第33話 PROJECT.U=現し世計画【浄界八年】

 この巣鴨プリズン跡地あとちの入り口――フェンスのほうで――。


 耳にひびくような衝撃音しょうげきおん――いや、爆発音が起こった。


 入り口のほうでけむりが上がっている。


 フェンスには大穴が開き、さっきの斗桑とくわ氏とライアン氏がゆっくり入ってきた。


「き、来たっ! あいつらだ!」


 山内レイジが声を上げた。


「ダイナマイトか何かの爆発物でフェンスを破壊したな」


 黒生こくじょう刑事が入り口の黒煙こくえんを見て舌打ちする。


黒生こくじょうさん、すでに整備はできております! 早くヘリコプターに搭乗とうじょうしてください!」


 整備員の一人が声を上げた。だがその時――!


善川ぜんかわ! 危ない!」


 山内レイジが私の前に立った。


 そのときちょうど、かわいた破裂はれつ音がした。


「あっ、ぐう」


 えっ……!


 私が気づくと、山内レイジが私の前でひざまづいていた。


 地面には血が広がっている……。彼の太腿ふとももから血が出ている。


 ま、まさか!


「我々、浄霊天じょうれいてん教から逃げようとするからだ!」


 斗桑とくわ氏が拳銃を持ちながら叫んだ。


 また整備員たちが倉庫から出てきた。


 計八名の整備員が山内レイジを守るように彼を囲んだ。


 ライアン氏が拳を鳴らしながらズンズン近づいてくる。


 と、斗桑とくわって人、拳銃で山内レイジを……ったの?


 山内レイジは私を助けようとしてくれたの?


「いやあああっ!」


 私が叫ぶと黒生こくじょう刑事は私の手を引っ張った。


善川ぜんかわリナ! 早くヘリコプターに乗れ!」

「ダメ! 山内君はどうなるの? 彼は私を助けてくれたの!」


 私が叫んだとき、山内レイジはかすれた声で怒鳴った。


善川ぜんかわ! 行け!」

「だって! 君、血が出てるよ!」

「だ、大丈夫だ! 左腿ひだりももたれただけだ。そんなことより、お前らが殺されるぞ」


 山内レイジがまた叫ぶ。


 すると黒生こくじょう刑事は私を、ドアが開いたヘリコプターの副操縦ふくそうじゅう席に押し込んだ。


 黒生こくじょう刑事は右の操縦そうじゅう席に乗り込む。


「安全ベルトをしろ! ヘッドセットも装着して!」


 すぐにヘリコプターのローターが回り出した。


 またかわいた破裂はれつ音がひびく。


 今度は整備員たちが斗桑とくわ氏とライアン氏に向かって射撃している。


 すると整備員によって、ヘリコプターの扉が閉められた。


 すぐにヘリコプターはホバリングして地上から浮き出した。


「山内くーん!」


 私は……血だらけの山内レイジを地上に残して飛び立ってしまった。


『見ろ』


 ヘッドセットのヘッドホンから、黒生こくじょう刑事の声が聞こえた。


 整備員が発砲して、斗桑とくわ氏たちを追い返している。


威嚇射撃いかくしゃげきだ。斗桑とくわたちを殺しはしない。もう大丈夫だ』

『大丈夫、じゃないよ……』


 私は、どんどん地上を離れスピードを上げるヘリコプターに体をあずけながら言った。


 ヘリコプターが右旋回せんかいすると、機体も右にかたむく。


 ヘリコプターは高く上がり、地上の街並みがどんどん小さくなる。


 怖いが、そんなことを言っている場合じゃない。


『山内君が死んじゃう』


 私はそう言って黒生こくじょう刑事をにらみつけた。


 でも、山内レイジは私を助けようとして私の前に出てくれた。


 彼がたれたのは私のせいのようなものだ。


 黒生こくじょう刑事に文句を言っても、彼が私をかばってたれた事実は消えることがない。


 ――そのとき、ヘッドホンにノイズが入ってきた。


『お、俺だ。山内だ』

『や、山内君?』


 山内レイジの声がしたので、私は泣きそうになった。


『うう……い、今、地上から話している。あ、足はたれた。でも、すぐ治療ちりょうできるようだ』

『さ、さっきは助けてくれてありがとう』

善川ぜんかわ、お前は世界の謎を解明しろ……。こ、今度、色々教えて……くれ……』


 そう言って、彼の言葉は消えていった。


 ◇ ◇ ◇


 私はだまってヘリコプターに乗っていた。


 黒生こくじょう刑事も静かにヘリコプターを操縦そうじゅうしている。


『しょうがない』


 黒生こくじょう刑事の声がヘッドホンから聞こえてきた。


『……何で……人間同士で争っているの?』


 私は腹を立てたように言うと、黒生こくじょう刑事は答えた。


『それは大人の責任だ。色々と問題が多くてな』

『世界の秘密に関係あるの?』

『ある』

 

 彼は私にあの板のような機械――スマートフォンを手渡してきた。


『スマートフォンの地図を見ろ。すでに表示されている。スマートフォンを横に持って見てみるんだ』


 私はイライラして、そのスマートフォンなる機械を放り捨てたかった。


 しかし、ヘリコプター内でそんなことをしてもしょうがないし危険なだけだ。


 スマートフォンを見ると、画面に世界地図が表示されていた。


 中華人民共和国、ソ連、韓国の南に、私たちの国、日本がある。


 いつも通りの北海道、本州、四国、九州、沖縄が表示されている。


 西にはインドやアフリカ、東にはアメリカ大陸がある。


「あれっ?」

 

 私は気付いた。


 日本の右下――南東に見覚えのない正方形の大陸がある。オーストラリアと同じくらい大きい。

 

 なんだ……この地図?


『日本の南東に真四角の大陸があるよ。オーストラリアの北、ハワイの西……つまり太平洋上に……』


 その正方形の大陸の上が赤く点滅てんめつしている。


 ま、まさか、現在位置?


『その太平洋上の四角い大陸を、俺たちは【非公認地域】と呼んでいる』


 黒生こくじょう刑事は言った。


『つまり、その大陸にもう一つの日本……年号が【浄界じょうかい】の日本がある。令和の日本が複製ふくせいされているのだ』

『そ、そんな! 複製ふくせいってどういうこと?』

浄界じょうかい世界の浄霊天じょうれいてん教と、令和世界の賢者はもともと一つだった。だが、一人の男が【PROJECT.U】という計画を打ち立てた。お前の手の甲にも赤く書かれている』


 私は自分の手の甲を見た。


 私には見えないけど、黒生こくじょう刑事には私の手の甲に赤い文字が見えるらしい。


『正式名称は【うつ計画】。【彼ら】が令和……いや、正確に言えば【昭和】の日本を複製ふくせいした浄界じょうかい日本を建国したのだ』


 黒生こくじょう刑事は静かにそう言った。


 彼らって誰? 昭和って何?


 でも、謎の一つが分かった。


 PROJECT.Uの正式名称は――うつ計画……!

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