第20話 リナがリナと会う夢【令和八年&浄界八年(夢)】

 私は「令和のリナ」。


 そう自分のことを考えるのもれてきたような気がする。


 私はアリサやウォンダさんとともに、亀の「ゼッコン様」である「ジャスイガラキ」を打倒した。


 そのあとの私は――まるで記憶がない。


 ◇ ◇ ◇


「あれ?」


 私は周囲を見回した。


 ここは……? 私は繁華街はんかがいの中に立っている。


 何となく見覚えのある繁華街はんかがいだが、何となく時代が古い感じ。


 鉄筋てっきんのビルもあるけど、木造の建物も結構ある……。


 大通りを走る車は何だか古い形状だ。


「あっ」


 目の前には「西武百貨店ひゃっかてん」と書かれた大きい看板のある建物がある。


 えっ? ここって池袋?


 池袋は私が小学生のとき塾に通うために行っていた、東京の副都心だ。


 そういえば二年前に、西武デパートはヨドバシカメラになったんだっけ?


 私は二年間引きこもっていたから、ここ二年の池袋を知らない。


「あれ?」


 私の後ろには「三越みつこし百貨店ひゃっかてん」と書かれた建物がある。


 池袋に三越みつこしデパートってあったっけ?


 よく見ると地面も舗装ほそうされてなくて、土をみ固められてつくられている。


 そのとき――。


「ねえ、あなた……」

「えっ?」


 私は後ろを振り返った。


「令和のリナ……だよね?」

 

 令和のリナ……そんな風に自分のことを呼ばれたのは、初めてだ。


 私が振り返ると、そこには女の子……いや、「私そっくり」の人間がいた!


「あ、あなたは!」


 私は思わず声を上げた。


 そこにはいつも夢で見る、あの不思議な女の子――もう一人の私、「浄界じょうかいのリナ」が立っていたのだ。


 高校の制服姿だ。


 浄界じょうかいのリナは感極かんきわまったように首を横に振って、私をまじまじと見た。


「し、信じられないよ」


 浄界じょうかいのリナは私の両手をとって、言った。


「いつも夢で見ている、令和のリナと話せるなんて」

「こ、これ、夢だよね?」


 私は思い切って聞くと、浄界じょうかいのリナは大きくうなずいた。


「多分、夢だと思う。でもここって、私が普段行き来している浄界じょうかい八年の池袋と変わらないみたい」

「えーっ?」

「夢だけど、現実と同じ光景が夢に現われているんだ」

「そうなんだ……。不思議なこともあるもんだね」


 私と浄界じょうかいのリナはじっと見つめあった。

 

 そして二人とも笑ってき出した。


 だって、おたがい顔がまったく同じだから。


「せっかく会ったんだし、一緒に歩く? 浄界じょうかいの日本を案内するよ」


 浄界じょうかいのリナは胸を張って言ったので、私はうなずいた。


「う、うん……そうだね」

「西武百貨店ひゃっかてんの屋上に行こうよ。いつもあそこに行くから」

「西武百貨店ひゃっかてん……西武デパートのこと? うん、行こう」


 浄界じょうかいのリナが「デパート」ではなく、丁寧ていねいに「百貨店ひゃっかてん」と言うので、ちょっとおかしかった。


 私たちは池袋の地下街に入り、山手線の改札口の前を横切った。


「くに……てつ? 何だろう。あ、『国鉄こくてつ』か」


 山手線の改札口には国鉄こくてつと書いてあって驚いた。


 確かJRの前の呼び方は、昭和の時代、国鉄こくてつと呼んでいたと聞いた。


 浄界じょうかいの日本って、昭和の時代がそのまま時間がっちゃった感じなのかな。


「不思議……。ビックカメラとか、マクドナルドとか無いの? 公園近くのアニメイトは?」

「ビック……カメラ? マクドナル……それって何? アニメ……イト?」


 浄界じょうかいのリナは不思議そうな顔をして、私を見た。


 道を歩く人々も、髪をめている人はほとんどいない。


 皆、服の色が茶色かグレーか黒だ。


 ◇ ◇ ◇


 池袋西武「百貨店ひゃっかてん」の屋上にはうどん屋があった。


 令和の日本にもこのうどん屋はあり、私もこのうどん屋のうどんは小学生のときよく食べていた。


 だから浄界じょうかいの日本にもあるということに驚かされた。


 まあ、この世界は夢なんだけど……。


 私たちは屋外の机の前に座った。


「美味しいね~」


 浄界じょうかいのリナはたぬきうどんを食べて笑顔だ。


「うん、美味しい」


 私も釜揚かまあげうどんを食べてうなずいた。


「令和のリナが強くなって、びっくりしたよ」


 浄界じょうかいのリナがいきなりそんなことを言うので、こっちがびっくりした。


 浄界じょうかいのリナは感慨深かんがいぶかそうに私を見て言った。


「あんな化け物を倒してしまうなんて……」


 あ、ジャスイガラキとの戦いのことか。


 私は今でもあの戦いは何だか自分でもよく分からないので、しどろもどろになった。


「み、見てたんだ……」

「夢で見てたよ。すごいよ、本当に」

「いきなり戦わされてさあ……。今でも何だかよく分からないよ」


 うどんを食べ終わって、私たちは屋上のフェンスから西池袋の景色を見下ろした。


 令和の西池袋には大きな東京芸術劇場があるが、ここでは大きな公園になってしまっている。


 本当に令和の池袋とは別の池袋なんだな、と改めて驚いた。


「私たち、何で急に夢でつながったんだろう」


 私はつぶやくように、浄界じょうかいのリナに言うと、彼女は口を開いた。

 

「……わかんないけど、私があなたに言ったことを覚えてる?」

「えっ?」


 私が首をかしげると、浄界じょうかいのリナはずかしそうに言った。


「え、えーっと、えらそうなことを言っちゃったんだよ。確か、『外に出れば、きっと道が開ける』みたいなことを言ったと思う」

「あっ……」


 私は思い出した。


 私が二年ぶりに外に出る前日だ。


「――大丈夫だよ! 外に出れば、きっと道が開けるよ!」


 そんな声が、どこからか聞こえたんだ……!


浄界じょうかいのリナ……。あの声はあなただったのね」

「ご、ごめん。えらそうなことを言っちゃって。不思議だけど多分、私の夢があなたの現実につながっちゃったんだよ」


 浄界じょうかいのリナはあわてて言った。


 しかし私は、浄界じょうかいのリナを抱きしめていた。


「ありがとう……ありがとう」

「ど、どうしたの?」

浄界じょうかいのリナ、あなたは私の恩人おんじんだよ」


 私をあの一言で、牢獄ろうごくから引き出してくれた。


 あの一言がなかったら、私はまだ家にいてじっとしていたはずだ。


 浄界じょうかいのリナの体の温かさを感じる。


 浄界じょうかいのリナは、私の髪の毛をなでながら言った。


奇跡きせきだね」

「うん」

「あ、いけない。私の目が覚める。……これからも会おうね」


 浄界じょうかいのリナはそう言った。


「え? もう行くの?」


 私があわてると、浄界じょうかいのリナはいつの間にか姿を消してしまった。


 向こうは目が覚めてしまったんだろう。


 私も――そこで目が覚めた。


 私の新しい人生が、ここから始まろうとしているのが分かった。

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