第27話 スカイツリーに巻き付いた龍①【令和八年】

 私――善川ぜんかわリナと、アリサ、チャコが浅草地下商店街のパラレルワールドで見た邪霊物じゃれいぶつは……!


「ジャドロモノ……!」


 夢で浄界じょうかい世界を見たときに出現した、芋虫形の邪霊物じゃれいぶつだ。


 あのジャドロモノは小さかったはずだ。


 しかし、目の前にいるジャドロモノは、まるで乗用車のように大きかった。


「う、ちます! 実戦は初めてですが、訓練通り……!」


 チャコは素早く単発で24にいよん人力砲じんりきほうを発射した。


 ジャドロモノの体を光線が突き抜け、緑色の血がき出した。


「キャーッ」


 黒ローブ男たちが逃げまどう。


「よけろおおっ!」


 そのとき、私は横から突き飛ばされた。


 私は転び、驚いて振り返った。アリサが24にいよん人力砲じんりきほうを天井に向けて構えていた。


「バカ! 天井にもいるんだよ。よく周り見ろ、リナ!」


 アリサが私を突き飛ばしたのだ。


 もう一匹のジャドロモノが天井からぶら下がっており、大木のような太い触手しょくしゅを伸ばしていた。


 触手しょくしゅの先には巨大な口があり、出店の机をボリボリかじってそれを飲み込んだ。


 つ、突き飛ばされなかったら、私がわれていたのか……!


「リナ、気を付けてください! 壁です」


 右の壁のほうを見ると、壁にもジャドロモノがはり付いている。


 そのジャドロモノは物凄ものすごい勢いで、触手しょくしゅを伸ばしてきて大口を開けた。


「このおおおっ!」


 私はすかさず24にいよん人力砲じんりきほうった。


 壁のジャドロモノは血をき出しながら絶命し、地面にべちゃりと落ちた。


 アリサも天井のジャドロモノを打倒したようだ。


「ふう、一安心――」


 しかし私はすぐさま、背中に衝撃しょうげきを受けた。


 わたしの体が大きく前にふっ飛ばされたのだ。


 地面に転がりながらもあわてて振り返ると――。


 後ろにもう一匹、触手しょくしゅを伸ばしたジャドロモノがいた。


 おそらくそのジャドロモノは触手しょくしゅで、私の背中を突き飛ばしたのだ。

 

「暴力反対!」


 チャコは叫んでそのジャドロモノに24にいよん人力砲じんりきほうを発射し、それを絶命させた。


「ふう……」


 アリサは息をついて言った。


「これ、ゼッコン様とやらじゃねえんだろ? 本命はどこにいるんだよ」

『大きな生体反応確認! ここより1.2キロ離れた場所に、大きな邪気を確認したよ!』


 EOSイオスが叫んだ。


「い、行こう!」


 私が叫ぶと、チャコとアリサがうなずいた。


 ◇ ◇ ◇


 地下街を進むと、またにぎやかな飲み屋の一本道が続いていた。


 赤い提灯ちょうちんあやしくかがやいている。


 店の中では紫色の不気味な飲み物を飲む、黒ローブ男たちが乾杯かんぱいしていた。


呑気のんきな野郎たちだな! ブランディース王国でもオヤジたちが同じように酒飲んでたぜ」


 アリサはブツブツ言っている。


 海鮮料理屋、寿司屋、一杯飲み屋が両側にあり、せまい一本道になって続いている。


 黒ローブ連中はっぱらって店から出てくると、私たちを気にもせず歩いていってしまった。


『どんどん大きな生体反応に近づいている。気を付けて』


 EOSイオスが声を上げた。


 十五分ほど歩くと地上に上がる階段を見つけた。


 上には光が見える。


「浅草駅から東に1.2キロ歩いたとなると、場所は例の……あの超有名なタワー?」


 チャコが戸惑とまどっていると、アリサがどんどん階段を上がっていく。


「どんな敵が来ようとも、るぜええ!」


 アリサはやる気満々。こういう時には頼りになる……うるさいけど。


 ◇ ◇ ◇


 階段を上がると、東京の名所である「スカイツリー」が目の前にそびえ立っていた。


 ここは「押上おしあげ」という駅の近くだが、本物の押上おしあげとは違う街だということは分かった。


 地面は土、すべての建物が木造だ。まるで昭和の映画みたい。


 道の向こうにそびえるスカイツリーだけ近代的な建造物なので、奇妙な風景だった。


「この世界には奇妙な物がたくさんあるから、色々驚いてもしょうがねえ。だけど、あれはおかしいだろ!」


 アリサがスカイツリーに向かって、叫んだ。


 私も異変に気付いていた。


 スカイツリーに何かが……巻き付いている?


 黒く長い……巨大ななわ……いや……何だ?


 スカイツリーを何か巨大ななわのようなものが、ぐるりと二周くらい巻き付いている。


『あのスカイツリーに巻き付いているのは……! 龍の形をしたゼッコン様、【ジャビラビ】だよ! 全長約150メートルある』


 EOSイオスが興奮気味に声を上げた。


 ジャビラビなるゼッコン様は私たちに気付いたように、スカイツリーから飛び立った。


 その長い胴体がれ下がるような格好で、地面に落下したのだ。


 すさまじい地響じひびきと土煙つちけむりだ!


「リナ、アリサ! 私に近づいて!」


 チャコが叫んだ。


「テンノマモリノカベ、ハコノカタ!」


 チャコが叫ぶと、私たち三人の周囲に光の壁――電子防壁ぼうへきが出現した。


 私たちを電子防壁ぼうへきが、長方形の箱のように包んだのだ。


 土煙つちけむりが正面から襲ってくる!


「お、おいチャコ。何だこの技」


 アリサがため息をつきながら聞くと、チャコが答えた。


「電子防壁ぼうへきの応用技ですよ。教科書にってますし、授業で習います」


 私たちを電子防壁ぼうへきの箱が、土煙つちけむりから守ってくれている。


 私たちを覆っている電子防壁ぼうへきは、土煙つちけむりに五分間襲われていた。


 しかし土煙つちけむりはやがて風に舞って消えてしまった。


「龍……!」

 

 私は思わず声を上げた。


 土煙つちけむりがおさまったとき、私たちの目の前に――。


 長い胴体を持った見上げるような巨大な龍が、木造の家々をみつぶして鎮座ちんざしていた。


 ジャビラビは毒蛇のコブラのように、鎌首かまくびをもたげ胴で立ち上がっている。


 その高さは、十二階建てのマンションくらいだ。


「で、でかすぎじゃねぇの?」


 アリサはひきつって笑っていた。


 だけど、これは現実だった。


 この龍――ゼッコン様ことジャビラビと戦わなくてはならないことは分かっていた。

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