第24話 女子戦闘科第三クラス【令和八年】

 私とアリサ、チャコ、ウォンダさんは教室の前に立った。扉の奥から、生徒たちの声が聞こえる。


「これから教室で見学してもらうけど、一応聞いとくわ。――もう入学しちゃう?」


 ウォンダさんが私とアリサに言うと、チャコは驚いたような口調で声を上げた。


「あれ? まだ入学手続きしてないんですか? この間の対ジャスイガラキ戦を見たけど、すごかったですよ。善川ぜんかわさん、すごい能力あると思います。絶対にこの学校に入ったほうがいいと思うけど」


 チャコがそう言ったとき、ウォンダさんは(よく言った~)という風にチャコの頭をなでた。


「おいおいおいっ、あたしの能力はどうなんだ!」


 アリサがチャコに突っ込んだ。


 でも――確かに家にこのまま帰っても、意地悪な叔母さんと過ごす毎日が待っている。


「じゃ……一応入学……しちゃおうかな」


 私がそう言うと、ウォンダさんはパーッと笑顔になってアリサを見た。


「アリサは? このまま逃げるってことはないわよね?」

「に、逃げるって何だ! あたしは逃げるって言われるのが一番嫌いなんだ!」


 アリサは顔を真っ赤にして、私とチャコを見て言った。


「あ、あたしも入学する。だ、だって入学しなかったら、あたしだけ一人になっちゃうじゃん……」


 アリサ……かわいい。


「よっし! 手続きは後でするとして……さっそく授業を受けてみよう!」


 ウォンダさんは扉を開け、私とアリサの背中をグイグイ押した。


 ……もう流れに身をまかせるしかない。


 ◇ ◇ ◇


 教室に入った。


 私とアリサが檀上だんじょうに立つと、女子たちが皆一斉に私たちを見た。


 生徒数は女子十人。少数制か。


 チャコは教室の後ろの席にサッと座った。


「新入生を紹介します。さ、リナ、アリサ、自己紹介をして」


 ウォンダさんが私の肩に手をやった。うわ……冷や汗でてきた。


 女子生徒たちはざわついている。


 おや?


 廊下ろうか側の二つの席には……どこかで見覚えのある女子が二人、座っている。


 この二人の女子の顔を見ると……ん? 何となく顔を知っているような……。


 なぜか嫌な予感がする。


 すると、ウォンダさんが「早く自己紹介を」とせかした。


「わ、わ、わ、私は善川ぜんかわリナです。さっき入学した……のかな? よ、よろしくお願いします」


 ダメだ。緊張しすぎて呂律ろれつがまわっていない。


 最悪だ。皆、クスクス笑っている。

 

「あたしはアリサ・オルフェス。地球のどっかから来ました。おろしく」


 アリサは冗談なのか本気なのかそんなことを言って、胸を張って自己紹介した。


 女子たちは「地球のどこかだって」とクスクス笑っている。


善川ぜんかわリナさんとアリサ・オルフェスさんのために、この教室の説明をします」


 ウォンダさんは私を窓側の最も後ろ、アリサを私の前に座らせてから言った。


 私の右隣みぎどなりはチャコだ。


「この『女子戦闘科第三クラス』は女子だけのクラスです。今日、二人増えて十二人になりました。担任は私、ウォンダ・レクイヤー」


 ウォンダさんは続けた。


「現在、私はこの士官しかん学校の教師です。大きな声では言えないけど、二十代は軍で諜報ちょうほう活動を行っていました」


 諜報ちょうほう……って、スパイって意味だったっけ? じゃあカウンセラーの助手に変装へんそうするなんて、お手の物だったわけか。


「このクラスでは実戦的な戦闘訓練をしつつ、戦闘についての座学をすることになります。このホームルームでは、もう一度、ここの施設と教育課程カリキュラムをおさらいしましょう」


 私はウォンダさんの授業を聞きながら、だんだん我に返ってきた。


 あれ? 私って何でこんな聞いたこともない学校で、授業を受けてるんだろ。


 しかも「戦闘科」って? 何それ? 軍隊? 自衛隊?


 私はケンカもしたことないし、スポーツはダメだし……。


 そもそも「卑弥呼ひみこ鬼道きどう士官しかん学校」なんて学校、聞いたことない!


「ったく、わけわかんねーよ。急にこんな見たこともない世界で、よく分からん学校に入学させられてさ。ま、タダメシにはありつけそうだから勘弁かんべんしてやるか」


 アリサが前の席でつぶやいていたのが、ちょっと救いだった。


 ◇ ◇ ◇


「さっきのホームルームでは言ってなかったけど――。この士官しかん学校は結局、『鬼道きどう』という術をあやつる『賢者』という者を育成する機関なんですよね」


 休み時間に、玄関ホールでチャコが言った。


「私の場合、この学校の係員が私の家にきて、私の両親を説得したんです。『日本を救うため、娘さんを我が校に預けてください』とか言っちゃって。きっと自衛隊幹部の父のつながりだと思うんだけど」

「つーか、あたしは帰る場所がないんでね。どうやらあたしの故郷こきょう、『ブランディース王国』とこの日本という国は夢つながりじゃなくて実際につながっているらしい。あたしはリニア……何とかというもので、ウォンダと一緒にここに来たんだ」


 アリサはびんのコーラを飲みながら言った。


 アリサ……すごい順応してる……。


「つーか、うまいな、この黒い飲み物。コラコーラってんだってよ」


 あの……コカコーラでしょ。


 すると――。


「アリサとチャコ! 話があるから職員室に来て。リナはそこで待ってて」


 ウォンダさんがホールの向こうから言った。


 二人が行ってしまったそのとき――。


「おい」


 私の後ろから声がかかった。


 後ろから声を掛けてきたのは、二人の女子だった。


 あれ? 二人とも、さっき授業を受けた教室にいたな。


 この二人の女子の顔……知っていると思った。


 まだ思い出せない。でも、嫌な予感がする――。


「おい、お前、調子に乗るんじゃねえぞ。善川ぜんかわリナだっけ?」


 茶色い髪の毛の女の子が私をにらみつけて言った。


 あっ!


「モニカ……!」


 私は思わず声を上げてしまった。


 その女子は……間違いない。特徴的とくちょうてきなハーフの顔立ち……茶色い髪の毛! 坊原ぼうはらモニカだ!


 でも、坊原ぼうはらモニカは浄界じょうかい世界に存在する女子……いじめっ子だ。


 浄界じょうかい世界のリナをいじめていた女子のはずだ。


 モニカ……!


 なんでこの令和の世界にいるの?

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