゃない?」
古びた階段の下に、確かに小さな公園がある。見落としそうなほど、小さな公園だ。その公園に行くと、誰もいなかった。遊具も錆びていて、草も一面にぼうぼう伸びている。
二人が不安になりながら待っていると、やがてこの間の男の姿が現れた。野球帽と髪型は同じだが、着ているパーカーは替わっていた。
「ちゃんと来てたな。良かった。何か異変はなかったか?」
祥二に聞かれて、勇太は即答する。
「いや、何もなかったですけど。なんですか?」
「お前は?」
「……。」
聞かれた貴奈は黙り込んだ。急に顔色が悪くなる。勇太はさっきも変だったことを思い出した。
「何かいつもと違うことが一つでもあったら、言え。たとえば、見慣れない車が家の前に止まっていたとか。学校に急に教育委員会を名乗る客人が来たとか。何か急に業者が来たとか。何でもいい。」
「……。何でも無いです。」
答えた貴奈の返答に、祥二が眉根を寄せた。明らかに聞かれた答えに対して、変な答えだ。普通だったら、何もなかったというはずだ。勇太のように。
「とりあえず、お前ら、リセットしすぎ。あんまり同じ場所ですると、向こうに情報を与えてしまう。」
勇太はぎょっとした。なら、最初に言ってくれればいいのに。勇太が口を開こうとした時だった。
「やっぱり、そうだったんですね。そうでないと、なんで、勇太が持ってるか分かるわけないし。」
「お前、やっぱり、何かあったな?」
貴奈は祥二にもう一度問われて、はっとした。
「隠さずに言え。お前達の身の安全に関わる。」
妙に大げさだ。うさんくさいような気がしてきて、勇太は祥二を油断なく見据えた。
「大げさじゃないんですか? 映画やドラマでもあるまいし。それで、保護するからついてこいとか言うんですか? 下心見え見えっすよ。そんなんでのこのこ、ついて行くとでも思ってるんですか?」
勇太が祥二に言うと、貴奈がぎん、と勇太を睨んだ。
「あんたって、本当に脳天気ね! この馬鹿っ! あんた、今日、リズ先生にリセットのスマホ、抜き取られそうになったんだよ! だから、わたし、あんたに電話したの!
そしたら、その後、リズ先生が、あんたを撃つ真似をして、本当にその後、ピストルを出して、狙ったんだから!! 殺されちゃうって、思ったんだから!!」
貴奈が泣きながら叫んだ。勇太は目を丸くして、貴奈の言葉を聞いていた。だから、ずっと貴奈の様子がおかしかったのだ。まさか、リズが近づいてきた目的が、スマホ……。
しかも、どういうことだろう。自分が気に入られたわけじゃなかったことは、何か少し落ち込むが、それ以前にリズは一体、何者なのだ。
「お前、それを早く言えよ…! 言わないから分からないだろうが!」
「何よ、リズ先生といい雰囲気だったのに、電話したから怒ってたじゃん!」
「おい! お前ら、
「分からない。だって、なんで俺がリセットのスマホ持ってるって」
勇太は慌てて答える。
「そうじゃなくて、ALTの先生。金髪に青っぽいグレーの目の、典型的な白人の英語の先生。勇太に抱きついてたんだけど、その手がスマホを取ろうとポケットに伸ばしてるみたいだったから。銃を持ってる手が、本当に様になってて、わたし、怖くて。」
貴奈が横から涙を拭きながら説明を加える。
「本当か?」
勇太は頷いた。
「昼休みに、三年生のリセットした後に、戻ろうと思って、渡り廊下を歩いてたら、リズ先生がやってきて、呼び止められて抱きしめられた。俺、自分に気があると思って、フリーズしちゃって。」
素直に全部答えると、祥二はすぐにスマホを出して、どこかに電話をした。
「祥二です。千哉さん、車、回して下さい。完全に保護しないとヤバいです。すでに、学校に暗殺者がいる。」
暗殺者、という言葉に勇太と貴奈はぎょっとしたのだった。
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