第16話 ジャスイガラキとの対決①【令和八年】

「この化け物をぶったおしゃいいんだろ?」


 アリサは叫んだが、ウォンダさんはそれを止めようとした。


射撃しゃげきの許可は出していないわ! 敵を見極めて――」


 しかしアリサは24にいよん人力砲じんりきほうを発射していた。


 するどい音とともに、銃口じゅうこうから光線が飛び出す。


 その光線がジャスイガラキの甲羅こうらにぶち当たった。


 甲羅こうらなかばドーム状になっている。


 光線が甲羅こうらの前面部に当たり、甲羅こうらの一部が吹っ飛んだ。


「ざ、ざまあみろ!」

 

 アリサは声を上げた。


 ジャスイガラキの甲羅こうら欠損けっそん部分から、緑色の血液が勢いよく流れ出る。


「ハハハ! こいつ、弱ぇえ!」


 アリサがそう叫んだとき、その緑色の血液がアリサに飛び掛かった。


 まるで血液の鉄球――大きさはボーリングの球くらいの、血液の球がアリサに直撃した。


 アリサは十メートルは吹っ飛んだ。


「アリサ!」


 私が声を上げたがアリサは、地面に仰向あおむけになっておりピクリとも動かない。


「このおおおっ!」


 私は24にいよん人力砲じんりきほうを構えたが、ウォンダさんはそれを手で制した。


「アリサの生命反応は消えてない。そうでしょ、EOSイオス!」

『うん、アリサは骨にヒビすら入っていないよ。EOSイオスコートが衝撃しょうげきを防いだんだよ。彼女は失神しているだけさ』

「ほ、本当?」


 私はEOSイオスに聞いた。


『そうだよ。だけどもう一撃あの血液の攻撃をらうと――死んじゃうかもね』


 EOSイオスが淡々と言うので、私は怒鳴った。


「じゃあ、どうすればいいのっ。アリサ、死んじゃうよ!」

「落ち着いて! 『電子注連縄しめなわ』を張りましょう」


 ウォンダさんがそう提案ていあんした。


 電子……シメ……何?


 ジャスイガラキは私とウォンダさんをにらんでいる。


 う、うわあっ……。いつの間にか、血液の球を自分の頭上に五つも作っている!


「いい? 電子注連縄しめなわは相手を捕縛ほばく――つまり、動けなくさせる術」


 ウォンダさんは言った。


「賢者の鬼道きどうの一つよ。注連縄しめなわは、神社で紙がれ下がったなわを見るでしょう。あれよ」

「……よ、よく分からないけど、どうすればいいの?」

「両手を突き出し、『ジャモノシバリツケタマエ』と唱えなさい」

「え、えーっと……『ジャモノシバリツケ』……」


 そのときだ。


 ジャスイガラキの血液の球が、全部――五つ、私目がけて飛びかかってきた。


 すると私の脳裏のうりに、さっきの電子の壁の術が頭に浮かんだ。


「『テンノマモリカベ』!」


 私の前に一瞬にして電子防壁ぼうへきが作られ、すべての血液の球をはね返した。


「す、すごい」


 ウォンダさんは目を丸くした。


「リナ、素晴らしい判断よ」

「あ、ありがとう。でも、その『電子シメノワ』を早く作ろうよ。アリサを守らなきゃ!」

「シメノワじゃなくて、電子注連縄しめなわ。同時に唱えるわよ。いち、にい、さん、はい!」


 私はウォンダさんと同時に唱えた。


「――『ジャモノシバリツケタマエ』!」


 すると私とウォンダさんの両手からなわのような光線が飛び出し、一瞬でへびのようにジャスイガラキをしばりつけた。


 ジャスイガラキを光のなわが自動的に巻き付いたのだ。


「グウオオオ」


 ジャスイガラキは暴れた。


 体を上下させたり、ねまわったりしたが、やがてつかれ果てたようだ。


 光のなわはジャスイガラキの全身をしばり、動きを封じてしまった。


「上手くいったわね。これであいつは血液の念動力操作ができなくなると思うわ」


 ウォンダさんがそう言ったときだった。


 ジャスイガラキが大声でうなった。そして全身がふくれあがった。


あぶない!」


 ウォンダさんが私の前に立ちはだかった。


 ジャスイガラキをしばっていた電子注連縄しめなわが切られ、甲羅こうらが割れた。


 そして――宙を舞った甲羅こうらの一部が、横からウォンダさんに飛び掛かってくる!


「うぐ!」


 衝撃音しょうげきおんとともに、ウォンダさんは店の看板のような大きさの甲羅こうらの一部にぶち当たり――。


 五メートルはふっ飛ばされた。


「ひゅ~。手強いじゃん」


 アリサがいつの間にか起きてきていた。


「ア、アリサ! 大丈夫なの? 怪我は?」

「怪我なんてあるわけねーだろ。お前みたいにトロくねーんだからよ」


 アリサはそう言っているが、額から血を流している。ウォンダさんも心配だし、どうすれば……?


『ジャ、ジャスイガラキに対して、甘い認識だったわ』


 ウォンダさんは向こうの花壇かだんの陰にいて、こっちに通信を送ってきた。


 い、生きてた……ふう。


『私はちょっと……骨にヒビが入って動けない。ダメね……。でも、二人でジャスイガラキを打倒だとうしなさい。私の言う通りやれば大丈夫』

「つーか、相手が強敵すぎんだろ。ゴブリンとかダークエルフの百倍は強ぇじゃねーか」


 アリサは引きつりながら笑って言った。


 自分の赤い血とジャスイガラキの緑色の血で、ゾンビのようになっている。


「ウォンダッ! その打倒だとうの仕方っての、早く教えろ!」

『電子護符ごふを取り出しなさい! 確実にやるわよ!」

「電子護符ごふ?」


 私が聞き返すと、ウォンダさんは通信で叫んだ。


EOSイオスコートの左内ポケットに、電子護符ごふが入っているわ! すぐに取り出しなさい!』


 ジャスイガラキはもう次の攻撃体勢に入っている。


 甲羅こうらの一部、三枚を宙に浮かせて、タイミングをうかがっているのだ。


 私たちはEOSイオスコートの内ポケットから、光る黄色い紙のたばを取り出した。トランプくらいの枚数だ。


 これが電子護符ごふ? 不思議な文字が書いてある。


『表面に書いてあるのは、【神代じんだい文字】というものよ! さあ、宙に放りなさい!』


 私とアリサはすぐに、電子護符ごふたばを宙に投げた。


 電子護符ごふは宙に浮遊すると、一瞬にして千枚くらいに増殖ぞうしょくし――。


 ジャスイガラキに飛び掛かった!

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