第7話 ルルカとスーリア先生のドーピング教室


「なるほど、あの竜炎の魔女と呼ばれている彼女が魔女だったとはね」

「それで、彼女に性的に襲われそうになったところを彼女の取り巻きが現れて決闘を申し込まれた…と?」

「は、はいぃ…」


 消え入りそうな声で私は答える。

 昨日の出来事をスーリア先生に語り終えたあと、私は項垂れながら酷く落ち込んでいた。


「うう、どうしたらいいんですかぁ〜…」

「決闘て言われても私戦闘無理だし、それにイライナのこともあるから…なにをどうしたらいいのか分からなくってぇ……」

「昨日の今日で君は酷くやつれてるな」


 そりゃそうなりますよ…。

 あの後は取り巻きの子に睨まれながら退散して、イライナとはロクに話も出来ずに帰ったんだから。

 それに、イライナとはあんな事があってとても気まずいんですよぉ…授業には出ずに保健室でサボってるくらいなんだから。


「むぅ、だがそうだな…一つの目的である魔女を見つけることは出来たんだ、それだけでも上出来だろう」

「しかし、竜である彼女が君を好きすぎるあまりに血を飲ませ続けていたとはね…ちょっと引いたよ」

「なんか私を竜にしたくて血を飲ませてたみたいなんです…昔、会うたびに食べ物を持ってきてくれてたけど、あの中に入ってたんだなぁ」


 まさかそんな意図があったなんて知りもしなかった。

 というか、今になって思い返せばイライナは私との距離がいつも近かった。

 手を繋いできたり、撫でてきたり、抱きついたり…頭のつむじに鼻を近づけて匂いを嗅いでたり。

 友達のスキンシップ程度と思ってたけど、全部私のことが好きだったからしてたんだと今になって思う。


「私ってほんとに鈍感だったんだ…」

「ははっ今更〜」

「ひどい!」


 人が落ち込んでるのに、指差してケラケラ笑わないでくれます!?

 スーリア先生、それでも先生ですか!?


「はは、そう怒らないでくれたまえ、ほぼ事実なんだから」

「だがしかし、君は呪いを掛けられてから随分と酷い目に遭うな…話を聞く限り、イライナとの進展を進めるには決闘を終わらせるのが先だろうな」

「そう、ですよね…なんかあの子、今朝から私のことすっごい狙ってきていて…イライナに会うことすらままならないというか…」

「とんだ執念だな、君はその子になにかしたのか?」


 そう聞かれ、私は下を向く。

 やましいことがある訳じゃないけど、あの取り巻きの子との関係はあまり思い出したいものじゃなかったからだ。

 でも、今は事が事だから…私はつっかえる喉を我慢しながら喋った。


「その、私があの子に何かしたわけじゃないんですが…2年の時、あの子にいじめられてたんです」

「……なに?」

「初めは些細なことで、なにか物を隠されたりとか人混みに紛れて肩を突かれたり、押されたりしてたんですけど」

「イライナと仲良くするたびに、それは段々と酷くなっていったんです…」


 まず最初に、手紙が届いた。

 中身はドラングレイ様に近付くな、という内容で私は不安になりつつも手紙を捨てた。

 大切な友達のイライナを捨てたくはなかったし、なによりこんな手紙を送られて私が素直に従うか!と怒りの感情があったからだ。


 それから次に、取り巻きの子が来た。

 相手は貴族、私に何が出来るわけもなく脅されて魔法でいたぶられて、首から下が痣だらけになった。

 どうして顔をやらなかったのかと言うと、イライナにバレるのを防ぐため。

 当然、イライナにいじめられていることを言いふらせば私はまた囲まれて酷い目に遭う…そう思うと怖くて怖くて仕方なくて、私はいつしか取り巻きの子の言いなりになっていた。


「最終的に、私はイライナを避けるようにしたんです。様付けにしたり敬語で喋ったり、なるべく他人行儀に振る舞って嫌われるようにしました」

「そうしていれば、取り巻きの子達にいじめられることは減ったからよかったんですけど…」


 でも、イライナがあれだけ悲しい顔をしていたのは胸が締め付けられた。

 私はいじめられるのが辛くて、イライナから逃げ出した卑怯者なんだ…。


「なるほど…………このっ!」

「あいたあっ!?」


 下を向いてある程度話し終えると、私のおでこに焼けるような痛みが走る。

 声を上げながら横転すると、スーリア先生はものすごい不満顔で私を睨んでいた。


「な、なにするんですかぁ!」

「デコピンだ、魔力を乗せて撃ったちょっと強めのな」

「だから焼けるように痛いんだ!?」

「って、なぜにそんなことするんですか!される理由ないと思いますけど!」

「あるに決まってるだろう!なぜ早くいじめのことを言わなかったんだお前は!」

「私は保険医とはいえ教師だぞ!その時言ってくれれば助けになってやったのに!」

「だからってデコピンは………ってあれ?先生が心配してくれてる!?」


 意外!と驚くと先生が心外そうに「あのなぁ…」と呟く。

 だって私が呪われた時ケラケラ笑ってたじゃないですか!


