第12話 敵からきたSNS「誰が戦いますか?」【令和八年】

 地響じひびきが起こったような気がした。地面がれた――? 地震?


 音田おんださんが私に言った。


「来たわね」

「えっ? 何が?」

「ゼッコン様よ」

「――ど、どうしてゼッコン様が? あれは夢の世界の化け物でしょう?」

「見なさい」


 音田おんださんが壁を指差した。そこにはモニターが壁に設置されており、映像が映っていた。


「あ……あっ!」


 人魂ひとだま雲が池袋――いや、新宿方面の空に浮かんでいる。


 私が夢で見た――「アリサの世界」と「浄界じょうかい世界」で見た化け物と同じだ。


「あ、あの化け物は、あたしの故郷――ルーゼリック村を襲った化け物じゃないか!」


 アリサが叫んだ。


 モニターを見ると、新宿の繁華街はんかがいから火が出ている。――火災だ!


 繁華街はんかがいのたくさんの店の屋根には、人魂ひとだま雲の武器である巨大フォークが十本以上、突き刺さっていた。


 繁華街はんかがいの店はくずれ、土煙つちけむりが出ているのが見えた。


 道には人々が逃げまどっている。


 ……これ、実際の映像? いや、そうなんだろう。本物なんだろう。


「二人とも、急いでこれを装備しなさい」


 音田おんださんは口を開いた。


 すると青ローブの人々は私に真っ白い流線形りゅうせんけいの……小銃しょうじゅうのようなものを差し出した。


 マンガで見る小銃しょうじゅうより少し大きいもので、真っ白く美しい形状をしている。


「え、あの、これはどういう……」

「これを装備して、ゼッコン様と戦いなさい」

「戦う? そ、そんな無茶を……。私、銃なんてったことない……」


 私がそう言いかけたとき、アリサが声を上げた。


「おい、これは武器か? そうなんだろ?」


 アリサの言葉に音田おんださんはうなずいた。


「さっきも言ったが、あんたたちのことは信用したわけじゃないからな」


 アリサは続けて言った。


「だがこの武器なら、あたしの村をおそった、あのにくき化け物を倒せる……そういうわけか?」


 アリサの言葉に、音田おんださんはうなずいた。


「ええ、きっと倒せるわ」

「へっ。じゃあその化け物をぶっ倒してやるよ。だがあんたら、あやしいことをしてみろ。逆にぶんなぐるぜ」


 アリサは声を上げ、今度は私を見た。


「おい、お前。戦闘に協力しろ」

「せ、戦闘って……。わ、私は……私には無理だよ」

「お前……イライラするヤツだな。お前、良く見たら、えらく体が細いな」

「戦闘なんて……。な、なんで私が自衛隊みたいなことしなくちゃならないの」


 すると音田おんださんが口を開いた。


「リナ、この武器――『24にいよん人力砲じんりきほう』は、あなたのために作成された特別な武器なのよ」

「ええっ?」

「持ってみなさい」


 私は恐る恐る、この流線形りゅうせんけい小銃しょうじゅうを両手で持ってみた。意外と軽い!


 そしてこの両手にしっくりなじむ。ぴったり!


 じゅうなのに……なんか恐い。


 そもそも、どうして音田おんださんたちが私にピッタリのじゅうを作ってるの? いつの間に?


「アリサもそう。アリサが持っている24にいよん人力砲じんりきほうは、アリサに合わせて製造されたもの」


 音田おんださんがそう言うので、私はため息をつくしかなかった。


「そんな……一体、どういうこと?」

「この24にいよん人力砲じんりきほうでなければ、ゼッコン様は倒せない。自衛隊の小銃しょうじゅうやミサイルでは倒せないのよ」

「どうでもいいけどよ、リナだっけ? 早く戦う準備しろよ! トロいな!」


 アリサが私に向かって叫んだので、私はムッときた。


「め、命令しないでよ!」

「お前……。あたしにそんな口の利き方していいと思ってんのか?」

「そ、そっちこそ、何でそんなえらそうな態度取ってんの?」


 私は腹が立って、アリサをにらみつけた。


 あれ? もしかしたら同年代の人とケンカするなんて初めてかも。


 すると音田おんださんはとんでもないことを言い出した。


「ゼッコン様側からSNSで連絡が来たわ」


 ……は?


 音田おんださんじゃ自分の手に持った電子タブレットを、操作しながら言った。


 SNSって、デン子叔母さんがスマホでよくやっている、人と連絡するアプリだよね? 小学生のときにクラスメートがやってたな。


 ん? でも、それはちょっとおかしい。変だ!


「な、なんで、敵からSNSで連絡が来るの?」


 私が驚いて音田おんださんに聞くと、音田おんださんは答えた。


「ゼッコン様をあやつっているのは『浄霊天じょうれいてん教』という宗教団体。浄界じょうかい世界を動かす組織なのよ」

「えええ?」


 私は思わず声を上げた。


「あの夢で見た浄界じょうかい世界の浄霊天じょうれいてん教? 覚えてる! 浄界じょうかい世界にゼッコン様が来たとき、道路でウロウロしていた赤いローブを着ていた人たちだ」

「そうよ。見てごらんなさい」


 音田おんださんは私に電子タブレットを手渡してきた。


 SNSにはこう書いてある。




浄霊天じょうれいてん教『これより、ゼッコン様があなたたちの世界を破壊します。あなたたちがゼッコン様をくい止めなければ、あなたたちの令和世界はおしまいです。ゼッコン様と戦う者は決まりましたか?』


音田おんだ『決まったわ』


浄霊天じょうれいてん教『誰が戦いますか?』


音田おんだ善川ぜんかわリナとアリサ・オルフェス。私がサポートする』


浄霊天じょうれいてん教『善川ぜんかわリナとアリサ・オルフェス。やはりその二人ですか。では、ゲームをスタートしましょう』




 音田おんださんはため息をつきながら言った。


「戦いが始まるわね」

「ねえ! 何でこの人たち、『ゲームスタート』とか言ってるの? 新宿が火事になってるんだよ? 建物が燃えてる!」

「……浄霊天じょうれいてん教の人たちは、令和の私たちの世界をつぶすことをゲームだと思っているのよ。残念ながら」

「い、意味わかんない。夢の世界の人たちが、何で現実の世界に攻めてくるわけ?」


 私が聞くと、音田おんださんはとんでもないことを言い出した。


「夢の世界――つまり浄界じょうかい世界のこと? あれは夢の世界じゃなくて、ハワイの西――太平洋上に作られたもう一つの日本よ」

「は?」


 え? なにそれ……。まさか、これがプロジェクト何とか……ってやつ?


「説明しているひまはないわ。私たちは、彼らを成敗せいばいしなければならない。そうしなければ、令和世界のこの日本を守れない!」

「あたしの村は燃やされたんだ!」


 アリサが私に向かって声を上げた。


「次はお前の住んでるこの国の番かもしれねえんだぞ!」


 私はアリサの言葉に「うっ」となった。


 今、私とアリサしか、この24にいよん人力砲じんりきほうあつかえる人間はいない。


 つまり、ゼッコン様と戦える者は、この世に私とアリサしかいないのだ。


 私は……戦うしかなかった。怖いけど……。


 しかし――この戦いがもっと奇妙なものになるとは、このとき思いもしなかった――。

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