第40話 リナ、内閣総理大臣に会う【令和八年】

 私、アリサ、チャコ、ウォンダさんの四人は賢者の白いワゴン車で、永田町の首相官邸かんていへ移動した。


 運転手は黒スーツを着た男性賢者だ。


「う、うわ~……。ど、どうしよう。総理大臣に会うなんて……」


 私が対面型の対座たいざシートでわめいていると、チャコもため息をついて言った。


「ちょっと信じられないですよね。本当に会ってくれるのかな」

「この国の一番偉い政治家に会えるのか。あたしはワクワクするね」


 アリサがそう言ったので、私とチャコは苦笑いした。


 首相官邸かんていの門の前に到着とうちゃくすると、男女の官邸警務官かんていけいむかんが二人立っていた。


 ひ、ひええ……。


 この二人、メチャクチャ私たちを警戒している感じ……。


 官邸警務官かんていけいむかんの二人は私たち三人の学生証を確認し、体を金属探知機でくまなく調べた。


 もちろんウォンダさんも入念に調べられていた。


「へ、へえ。中はきれいなんだね……」


 正面玄関から首相官邸かんてい内に入ると、私は思わず声を上げた。

 

 天井や壁に美しい木材を使用しているのが確認できた。


 中庭には日本的な竹林が見える。


 でも――会議室で首相と会ったら何を話せばいいの?


 緊張きんちょうで体が強張こわばっている。


「ねえアリサ。首相に会ったら、余計なことは言わないで下さいよ。今から会うのは総理大臣なんですから」


 チャコがアリサに注意すると、アリサは口をとがらせた。


「へっ、別にあたしは普段と態度を変えないぜ。なめられんの嫌だからな」


 アリサ! なめられてもいいから、おとなしくして~!


 ――私たち四人を案内してくれたのは、さっきの女性官邸警務官かんていけいむかんだ。


 エレベーターで四階に行き会議室に入ると、そこにはテレビやインターネットで見覚えのある背の高い中年男性が立っていた。


 恐らく年齢ねんれいは六十代前半だと思われる。


 うわあああ! い、いた! ほ、本物の総理大臣だ!


「ようこそ善川ぜんかわさん、アリサ、オルフェスさん、今里さん、ウォンダ・レクイヤーさん。私は城山しろやますぐるです」


 張りのあるよく通った声が会議室にひびいた。


 彼こそ日本の内閣ないかく総理大臣、城山しろやま首相だ。


 女性に人気があるらしく、実際に見るとまるで俳優のように顔立ちが整っている。


「君、四人に何か冷たい飲み物を」


 城山しろやま首相は先程の女性官邸警務官かんていけいむかんに言った。


 おや? 首相の隣に座っているのはスーツ姿の年配の女性だが、どこかで見たような気がする。


「あの女の人……誰だっけ……」

「元アナウンサーの三条さんじょう奈津子なつこさんです。今は防衛大臣ですよ」


 チャコがそう私に耳打ちしたので、私は驚いた。


「うわ! あのナツパン!」

「リ、リナ、声が大きいですよ。そうです、フジテレビのナツパンアナです。最近は知名度を生かして政治家になるケースが多いですから」


 城山しろやま首相は私たちに丁寧ていねいに言った。


「どうそお座りください」


 私たちは緊張きんちょうしながら、城山しろやま首相と三条さんじょう防衛大臣の正面に座った。


 りんごジュースが運ばれてきて、それを飲んでいると城山しろやま首相は口を開いた。


「君たちがゼッコン様を打倒だとうし、日本を救ってくださっているのは知っています。そのご活躍かつやくに心より感謝、尊敬を申し上げたい。ただ、今日は時間が無いので用件を手短てみじかに申し上げます」


 城山しろやま首相は私たち四人を見回した。


「どうか浄界じょうかい日本に上陸し、皆さんの力で我が国を救っていただきたい!」

「待ってください、城山しろやま首相!」


 ウォンダさんがあわてて口を開いた。


「その作戦は恐ろしく難易度なんいどが高いものです。この三名の子どもたちにまかせるには――、彼女たちには実戦経験が少なすぎます」

「……理解しています。しかし、ゼッコン様や邪霊物じゃれいぶつは自衛隊の兵器では殺せない。どうか頼みます……。我々は大人です。本来は君たちを守らなければならないことは分かっています。しかしはじしのんで、三人に浄界じょうかい日本上陸作戦を依頼します」


 城山しろやま首相は私たちに向かって頭を下げた。


「私からもお願いします」


 三条さんじょう防衛大臣も口を開いた。


横須賀よこすか地方隊に所属する海上自衛隊百名を、あなたたちの護衛ごえいにつけます。また、『おおすみ型輸送艦ゆそうかん』と『エアクッション型揚陸艇ようりくてい』も用意します。装甲そうこう車二台も海上に待機たいきさせる予定です」


 ず、ずいぶん大事になってきて私はあせった。


「しかし……それだけでは作戦の攻略は難しい」


 ウォンダさんは考えながら言った。


「仮にこの子たちは浄界じょうかい日本に上陸できたとして――。ゼッコン様との接触せっしょくまで、どのくらいの距離をどのように移動するのですか?」


 すると、ウォンダさんの言葉を聞いた城山しろやま首相が口を開いた。


「ウォンダ・レクイヤーさん、あなたが提案ていあんし開発途中になっていた新型EOSイオスコートが、先日完成いたしました」

「えっ?」


 城山しろやま首相の言葉を聞いて、ウォンダさんは声を上げた。


 新型EOSイオスコート……?


 ウォンダさんはあわてて言った。


「まさか! あのEOSイオスコートは実現不可能だと考えておりました」

「いえ、実現できたのです。賢者の開発部と日本政府が秘密裏ひみつりに開発を続けていました。えーっと、三条さんじょう防衛大臣、正式名称は何だっけ?」


 首相が三条さんじょう防衛大臣に助けを求めると、彼女は口を開いた。


「正式名称は『量子りょうしステルス26にいろく式EOSコート』です」

「そ、それはどんなものなんですか?」


 私は初めて首相と防衛大臣に向かってしゃべった。


 私自身はまだ、浄界じょうかい日本の上陸作戦に参加するのを恐れていた。

 

 でも、とにかくこの作戦に参加すると、どんな装備をして、どんな協力者がいて、どんな行動をとらなければならないのかを知っておきたかった。


「簡単に言えば、透明とうめい人間になれる防護ぼうご服です」


 三条さんじょう防衛大臣は静かに言った。


 と、透明とうめい人間~……?


 私とチャコ、アリサは顔を見合わせた。


 透明とうめい人間になれるなんて、そんなことが可能なのか?


 量子りょうしステルスとは一体なんなのだろう?


「詳しい説明はウォンダ・レクイヤーさんにお聞きになると良いでしょう。さっそく今、新型EOSイオスコートをご用意しますので、持って帰っていただきたく思います。――皆さんがこの作戦に参加してくださるかどうか決まったら、ご連絡ください」


 城山しろやま首相はそう言い、防衛大臣と一緒いっしょにまた頭を下げた。


 何だか本当に大変なことになってきた……。


 そもそも、この作戦に私自身は参加するべきなんだろうか――?

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