第17話 ジャスイガラキとの対決②【令和八年】

 私とアリサはすぐに、「電子護符ごふ」のたばを宙に投げた。


 電子護符ごふは宙に浮遊すると、一瞬にして恐らく千枚くらいに増殖ぞうしょくし――。


 ジャスイガラキに飛び掛かった。


 一瞬で、ジャスイガラキの体に電子護符ごふりつき、まるで黄色いイソギンチャクのような見た目になった。


「グアアアアオオオ」


 黄色い電子護符ごふを全身にりつけたジャスイガラキは声を上げた。


 護符ごふ一枚一枚に電流のスパークのようなものが見られ、ジャスイガラキの体がしびれているらしい。


「おい、これ効いてんだろ? さっさとあのじゅうたせろ!」


 アリサがウォンダさんに要求した。


『……油断はダメよ。これは本攻撃をする前の準備……だから』


 ウォンダさんが痛みをこらえているような声で、通信でそう告げたとき――。


 おや? ジャスイガラキは二分の一くらいまで体がちぢまった。


「おい、小さくなっちまったぞ! こりゃ勝利確定か?」


 アリサがそう言って笑った。


「クウウァアアア!」


 するとジャスイガラキは、一瞬のうちに巨大なボールのようにふくれあがり――。


 ええっ?


「カアアッ」


 そんな声とともに体中の電子護符ごふを全部、はね飛ばしてしまった。


 すると、左の大池の周囲にある大岩の一つが浮かび上がり――。


 私たちのほうに飛んで向かってきた!


「う、うわああああっ!」


 ジャスイガラキの念力攻撃だ!


 私は横っ飛びで避けた。アリサはかがんだ。


 大岩はそのまま後ろの大木のほうへ飛んでいき、大木の十本程度をへし折ってしまった。


 しかし、ジャスイガラキはさっきの電子護符ごふの効き目でだいぶつかれているようだ。


 しかしまた大岩を浮かび上がらそうと集中している。


 大岩に当たったら、私たちは確実に死ぬ!


「お、おいっ、ウォンダ! どうすんだよ。あのヤロー、力技ちからわざできたぞ」


 アリサが叫ぶと、ウォンダさんは何かを唱えた。


「『ケッカイムスビノクイ』……!」


 するとジャスイガラキの体の四方に、四つの光る棒のようなものが地面からせり上がった。


 何だ、あれ?


 棒……いや、くい……?


『け、結界を張りなさい。『セイイキツクリタマエ』と唱えなさい! 早く!』

「えっ? 何だって? おい」


 アリサは眉をひそめたが――。


「セイイクツクリタマエ!」


 私はまるでその言葉を知っていたかのように、すぐに唱えることができた。


 私の手からは光のなわが発された。電子注連縄しめなわと同じ? いや――。


 するとウォンダさんが作り上げた電子のくいに、私の光るなわが巻き付けられた。


 そしてくいの周囲に光の壁が作られ、ジャスイガラキが光の透明とうめいな壁の部屋に入った状態になった。


『こ、これが【結界】よ。く、くいを打ち、敵の行動範囲はんいせばめる……覚えておきなさい』


 ウォンダさんの通信が聞こえる。


『……では――24にいよん人力砲じんりきほうを【フ】の字に合わせ、【フルオート】にしなさい』


 私とアリサは急いで、セレクターを「フ」の字に合わせた。

 

 危険を察したジャスイガラキは後退しようとしたが、光の壁に囲まれているので、逃げることができない。


「待って! 光の壁があるのに、私たちの銃撃じゅうげきは通るの?」


 私が聞くと、EOSイオスが答えてきた。


24にいよん人力砲じんりきほうの光線は、物体ではなく【電磁波でんじは】【光子こうし】でできているよ。結界は、その24にいよん人力砲じんりきほう専用の【電磁波でんじは】【光子こうし】を通すようになっているんだ』


 ウォンダさんは叫んだ。


射撃しゃげき用意……! て!』


 ウォンダさんの掛け声とともに、アリサと私は同時に、24にいよん人力砲じんりきほうの引き金を引いた。


 するどい音とともに、銃口じゅうこうから短い光線――いや、光弾こうだんが連発で飛び出した。


 これが「フルオート射撃しゃげき」か。


「ギヤアアアアア!」


 ジャスイガラキは悲鳴をあげた。


 何発もの光弾こうだんがジャスイガラキの体をつらぬいた。


 そのたびにジャスイガラキの体から、緑色の血がき出る。


「いけない!」


 そのとき私の頭の中に、嫌な直観を感じた。私は心の中に感じたまま、言葉を発した。


「アリサ! 前に走れえええっ!」


 私が叫ぶと、アリサは、「え? ま、前にだと」とあわてた。


 しかしすぐうなずいて、ジャスイガラキのほうに走り始めた。

 

 すでにジャスイガラキの上空には、さっきより大きい大岩が宙に浮かんでいた。


 ジャスイガラキの念力だ!


 あれに当たると確実にあの世行き。


 ――そしてあの大岩が――飛びかかってきた。


射撃しゃげきします!」


 私は声を上げ――24にいよん人力砲じんりきほうの引き金を引いた。


 光弾こうだん発射はっしゃされる。


 爆発!


 私は大岩を――私とぶつかる一メートル手前で破壊した。


 ふうっ……。


 ジャスイガラキを取り巻く結界はすでに消え去っている。ウォンダさんがどうやら「術」で、どうやら結界を消し去ったようだ。


「うおおおっ!」

 

 一方のアリサはジャスイガラキの甲羅こうらによじ登り、緑色の血まみれになりながら――。


「これで終わりだあああああ!」


 24にいよん人力砲じんりきほうを連射で、ジャスイガラキの甲羅こうら欠損けっそん部分に射撃しゃげきした。


 ジャスイガラキの背中に光弾こうだんがめり込むたび、緑色の血がき出てアリサが血まみれになった。


「どおおりゃああっ! これでどうだああ!」


 アリサが叫んだとき、ジャスイガラキがまた瞬間的に膨れふくれあがった。


 アリサは膨張ぼうちょうの勢いで吹き飛ばされた。


 そしてジャスイガラキは私たちのほうに動き出そうとした――が、そこまでだった。


 ジャスイガラキはついに顔をれ――緑色の血を噴水ふんすいのように噴出ふんしゅつしている。


『ジャスイガラキの死亡を確認しました。リナとアリサ、ウォンダさんの勝利だね』


 EOSイオスがそう言った。


「や、やったあああ!」


 私と緑の血まみれのアリサは抱き合った。


 もうジャスイガラキは地面に倒れ込んで、ピクリとも動かない。


 ウォンダさんの通信が聞こえてきた。


『や……やったわね。ふ、二人とも……』


 そしてウォンダさんはつぶやくように言った。


『令和を……なめないでよ、浄霊天じょうれいてん……!』

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