第38話 リナ、満身創痍で授業訓練に参加する【令和八年】

 その日から私は授業訓練でいそがしくなった。


 私たち女子戦闘科第三クラスは、外の広場で小銃しょうじゅう射撃しゃげき訓練の授業を行うことになった。


 24にいよん人力砲じんりきほうを使用するのは驚くほどお金がかかるので、訓練では小銃しょうじゅうを使うらしい。


 アリサやチャコ、他のクラスメートはすでに射撃しゃげき訓練を経験み。


 私だけ未経験なのでかなりあせる。


 しかも……。


「リナ……お前、大丈夫かよ」


 フラついて射撃しゃげき場のベンチに座ろうとしている私に、アリサが声を掛けてきた。


 実は、私の体はまだ熱っぽい。


 医者はもう、心臓移植の拒絶反応はほぼ治ったと言っているのだが……。


 私やアリサ、チャコ、他の生徒はベンチに座り、射撃しゃげきの順番を待った。


「いつものように射撃しゃげき訓練は、自衛隊が使用する20にいまる小銃しょうじゅうを使う!」


 ウォンダさんが教官だ。


(体がだるいなあ……)


 私は思わずつぶやいた。


 まだ浄界じょうかいのリナの心臓が、体に慣れきってないのだろうか。


 それに私は、浄界じょうかいのリナを殺してしまったも同然どうぜんだ。


 訓練などする気力がどうもいてこなかった。


 だけど、授業訓練を受けないと皆においていかれてしまう。


 あせる……!


善川ぜんかわリナ、何をしている! あなたの番ですよ! すぐに射撃しゃげき用意!」


 ウォンダさんが叫ぶ。


 私は渋々しぶしぶ小銃しょうじゅうを持って準備した。


 手が震える。


 こんなことでまとねらえるはずがない。


 だけど自分に負けたくない……!


 そのとき――。


「おら、善川ぜんかわリナ! ゼッコン様を倒した実力ってのを見せてもらおうじゃん。どうせまぐれで倒してきたんだろうが」


 ベンチに座っている坊原ぼうはらモニカが、私に向かってはやしてきた。


 反端はんばた葉子はここと、パン子も私に向かって叫ぶ。


「早くてよ、善川ぜんかわ~! はやく笑わせてくれよ」

「おい! お前らまたかよ! いちいちうるせえんだよ!」


 再びアリサがモニカとパン子に向かって叫んでいる。

 

 くやしい……。


 私はモニカやパン子の言葉に負けるのか?


ちの姿勢点検てんけん始め!」


 ウォンダさんが叫ぶと、私はあわてて地面に腹ばいで寝そべった。


たまが入っているか点検てんけんしなさい。三回連続、手動で――射撃しゃげきよーい、て!」


 まだ頭がクラクラする。


 手が震える。


 何とか止まって!


 ん? そのとき頭の中で不思議な声がひびいた。


(大丈夫だよ。まとをよく見て)


 ……あれっ? まとに当たる気がする。


 手の震えが少し止まった。

 

 よ、よし、やるぞ!


 私は小銃しょうじゅうの引き金を引いた。


 一回――。


 二回――。


 三回――!


 小銃しょうじゅうの反動が、私の手の感触かんしょくに残っている。


ち方め! 安全装置確認して!」


 ウォンダさんがまとの確認をしに行った。


 ど、どうなった?


「……うん、よくやったわね!」


 ウォンダさんが声を上げた。


 結果は――三発中――全弾ぜんだん命中!


 しかも全弾ぜんだんまとのど真ん中を貫通かんつうしていた。


「すごい!」

「やったあ!」


 アリサとチャコが声を上げた。


 ど、どうなってんの?


「え? な、何それ? あいつみあがりじゃなかったっけ?」


 モニカの驚いた声が聞こえた。

 

 パン子もあわてた声で何か言っている。


「ま、ま、まぐれだよ、モニカ! よ、弱虫リナは仲間がいないと何もできないヤツだよ」

「すごいじゃないですか、リナ!」


 チャコが声を掛けてきた。


射撃しゃげきに慣れている私だって、真ん中に当てることは滅多めったにできないのに」


 次の小銃しょうじゅうの分解と結合けつごうの授業も、私は七分でクリアしてしまった。


 普通は十分はかかるらしい。


 アリサとチャコ、モニカとパン子、他のクラスメートも目を丸くして私を見ていた。


(あなたと私の力が合わされば、あなたの能力が格段に上昇するみたいね)


 また不思議な声が私の体の中で聞こえた。


 ……誰? まさか……。


 私が考えていたとき――。


士官しかん学校生徒諸君しょくん、全員に知らせる!』

 

 放送がかかった。


『ゼッコン様――および邪霊物じゃれいぶつとの戦闘にそなえよ! これは訓練ではない! 実戦である』


 私たちに戦慄せんりつが走った。


 またあの戦いが始まるのか――!


 ◇ ◇ ◇


 私、アリサ、チャコは賢者大神殿後ろの室内庭園ドームに呼び出された。


「日本各地で邪霊物じゃれいぶつの確認がされています。日本各地の卑弥呼ひみこ鬼道きどう士官しかん学校の生徒たちは、邪霊物じゃれいぶつ排除はいじょを本格的に始動しました。戦闘に参加しない生徒たちは武器の調整をしたり、スペアの道具を作成したり、それぞれ役割があります」


 ウォンダさんは私たち三人を見て言った。


「さて、ゼッコン様は邪霊物じゃれいぶつの中でも強敵――。生徒から選ばれたリナ、アリサ、チャコでないと打倒だとうできない邪悪な生物。ほこりをもって戦ってください」


 ウォンダさんは少し考えてから、自分のスマートフォンを取り出した。


「私たちの敵、浄霊天じょうれいてん教から……つまり浄界じょうかい日本から専用SNSに連絡がきています。すでに私が彼らの応対をしました。各自、自分のスマートフォンでSNSを確認してください」


 私たちは顔を見合わせた。


 またSNSで連絡がきた?


 ……浄霊天じょうれいてん教って何なの?


 私はすぐに士官しかん学校で支給しきゅうされたスマートフォンを取り出した。


 そして普段は使用不可になっている士官しかん学校専用のSNSを起動した。




浄霊天じょうれいてん教『お久しぶりです。卑弥呼ひみこ鬼道きどう士官しかん学校の皆様。今回もゼッコン様があなたたちと戦うことになりました。今回、我々と戦うのはどなたですか?』


ウォンダ・レクイヤー『善川ぜんかわリナ、アリサ・オルフェス、今里いまさと千弥子ちやこ。以上』


浄霊天じょうれいてん教『いつものメンバーですね。では、今回は浄霊天じょうれいてん教の本部がある浄界じょうかい日本に来てください。お待ちしております』


ウォンダ・レクイヤー『なんですって?』


浄霊天じょうれいてん教『我々の浄界じょうかい日本に来る方法はおまかせいたします。では、ゲームをスタートしましょう』




「こ、これ……」


 私は声を上げた。


「私たちが浄界じょうかい日本に行くってこと?」


 私が声を上げると、ウォンダさんはくちびるみしめてだまっていた。


 確か浄界じょうかい日本って、太平洋のハワイの上あたりにある大陸だっけ?

 

 い、一体――どうなる?


 私たち三人は、本当に浄界じょうかい日本に行くことになるのだろうか?

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