第28話 スカイツリーに巻き付いた龍②【令和八年】

 私たちは龍形りゅうがたのゼッコン様――「ジャビラビ」を目の前にしている。


 ジャビラビは毒蛇のコブラのように、鎌首かまくびをもたげ胴で立ち上がっていた。


 その高さは、十二階建てのマンションくらいだ。


るしかねええ!」


 アリサは声を張り上げ、24にいよん人力砲じんりきほうの引き金を引いた。


 しかし、ジャビラビの胴をおおったウロコが、光線をはね返してしまった。


「やべ……どうしようもねえじゃん、あいつ」


 アリサは汗をぬぐった。


「ど、どこかに弱点があるはず」


 チャコがそう言ったとき、ジャビラビは顔を下げ口を大きく広げた。


 その獰猛どうもうな大きな顔は、トラックの正面の四倍はありそうだった。


「これ、ヤバいよ! 防御して!」


 私が叫んだとき――轟音ごうおんとともに、口から火炎の球が三発発射された。


 まるで岩のような大きい火球だ。


「『テンノマモリノカベ』!」


 私たち三人は声を上げた。電子防壁ぼうへきはすぐに出現し、火球ははね返された。


 その火球は東の空にすっ飛んでいき、空中でかき消えた。


 ふうっ……。お、恐ろしい! 死と隣り合わせだ。


「後ろに回り込みましょう!」


 チャコの提案ていあんで、走ってジャビラビの背後に回ることにした。しかし――。


 ジャビラビは尾を動かし、一軒いっけんの木造の飲み屋をはね飛ばした。


 飲み屋は私たちの頭上をすっ飛んでいき、約500メートル向こうに落下した。


 すさまじい衝撃音しょうげきおんが響いた。


 私はもう泣きそうだったが、泣き言を言っていられない。


『三人とも、冷静になって! まず基本は【結界】で相手を捕縛ほばくすることだよ』


 EOSイオスがアドバイスしてきた。


『ジャビラビをその場から動けなくする。やり方は覚えているよね?』

EOSイオス、大丈夫です。『ケッカイムスビノクイ』!」


 チャコがとなえるとジャビラビの四方に、大きなくいが地面からせり上がった。


 電子で出来たくいだ。


 くいといっても、電信柱くらいの大きさがある。


 確か、この次にすることは……!


「『セイイキツクリタマエ』!」


 私が叫ぶと、私の手から光のなわが飛び出した。


 そのなわが自動的にくいしばりつけられ、結界を構成した。


 巨大なジャビラビの四方を、光のなわが囲ったわけだ。


 するとくい沿って壁面が出現した。


 まるでビルのような電子防壁ぼうへきの箱が、ジャビラビをおおった。


「グウウウウアアアア」


 ジャビラビはそんなうなり声を上げながら暴れたが、体は電子防壁ぼうへきの箱にはね返された。


「よおおっしゃあ」


 アリサが24にいよん人力砲じんりきほうを構える。私とチャコも構えた。


「今度は三人で一ヶ所を撃つぞ。ウロコを破壊できるかもしれない」


 24にいよん人力砲じんりきほうは電子防壁ぼうへきを通り抜ける。これは打倒のチャンスだ!


 そのとき――。ジャビラビが結界に体当たりした。


「えっ?」

 

 私は思わず声を上げた。


 ガラスが割れるような音がして――結界が割れてしまったのだ。


 結界が不完全だったか、ジャビラビの力が強すぎたのかどっちかだ。


「これヤバくね?」


 アリサがつぶやいた。


 するとジャビラビが鎌首かまくびをもたげ、集中する動作をみせた。


 何かが三つ、ジャビラビの顔の横に浮かび上がってきた。


 何だろう? あれ……。


『ジャビラビの顔の周囲に浮かんでいる物体を確認!』


 EOSイオスが叫んだ。


隅田川すみだがわ隣接りんせつする、北十間きたじゅっけん川のり舟だ! ジャビラビの超能力――サイコキネシスで浮かせているらしい』


 スカイツリーの手前に、隅田川すみだがわから流れる川がある。


 その川に停泊ていはくしていた舟だろう。


 その舟の数、三艘さんそう。木造のり舟がジャビラビの顔の周囲に浮かんでいるのだ。


「う、うおおおおっ、来るぞ!」


 アリサが叫んだとき舟が一艘いっそう、飛んできた!


 チャコが声を上げた。


「電子防壁ぼうへきは間に合わない! けて!」


 ものすごい音とともに、舟が地面に叩きつけられた。


 ねらいが外れて、私たちは無事だったが……。


 この化け物、超能力も使えるのか!


EOSイオス、どうしたらいい? ウロコをねらってもはね返されるかもしれない」


 私はEOSイオスに聞いた。


『アリサ、ジャビラビのウロコを君の【剣】で傷つけるんだ! そこから勝利を見出す!』


 EOSイオスが言うと、アリサが、「と、唱えるべき呪文が頭の中に浮かんできた」と言った。

 

 アリサも「鬼道きどう」なる術に目覚めつつあるのだろうか?


 「『クサナギノツルギイズル』!」


 叫んだアリサの右手にはいつの間にか、光る剣が握られていた。


 恐らくアリサの手袋につけられた宝石の力が、この剣を出現させたのだろう。


 剣は半透明はんとうめいだが、虹色にじいろに光りかがやいている。


『これが草薙剣くさなぎのつるぎだ』


 EOSイオスが言った。


『電子でできた鬼道きどうの剣だね。それを投げてウロコを傷つけよう。その傷を24にいよん人力砲じんりきほうねらうんだ』


 その瞬間、またジャビラビがり舟を投げつけてきた。


 その小舟は私たちの頭上を超えて、向こうの家々を破壊した。


 私たちには当たらなかったが、どんどん私たちにねらいが定まってきている!


「危険だよ! 次は当ててくる。――来た!」


 私が叫んだとき、最後の一艘いっそうが投げつけられてきた。


 今度は正確に私たちに向かってくる!


「ここだ!」


 アリサが叫んだ。


 アリサは剣を思い切り振りかぶり、剣を投げつけた。


 剣がたて回転しながら舟に向かっていき――。


 舟を破壊した。


 衝撃しょうげき音が周囲にひびき、木の破片が四方八方に飛び散る。


 そして剣は、そのままたて回転しながらジャビラビのウロコに突きさった。


 ジャビラビがうめき声を上げる。


「いまだ! フルオート24にいよん人力砲じんりきほう、発射よーい」


 私はそう声を上げ、すぐに24にいよん人力砲じんりきほうのセレクターを「フルオート」にして構えた。


 アリサもチャコも構えている。


てええっ」


 私は必死で叫んだ。


 私たちは24にいよん人力砲じんりきほうを同時に発射した。

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