第22話 卑弥呼鬼道士官学校へ入学!【令和八年】

「あなたはこれから、『卑弥呼ひみこ鬼道きどう士官しかん学校』に入学してもらいます。すでにあなたとアリサのように、邪霊物じゃれいぶつ退治を行なっている子たちもいるわ」


 ウォンダさんはそう言い、私を食堂レストランの外に連れ出した。


卑弥呼ひみこ鬼道きどう士官しかん学校は、邪霊物じゃれいぶつの倒し方を学び、邪霊物じゃれいぶつとの戦いを実践じっせんする学校です」


 ウォンダさんはそう続けた。


 邪霊物じゃれいぶつって何?


 そのとき――。


「うおいっ! あたしも学校見学しろって言われてここに来たぞ!」


 アリサが案内人の若い女性賢者と一緒に、どかどかと歩いてきた。


「アリサ、今までどうしてたの?」


 私が気になって聞くと、アリサは伸びをしながら答えた。


「体の検査とか何やらで、面倒めんどうくせえの! じっとしてなきゃならないし、あんなの二度とやってやるもんか」

「で、ではウォンダ先輩、よろしくお願いします」


 アリサの付きいの女性賢者はそう言って、アリサを置いて行ってしまった。


 私はウォンダさんに聞いた。


「え、えーっと。私、そんな学校に入るなんて思いもしてないんだけど」

「あたしは学校ってのが大嫌いなんだ! 故郷の村で学校に行ってたけどさぼってばっかりだったぜ」


 アリサも声を上げたとき、ウォンダさんは冷静に言った。


戸惑とまどう気持ちは分かるわ。でも、二人とも入学して欲しいの」

「授業料とか、入学費とか……その他いろいろお金がかかるんじゃ……」


 私は現実的なことを聞いたが、ウォンダさんは淡々と答えた。


「全部無料。日本政府がお金を出すから」

「デン子叔母さんに許可を取らないと……」

「許可はとっています。あなたの叔母様には、株券をプレゼントとして差し上げました。私はあなたの叔母様とはケンカしたけど、一応受け取ってくれたわ。彼女、目は笑ってなかったけどね」


 は、はあ……。


 ウォンダさんは続けて言った。


「とにかく校舎を案内するから中を見学して。きっと気に入るわ」

「はああ? 学校なんて気に入るわけねーだろ。勉強なんて大嫌いだね」

「いいから来なさいっ!」


 私はアリサの腕を引っ張っているウォンダさんに聞いた。


「ところで、邪霊物じゃれいぶつって?」

邪霊物じゃれいぶつとは、ゼッコン様のような『邪霊』がとりいた魔物の総称そうしょうのことよ。賢者は邪霊物じゃれいぶつと戦います」


 ウォンダさんは私がEOSイオスコートを初めて見た場所――ドーム型室内庭園の横を通り過ぎた。私とアリサもついていくしかなかった。


「その賢者って何?」

「歴史上の偉人いじん――『卑弥呼ひみこ』があやつった『鬼道きどう』という術を使う術師じゅつしたちのことよ。日本に大昔からいるわ。その鬼道きどうと現代科学を融合ゆうごうさせて、ゼッコン様など化け物を退治します」


 その奥には門があり、白いローブの守衛しゅえいさんが立っていた。


 神社の境内けいだいの入り口にも守衛しゅえいさんがいたけど、また守衛しゅえいさん? どれだけ厳重げんじゅうなんだろう?