「…まったく、私だって君のこと心配してるんだぞ…心配してなかったら君に呪いの解除薬なんて渡してないからな…」

「あ、その…ありがとうございます」

「ふんっ…」


 不満気に鼻息を荒げつつも、ちょっと照れて顔を背けるスーリア先生。

 意外な一面があるんだなと思いつつ、スーリア先生はこほんと咳払いをして会話を続けた。


「さて、まず関門として決闘の件だ」

「君の実力と彼女の実力には大きな差がある、その上決闘に勝たなければ呪いの解除は永遠にできない…そうなると勝つ方法としては…」

「修行……ですか?」

「ドーピングだな」

「ずこーっ」


 アウトじゃん!!?

 バリバリにアウトじゃん!!


「それダメなやつでは!!?」

「ははっ、バレなければなんとやらだ」

「いやそれいつかバレます!!」


 ははっじゃない!いい笑顔で言い切らないで!さっきまでのカッコいい先生はなんだったの!


「まあ、危険なことをする訳ではないさ…例えば魔力量を上げるなり、身体能力を上げるなりと決闘前にすることはするべきだ」

「…で、でもそれほんとにいいんです?」

「元来、魔法使いとはそういうものなんだがな、君は普通の女の子で魔法使いらしくないとたまに思うよ」

「む、むぅ…」


 それが私の強みなんですけど…なんて膨れっ面ではぶてながらも、確かに思うところはあったのだ。

 イライナの気持ちを知らなければ、私は今頃決闘と聞いて逃げ出したと思う。

 

 イライナに襲われて、あんな目に遭って尚…私がイライナのことを思うのは、呪いのことだけじゃない。

 あのとき浮かべた悲しそうな顔が、つっかえた骨のように残るから…私は。


「で、でも…勝てる方法がないなら、やります!」


 決闘に勝って、あの取り巻きの子との間にあったわだかまりを消す。

 そして、イライナに謝る…!あと話すこと話して呪いを解いてもらう!そのためにも!


「力を貸してください!スーリア先生!」

「フッ、君のそういうところ私は好きだよ」

「さて、ドーピング実験としてこれを飲んでみようか」


 覚悟を決めたのも束の間、先生が自慢げに取り出したのはゲル状の緑の液体。

 とてつもない腐臭を漂わせるそれは、はっきり言って人間が飲むべきものではないのだけど……。


「ささ♪」


 先生は本気で言っているようだ。


「……あ、なるほど」

「なら、はい」

「だいじょうぶです」

「それじゃあ、しつれいしまーす…」

「まあまあまあまあまあまあまあまあまあまあまあまあまあ!!」

「ちょっ!人が教室から去ろうとした瞬間ものすごい歩幅で詰めて肩を掴んできたんだけど!」

「あの、やばいっ!!先生の力つよすぎる!」

「もしかしてこれ!ドーピングとかそんなの建前で、先生が作った魔法薬の実験なんじゃ!?」

「………ニコっ!」

「ほぅらやっぱり!!!」


「あっ、ちょっ…やめ、やめろーーーーーーーー!!!」



「不愉快なのだけど」


 地獄の奥底から響くような重い声が部屋に児玉する。

 その声が届いて尚、絡まるような声の取り巻きの彼女は反抗的な声で答えを返す。


「ドラングレイ様、何度も言いますけど私はあの下民を認めてませんから」

「…何度も言いますが、ルルカはわたくしが選んだ番い…あなたに邪魔されるいわれはないのよ」

「でも私はドラングレイ様のためを思って」


 怒りをあらわにした態度を前にしても、彼女は一歩も引かず「わたくしのために」とそのようなことを言ってのける。

 その言葉に苛立ちを覚えながら、わたくしは我を忘れ牙を立てながら震えた声で言いました。


「ために?わたくしとルルカの時間を邪魔しておいて…あなたはよくそんなことを言えますわね」

「それに、決闘の件はわたくしは認めてなどいませんわ、さっさと撤回しなさい」

「それは出来ませんドラングレイ様」

「あなたは本当に…!どうしてわたくしに拘るのかしら!?」


 家に執着する小物貴族とばかり思っていたのに、わたくしに対する執念に疑問すら覚える。

 しかし彼女は喋らず黙ったまま、わたくしに近付きました。


「あんな下民、ドラングレイ様にふさわしくありません」

「何度もいいますが、それはあなたが決める物では」

「なら、なんであの下民はドラングレイ様から離れていったんです?」

「………」

「敬語を使ってペコペコしてるようなあの下民は結局ドラングレイ様の家のことしか考えていないのです、そうでなければ離れるわけ…」

「やめなさい」


 早口になり、熱が困り始めた時にわたくしは止める。

 わたくしは、痛いところを突かれ…言葉を失っていました。

 彼女の言う通り、ルルカは一度わたくしの元から離れていっている。

 好きだったのに、愛していたのに…ルルカは突然人が変わったように敬語を使って、わたくしの元から去っていった。


 ただ一人の友人なのに、特別な友達だとルルカは言ってくれたのに。

 わたくしは一人取り残されて、ルルカは他の女と仲良くしているのを見せつけられて、どれだけ心が痛かったか…。


「…もういいですわ、話していても何もないですし」


 気分が悪くなり、わたくしは背を向ける。

 そして、ルルカのことを想いながら私達はその場から去るのでした…。


急ぎで書いたので若干物語の展開が変だと思いますが許してください。

ちなみに前回の話で取り巻きちゃんが邪魔してこなければルルカは拉致監禁されたあと、おたのしみになって血を飲まされ続ける運命になります。

書く時間ができたら、多分書きます。

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