第15話 目的地に到着。そして異変【令和八年】

 私――善川ぜんかわリナは、アリサとウォンダさんと一緒に徒歩で新宿に入っていった。

 

 真の攻撃目標である「ゼッコン様」は上空にはいない。


 どこかに隠れているのか?


 ◇ ◇ ◇


蜘蛛くも退治はもう勘弁かんべんだ」


 アリサは真っ青な顔をして言った。


 私は全然つかれを感じていないのも不思議だったが、汗をほとんどかいていないにも不思議だった。


「動いていて体が熱くならないね。こんなダウンジャケットみたいのを着ているのに」


 私は自分の着ている「EOSイオスコート」を見やりながら言った。


「自動冷却れいきゃく機能を備えた、新素材を使っているわ。EOSイオスコートはどんな季節でも対応できる」


 ウォンダさんはそう答えてから突然――。


「雲形のゼッコン様の位置はどこ? 『EOSイオス』、位置を割り出して」


 ウォンダさんがひとり事を言った? 今、EOSイオスって呼びかけたような……。


『雲形のゼッコン様は姿を消しちゃったよ。新たな攻撃目標は【新宿御苑ぎょえん】にいるよ』


 私の首元からかわいい子どもの声が聞こえてきた。


 だ、誰?


 あっ、そうか。このEOSイオスコートって、左肩に人工知能がついているんだっけ。多分、その人工知能の声だ……。


 どうやら人工知能の音声が私たちにも聞こえる仕組みらしい。


 ん? 「雲形」の? ということは、別の形のゼッコン様がいるってことだろうか?


「おい、首の下から子どもの声がしたぞ。霊魂の仕業しわざか?」


 アリサは驚いて私に聞いてきたので、「えっとね、多分、人工知能の機能だよ」と説明してあげた。


 すると、ウォンダさんが私たちのほうを振り返った。


「人工知能、EOSイオスの話を聞いたわね。新宿御苑ぎょえんに向かうわよ。そこに別のゼッコン様がいるらしいわね」


 別のゼッコン様――?


 やはりゼッコン様は、色んな種類がいるらしい。


 ――新宿御苑ぎょえんとは東京でも有数の、とても広い自然庭園だったと思う。


 ◇ ◇ ◇


 私たちは新宿の南東部にある新宿御苑ぎょえんに向かった。


 新宿御苑ぎょえんの新宿門には、駅の改札口のような入口がある。


 普通はここで入場チケットを通すのだろうが、私たちは素通りすることができた。


「うっ……。何だこいつら」


 アリサは声を上げた。


 新宿御苑ぎょえん内部には、体の黒い半透明とうめいの人間の形をした生命体がうろうろしていた。


 黒ローブ男たちと似ていたが、それとも少し違うようだ。


「無視しなさい。彼らはこのパラレル新宿の土地からき出たのエネルギー体。気持ち悪いけどね」


 ウォンダさんは説明した。


 私たちがエネルギー体に囲まれて歩いていると、やがて風景式庭園という大きな芝生しばふ広場にたどり着いた。


 すると一瞬にしてエネルギー体は飛び去ってしまった。


 何かいるのだ! ここに――。


『大きな生体反応だよ!』


 EOSイオスの声が聞こえた。


24にいよん人力砲じんりきほうを構えて!」


 ウォンダさんの掛け声で、私とアリサは24にいよん人力砲じんりきほうを構えた。

 

 地響きがしている。地震か?

 

 それと共にうなり声のような気味の悪い声が、地面の下から聞こえてきた。


 その瞬間――。


 地面が爆発したかと思った。土が引き飛び、地面が盛り上がって何かが地面から現れた。


『注意してね!』


 EOSイオスが叫んだ。


『あれはゼッコン様の一つ、【ジャスイガラキ】だよ!』


 最初は岩かと思った。


 しかし、岩ではなく巨大な化け物だった。


 亀――。


 それは巨大な亀の化け物だった。緑色の甲羅こうらが不気味に光っている。


 足はまるで象をもっと太くしたような四つ足だ。


「こ、これがゼッコン様?」


 私が聞くと、ウォンダさんは「そうよ!」と叫んだ。


「ゼッコン様の一つ、ジャスイガラキ! これから私たちで打倒します!」


 ゼッコン様に一つ一つ名前があるんだ――と感心している場合ではなかった。


 その巨大な亀の大きさは、バスを二台横に並べたくらいの大きさだったからだ。


 ジャスイガラキは急に、まるで腕立て伏せのように体を上下させた。


 すると土がどんどん周囲に吹き飛び、私たちのほうに飛び散ってくる。

 

「電子防壁ぼうへきを張りなさい!」


 ウォンダさんが叫んだ。


「電子防壁ぼうへきは、片手を前に突き出して『テンノマモリカベ』と唱えると出現するわ」

「テンノ……マモリカベ?」


 私がその通りにやってみると、私の目の前に光の透明とうめいな壁が瞬時しゅんじに現われた。


「テンノマモーリカヴェ! こ、これでどうだ!」


 アリサは三回叫んで、やっと光の壁が出たようだ。


 その電子防壁ぼうへきは、土埃つちぼこりをとんどんはね返している。


 しかも、私の向いた方向にその透明とうめいな壁も一緒に向くのだ。


 手袋の手の平の部分には、翡翠色ひすいいろの宝石が貼りつけられている。


 電子防壁ぼうへきはそこから出現したようだ。


「へへっ」


 アリサが笑った。


「この化け物をぶったおしゃいいんだろ?」


 アリサはジャスイガラキに向かって、24にいよん人力砲じんりきほうを構えた。


「――待って、アリサ!」


 ウォンダさんは叫んだ。


射撃しゃげきの許可は出していないわ! 相手を見極めて――」


 しかしアリサは24にいよん人力砲じんりきほうを発射していた。

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