「さあどうぞ」


 守衛しゅえいさん二人は、ウォンダさんと私、アリサを見ると敬礼して門を開けてくれた。


「ああっ」


 私は声を上げた。


 目の前には真っ白いギリシャ神殿のような建物が建っていた。


 入り口には三角の屋根があり、十本以上の太い柱で支えられている。それがギリシャ神殿のように見える。


 後方にはガラス張りの美しく大きい、美術館のような建物が建っている。


「さあ、入りましょう。ここが卑弥呼ひみこ鬼道きどう士官しかん学校の校舎よ」


 するとそのとき――。


「おい待て!」


 聞き覚えのある声が、周囲にひびいた。


 後ろから緑色のローブを羽織った中年男性が、ツカツカと彼の仲間とともにやってきた。


「あの野郎……ジェスターってヤツじゃねえか」


 アリサはニヤリと笑いながら彼に詰め寄った。


「よぉ、金の管理人よぉ。あたしらジャスイガラキって敵の化け物倒しちまったけど、これでも金の無駄遣むだづかいかぁ?」

「ガキども……。あ、あの程度で調子に乗るなよ。ゼッコン様と戦っているのはお前たちだけじゃない。世界各国でもゼッコン様と戦っている子どもがたくさんいるぞ!」


 ジェスター氏は苦虫をつぶしたような顔をして、アリサと私を見た。


 他にもゼッコン様と戦っている子どもたちがいる――。


 さっきウォンダさんが言ってたことは本当なのか……。


「ま、まあ、私は子どもに戦わせるなんて大反対だがな! 戦争ごっこじゃあるまいし。金の無駄むだだ!」


 ジェスター氏はそう言い、気付いたようにウォンダさんに向き直った。


「うん? も、もしかして、この二人を卑弥呼ひみこ鬼道きどう士官しかん学校に入学させるおつもりですか?」


 ジェスター氏は眉をひそめながら、ウォンダさんに聞いた。


「まだ決まっていませんが、私はそう願っています」


 ウォンダさんが胸を張って言うと、ジェスター氏は舌打ちをした。


「まったく、賢者も政府もお遊びが過ぎますな! 子どもに武器を与えて、戦争の真似事とは!」

「待って! あなたはこの子たちが、決死の覚悟でジャスイガラキにいどんだ場面を映像で見たのでしょう?」


 おや? ウォンダさんが声をあらげた。


「そ、それは……見ましたが?」


 ジェスター氏は一歩たじろいだ。


 ウォンダさんはいつになく怒っているように見えた。


「あなたに化け物と戦う勇気がありますか? 命がけで戦ったこの子たちをめてあげたらどうですか?」

「あ、ぐぐ……」


 ジェスター氏はしかめっつらをした。


める? ふん、化け物を一匹倒しただけじゃないか。こういうことは大人にまかせて、子どもは家で遊んでりゃいいものを……!」


 ジェスター氏はそうブツブツ言い、私とアリサをにらみつけて仲間とともに行ってしまった。


 アリサはクスクス笑った。


「けっ、あの野郎、いい気味だぜ。負け犬が」

「ちょっとスッキリしたね」


 私もアリサに少し同意して笑った。


 おや? 校舎の周辺をよく見ると、私と同じくらいの年齢の男の子や女の子たちが歩いている。


 皆、私服を着ているけど、同じカバンを持っている。きっとここの生徒なんだろう。


 ほ、本当に私、この学校に入学することになるんだろうか。


 ◇ ◇ ◇


「わあ……」

「おお……」


 私とアリサは同時に声を上げた。


 入り口に入ると、すぐ目の前が開けた。


 中に入るとそこには玄関前の広いロビーがあった。


 中央には大きな木が生えており、周囲にはドーナツ型の池がある。


 壁際にはオープンカフェのような机や椅子があり、生徒たちが座って何か話をしていた。


「あの子たちはこの卑弥呼ひみこ鬼道きどう士官しかん学校の生徒たちよ」


 ウォンダさんはにこやかに言った。


「ゼッコン様など邪霊物じゃれいぶつを退治するための賢者を目指しているわ」

「こ、この学校には何人いるの?」

「そうねえ、そんなに多くないけど、五百人くらいかしら」


 私の質問にウォンダさんは答えた。


「実際に戦闘に出る生徒を育成する『戦闘科』は約百名。人の怪我を治す『治癒ちゆ科』は約七十名。他にも『邪霊物研究科』『AI科』『装備品科』など、色々クラスがあるわ。もし入学希望なら――リナとアリサは『戦闘科』に入ってください」

「え? 私が……戦闘……科?」


 私がつぶやくと、ウォンダさんはうなずいた。


「さあ、『エントランスホール』に行ってここの生徒と話をしてみましょう」

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