第29話 リナとリナ①【令和八年&浄界八年】

 私たちは24にいよん人力砲じんりきほうを同時に発射した。


 ジャビラビにさった草薙剣くさなぎのつるぎの向かって、光線が短く連続で発射された。


 最初は光線がはね返されていたものの、やがてジャビラビの傷口から緑色の血がき出した。


「もう少しだ!」


 アリサが叫ぶ。


 やがて私たちの24にいよん人力砲じんりきほうは、ジャビラビの体をつらぬいた。


「や、やったぁ!」


 チャコが歓声を上げる。


 ジャビラビはうめきながら首をれた。


 化け物は生気せいきを失い、巨大なれ木が緑色の血をれ流しているようだ。


 だが、私たちが射撃を終えたとき――ジャビラビの目が光った。

 

 ジャビラビの胸の位置に何かが浮かんでいる。


「お、おい!」


 アリサが怒鳴った。


「気を付けろ!」


 何かが物凄ものすごいスピードで、私に向かってくる。ジャビラビの超能力――サイコキネシス!


 向かってくるのは、縦一メートルくらいの……角材だ!


 恐らく舟かジャビラビにみつぶされた建築物の木材だろう。


 嫌な音がして――。


 私はふっ飛ばされた。


「あっ、う」


 私は目がかすんでいた。


 胸が痛い。私は地面に倒れ込んだ。


 ……ああ。……痛い……。


「ウ、ウソでしょ」


 チャコが私を見下ろしていた。アリサも私を心配そうに見ている。


「リナあぁあああ!」


 アリサの叫ぶ声がかすかに聞こえた……。


 ◇ ◇ ◇


「う……」


 ――ん?


 私は……私は寝ていたんだろうか。


 えーっと……私は浄界じょうかい八年の善川ぜんかわリナだ。


 令和のリナの夢を見ると、私はどっちのリナだったか分からなくなることがある。


 さっきまで令和のリナの夢を見ていたはずだ。


 令和のリナが何かと戦っていた……と思う。


 だが、よく思い出せない。


 自分で思い出すことをブロックしている? そんな感覚がある。


 それにしても……ここは……。


「え?」


 思わず声が出た――ここは草原?


 周囲には歴史の教科書で見た――確か――そう! 竪穴式たてあなしき住居がたくさんある。


 水田も向こうのほうに見える。


「じょ、縄文じょうもん時代……。いや、弥生やよい時代かな? な、何で私、こんなところにいるの?」


 私は叫んでしまった。


 いや、間違いなくこれは夢だ。


 夢の中ならば、弥生やよい時代にタイムスリップしてもおかしくはないな、一応。


「リナ……」


 ――そのとき、後ろから聞き覚えのある女の子の声がした。


「……浄界じょうかいのリナ! 久しぶりだね」

「あっ」


 リナ! 令和のリナだ! 灰色のスウェットを着ている。


「……信じられないよ! 令和のリナ……! あなたとまた会えるなんて。この間、夢で浄界じょうかいの池袋を案内したっけ」


 私はうれしくなって、思わず令和のリナの両手を取った。


「……私もうれしいよ! ずっと会いたかった」


 令和のリナは顔を赤らめて、私の両手をしっかりにぎってくれた。


「座って話をしない?」


 私が提案ていあんすると、令和のリナはうなずいた。

 

 私たち二人は草原の上に座った。


 向こうのほうでは古代の人々が水田で作業をしている。


 本で読んだけど、魂の記憶というものがあるらしい。


 多分、それを夢で見ているのかな?


「何で、私たちは古代の夢を見ているのだろう?」


 私が聞くと、令和のリナは微笑ほほえんで言った。


「うーん……私にも分かんないな」


 そういえば、令和のリナは歴史上の偉人いじん卑弥呼ひみこのクローン人間だと夢で聞いた気がする。


 それと関係があるのかも?


 歴史上の人物の卑弥呼ひみこは三世紀の人物――弥生やよい時代の人間だ。


浄界じょうかいの世界の学校ではじゅうの訓練とかするんだね」


 令和のリナは楽しそうに言った。


「私も、学校に入学することになっちゃったんだよ」

「そうなの? おめでとう!」


 私は令和のリナの肩を抱いた。


 令和のリナは着実に幸せの道を歩んでいるのだ。


 私は自分のことのようにうれしかった。


「でもさ」


 私は首をかしげて言った。


「さっき夢で、令和のリナの行動を見ていたはずなんだけど……。夢の内容をどうしても思い出せないんだよ」

「……別にいいじゃん、そんなこと」


 令和のリナは苦笑いした。


 あれ? 何かねてる?


「私も浄界じょうかいのリナのしていることを、夢でちゃんとじーっと見てるよ。あ、こういう言い方、キモいよね……」


 令和のリナはずかしそうに笑って、言った。


 えーっと……「キモい」の意味が分からない。


「キモい? キモいって日本語?」

「あ、ご、ごめん。浄界じょうかいの日本にはそういう言葉はないのか」

「キモい……キモい……分かった。令和の言葉、一つ覚えたよ!」

「覚えなくていいよ~。そんな言葉。だって『気持ち悪い~』って意味だもん」


 私たちは笑い合った。


 顔がもうそっくり。


 まるで双子の姉妹だ。


 えっと、何を話そうかな。――私は雑談をしようと思った。


「令和のリナは何が好き? 私はコーヒーとシュークリームが好きなんだ」

「令和の世界では、スターバックスって店があるよ。引きこもる前なら、良く行ってたよ」


 令和のリナは顔を赤らめてそんなことを言った。


「スターバックスなら、本当に美味しいコーヒーが売ってるよ」

「スターバックスって……喫茶店のこと?」

「あ、そ、そうとも言うね。キャラメルマキアートとキッシュが美味しいよ。小学生のとき以来行ってないけど、また行きたいんだ……」


 キャラメル何とか……の意味は分からないけど、コーヒーの種類なのかな。


 キッシュも聞いたことがない単語だ。


 ――あれ? 令和のリナの様子がおかしい。


 ちょっとうつむく回数が多い。


「ねえ、ちょっとつかれてる? あなた、色々頑張がんばりすぎてるんじゃないの?」


 私は心配して聞いたが、令和のリナは笑って言った。


「うん……大丈夫だよ」

「ねえ、令和のリナ。今日のあなたの夢の内容……。あなたの活躍かつやく……。私、覚えてなくて……。今日はどんなことをしてたの?」


 私がそう言うと、令和のリナは途端とたんに真っ青な顔になった。


 何だか苦しそうだ。


「あ、ご、ごめんね」


 私は心配になり、令和のリナの手を取った。


 何かマズかったかな?


「顔が青いよ? 大丈夫?」

「うん……」


 令和のリナは左胸を押さえている。


 そしてうめくように言った。


「左胸が……痛い。苦しい」

「えっ!」


 私は声を上げた。


 ――嫌な予感がする。


 現実の令和のリナに大変なことが起こっているような気がする。


 それはさっき見ていたはずの、令和のリナの活躍かつやくの夢に関係があるような……。


 令和のリナがまた一瞬うつむいたとき、私は夢から覚めるのを感じた。

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