第13話
「はあ、何言ってんだよ、お前。ほんと、お前って調子いいよな。」
貴奈がもうリセットはやめようと言い出すと、勇太はあからさまに不機嫌に言い返してきた。きっと、リズのことでいい気分になっていたから、腹を立てているのだ。
(何よ、単純にスマホ狙いだったって知りもしないで。馬鹿じゃない。)
だが、それを言うと、リズが勇太に銃口を向けていた話までする必要が出て来る。貴奈は言い出しにくくて黙っていた。
「だって、考えてもみなさいよ」
「おい、斉藤。お前、大丈夫か?」
ゴムンに入ろうとして、その店の前で勇太と揉めていると後ろから声がした。貴奈の同級生だ。
「おう、畑山。」
畑山
「お前、昼休みに渡り廊下で叫んでただろ。ちょうど、三階から下りてくる途中で、叫び声がしたから、急いで階段を下りたら、お前が座り込んでた。」
佑は生徒会の副会長をしている。生徒会の話し合いが昼休みにあり、ちょうど貴奈が渡ろうとしていた棟の三階に生徒会室があった。
「顔色が悪かったし何かあったのかと思ったけど、声をかける前に急いで行ってしまったし。大丈夫かと思って。」
勇太は
でも、貴奈の様子が変なのは本当だ。勇太が貴奈を見ると、すっかり彼女の顔色が悪くなっていた。真っ青になっている。
「大丈夫。なんともないよ。心配をかけてごめん、畑山君。」
「なら、いいけど。」
「うん、平気だから。大丈夫。ほんとにごめんね。」
貴奈は努めて平気な素振りをする。
「まあ、気をつけろよ。姉ちゃんもそうだけど、貧血とかあるらしいからな。」
「うん、そうよ、貧血。ちょっとくらっときちゃって、こけそうになったの。大丈夫だから。ありがと。それより、畑山君もゴムンに行くの?」
強引に話を終わらせ、貴奈は佑に別の話を振る。
「あ、ああ、俺?俺は行かない。見かけたから声をかけた。明日、祖父ちゃんの法事だから早く帰って来いって言われてる。今から帰って何時間も車の中。遊びに行く時ならいいけど、休み無しで行かないといけないから、ちょっときついよ。」
「大変だな。車酔いしないようにしろよ。」
勇太が会話に割って入った。
「そうだな。じゃ、またな。」
佑は帰って行った。なんとかごまかせて貴奈はほっとした。
「なんだよ、お前、畑山の前ではお澄まししちゃってさ。なーに、よそ行きの声で喋ってんだよー。」
勇太は佑の前だと急に声色まで変わる貴奈なに対して、腹が立った。そんな柄でもないくせに、ぶりっ子しているようにしか見えない。
「もう…! いいでしょ。別に。」
貴奈はふん、と言って先に中に入っていく。仕方なく、勇太も中に入った。さっきから、腹が立ってばかりだ。実は勇太はコーヒーが苦手だ。それでも、ミルクコーヒーを頼む。貴奈はキャラメルラテとかいう、甘ったるい感じのものを頼んでいた。
二人は並んで座ったものの、お互いに怒ったままで話もせずに座っていた。だが、さっき、佑が言っていた話が勇太は気になった。
「なあ、お前。さっき言ってた話。本当に貧血かよ?」
「……。さっきは貧血になったの。もう、いいでしょ。」
「……ふーん。じゃあ、なんでリセットをもうやめようって言い出したんだ?お前がやろうって言っただろ。」
「それは……。いいでしょ。急に怖くなったの。」
不機嫌な貴奈は、何か勢いよく言おうとしたが、結局言わずにいいでしょ、で終わらせてしまう。でも、そう言われたら追求できない。そのくせ、勇太に対して怒っているのだ。
(リズ先生のことで怒ってるのか?)
そう考えてはっとした。そうだとしたら、貴奈が見ていたことになってしまう。貴奈がその場を見ていた? それで、貴奈がなんで怒る必要があるんだろう。いい迷惑だ。
(……焼き餅?)
でも、貴奈がなんで焼き餅を焼く必要が? 貴奈が勇太のことを好きだと臭わせたことは一度も無い。
「遅いね、鈴木さん。」
しばらくして、貴奈が言った。今日はもう注文したコーヒーが来ていた。あれ以来、店員もロスト・ラヴしたらしくリセットされて、目が覚めたようだ。
「そうだな。」
確かにそうだった。約束の時間を過ぎても、やってこない。この間は五分程度の遅れだったが、今日はすでに二十分以上過ぎている。
「連絡するっていっても、できないよね?」
貴奈が勇太に言ってくるので、勇太はレンタルのスマホに電源を入れてみた。すると、途端に電話が鳴った。バイブでブーンと低い音が唸る。
「…はい、もしもし?」
「お前ら、そこをすぐに出ろ。見張られてる。とりあえず、まずは店を出ろ。」
思わずきょろきょろしそうになる。
「周りを見るな。普通にしろ。普通に勘定して出ろ。まだ、電話の電源を切るな。」
勇太は立ち上がった。
「勘定して、出ろって。」
小声で貴奈に伝える。スマホを待機中にしたまま、勇太は勘定した。貴奈は払ってくれようとしたが、『普通に』と言われたので、いつものように支払った。
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