第26話 浅草地下商店街での戦い【令和八年】

 私たちは新しい「ゼッコン様」を倒しに、専用ワゴン車で浅草まで行くことになった。


 パラレルワールドに移行する前ならば、車のハンドルやエンジンが効くらしい。まだ術がかかっていない、ということだ。


 戦闘用の装備そうびをした私たちを乗せたワゴン車は、池袋を東に進んでいく。


 運転手はいない。人工知能EOSイオスの自動運転だ。


『池袋から浅草まで三十分から四十五分かかるよ』


 私の左肩から人工知能EOSイオスの声がした。


「あのさー、前々から疑問に思ってたけど」


 チャコの左に座っていたアリサが言った。


「あたしって何であんたたちの言葉が分かるんだっけ?」

「あなたの国『ブランディース王国』では日本語をしゃべっていたからですよ」


 チャコは平然と言った。私とアリサは口をあんぐり開けた。


「あなたの国は中世ヨーロッパに似た国だと聞いています。でも実際は、日本人が造った太平洋上、ハワイ近くにある国だそうです」

「タイヘイヨーとかハワイって何だ? 食べ物か?」


 アリサが真顔で言ったので、チャコは吹き出した。アリサはむくれて顔を赤くした。


 ◇ ◇ ◇


 私たちは四十分後、浅草にたどり着いた。


 ワゴン車を停車させたのは、隅田川すみだがわと浅草駅近くの駐車場だ。


『正体不明の怪物が、浅草近辺をうろついています。安全のため、浅草から一キロメートル離れてください――り返します』


 浅草駅前に放送が響いている。


 すでに人はほとんどいない。皆、すでに避難ひなんしていると思われる。


「見て!」


 私は士官しかん学校から支給されたスマートフォンを見て、声を上げた。


 士官しかん学校専用のSNSに投稿とうこうが来た! 浄霊天じょうれいてん教からだ!


 ちなみに普段、この専用SNSは使用不可になっている。


『僕が対応するよ。まかせて』


 EOSイオスが声を上げた。彼はスマートフォンの中にも存在する。




浄霊天じょうれいてん教『士官しかん学校の挑戦者ちょうせんしゃ諸君しょくん、よくいらっしゃいましたね。今日、ゼッコン様があなたたちの令和世界を破壊するでしょう。ゼッコン様と戦う者は決まりましたか? 戦いに参加する者の名前を教えてください』


EOSイオス善川ぜんかわリナ、アリサ・オルフェス、今里いまさと千弥子ちやこだ』


浄霊天じょうれいてん教『おや、返事をしてくれたのは人工知能のEOSイオスさんですか』


EOSイオス『余計なお世話だよ!』


浄霊天じょうれいてん教『了解――ご健闘をお祈りします。――観戦させていただきますよ』




「へっ、観戦ときたか」


 アリサはスマートフォンを見て舌打ちしながら言った。


「誰だか知らねえけど、こいつらあたしらの敵だろ? なめくさってやがるな」

「早く終わらせちゃおうよ」


 私はこれから何が起こるのか怖くて仕方なかったが、震えていても仕方ない。


「い、行こう!」


 私が言うと、アリサとチャコはうなずいた。


 ◇ ◇ ◇


 私たちは地下商店街の入り口から、階段で地下に降り立った。


 地下に降りると、そこは東京メトロ銀座線駅の改札口の前だった。


 壁の看板には、「明るい、あたたかい、ともだち感覚、浅草地下商店街」と書いてある。


 すでに駅員も客も店員も避難ひなんしている。


「ここが『浅草地下商店街』ですね」


 チャコが言った。


浅草寺せんそうじに来たとき、両親とここを通ったことがあります。呼称こしょうとしては浅草地下街と呼んでも良いらしいです」


 右には古くさい地下街があった。これが浅草地下街か。ほぼ一本道になっている。


 歩いていくと――一杯飲み屋やビデオショップ、床屋、占い屋、タイ料理の店が並んでいた。

 

 天井は蛍光灯けいこうとうが並んでいて、配線がむき出しになっている。


「おや?」


 私は声を上げた。


 地下街は一本道で行き止まりがあった。これ以上進めない。


 ん?


 そのとき、周囲の景色が回転し変化したように思えた。


 雰囲気が変わった!


『パラレルワールドに移行したよ! 気を付けて!』


 人工知能のEOSイオスが声を上げた。


邪気じゃきを感じる!』


 すると突然、一本道だった浅草地下街が広くなったように思えた。


 いや、実際に恐らく――百倍以上の面積になっている?


 振り返ると飲み屋や飲食店やマッサージ屋、焼き鳥屋が増えていて、驚くほど広い地下の街になっていた。


「異次元――浅草地下街のパラレルワールドに入った、というわけですね」


 チャコが背筋せすじを正しながら言った。


 私はガラスしに飲み屋をのぞく。


 飲み屋の中には、池袋で見た黒フード男たちがぼんやり立って酒を飲んでいた。


 焼き鳥屋でも同じような光景が見られた。


 黒フード男たちはぼんやりと突っ立っていたり、焼き鳥をモソモソ食べている。


「ねえ、こっち! こっちに来てください」


 チャコが向こうのほうで声を上げている。


 私たちがチャコを追ってみると、そこは地下の広場になっていた。


「う、うわあ……」


 私は思わず声を上げた。


 それはきらびやかな光景だった。


 地下街で縁日えんにちが行われている。


 楽しげなお囃子はやしの音がひびき、りんごあめ屋、チョコバナナ屋、ソースせんべい屋、10円パン屋などの出店がある。


 店員は例の黒ローブ男たちだ。


「おい、一つくれ。何だその丸いの。たこ……焼き?」


 アリサがたこ焼き屋に声を掛けても、出店の店員は無視している。


 一応、たこ焼きは良い匂いがしていて美味しそうだが……。


「やめなって、食べたらお腹こわしちゃうんじゃない」


 私が言ったとき、広場の真ん中で何かがうごめいているのに気が付いた。


 あれは巨大な芋虫のような生き物だ!


 見たことがある。


「ジャドロモノ……!」


 夢で浄界じょうかい世界を見たとき神社に出現した、邪霊物じゃれいぶつだ。


 しかし――その大きさはまるで乗用車のように大きかった。


「中ボスってわけですか」


 チャコはそう言い、24にいよん人力砲じんりきほうを構えた。

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