第11話 対邪霊物戦闘衣24式『EOSコート』【令和八年】

「うわーっ!」


 私は目を覚まし、あわてて起き上がった。


「はあっ、はあっ……」


 私は息をついた。今、見ていた夢……火がせまってきて自分が燃えてしまうような熱さだった……。


 我に返って周囲を見ると、真っ白い木の壁材へきざいの部屋だ。ど、どこだろう? ここ。


 私はベッドの上で寝ていたようだ。ひ、ひたいに汗がびっしょりだ。


 私は令和世界の善川ぜんかわリナ。――で、いいんだよね? 頭がぼんやりして記憶があいまいだ。


「こ、怖かった……」


 さっきの夢はまるでテレビゲームのファンタジーRPGロールプレイングゲームのような世界の夢だった。


 確か、ブラン……何とか王国という世界で、その世界の村が火の海になってしまったのだ。

 

 その火の海を女の子が逃げる夢を見た。彼女の名前は確か……アリサ!


「入りますよ、リナ」


 部屋がノックされ、音田おんださんが入ってきた。


 おや? 緑色のローブを羽織ったせた中年白人男性も入ってきた。


 白人男性は私をジロリと見て、甲高い声で言った。


「なるほど、これが例の子どもか。賢者と無関係の者を敷地しきち内に入れてはいかんと、あれほど言ったじゃないですかぁ?」

「いえ、ジェスターさん、この子は無関係な者ではありません。これから彼女は我々にとって重要な存在になります」


 音田おんださんはこの男性――ジェスターなる人物に言い返した。


 医務室? そうか、確かにここは医務室だ。ベッドもあるし、薬品が置いてある。


 今気づいたが、私は「患者衣かんじゃい」を着ていた。よく病院で入院している人が着る、浴衣ゆかたに似た服だ。


「重要? この子がですかぁあ?」


 この白人男性は、私を虫でも見るような冷たい目で見た。


「……私は賢者大神殿のバロウ・ジェスターです。君は――確か、善川ぜんかわリナでしたね。善川ぜんかわ……不吉な名前だねえ~」


 ふ、不吉? 不吉ってどういう意味?

 

「……私は賢者の財務ざいむ管理を担当する者だ。君、こういった子どもに余計な金を使うなんてことのないように」


 ジェスター氏は嫌味ったらしく音田おんださんに言うと、医務室から出て行ってしまった。


「あの人は口が悪いから嫌われているの」


 音田おんださんは言った。


 思い出してきた。


 確か、クローン人間を見たりして、あんまり驚いてめまいがしてそれから記憶がないのだ。


 すると音田おんださんは聞いてきた。


「それより、今までと違う夢を見なかった? 村が火の海になっている夢とか……」

「え? 何で知ってるの?」


 私が思わず言うと、音田おんださんは深くうなずいた。


「とにかく体が動くなら私と一緒に、来てください」


 ◇ ◇ ◇

 

 私はトイレとうがいを済ませ、音田おんださんと一緒に本殿ほんでんの外に出ることにした。


「今は朝の八時半よ。あなたは約十六時間くらい眠っていたかしら」


 音田おんださんが言った。


 朝日が目に入った。朝まで眠っていたのか。


 二年間引きこもっていたのに急に外に出たし、クローン人間も見てつかれてしまったのだから当たり前か……。


 神社の本殿ほんでんの裏口から出ると、目の前にはドーム型の施設があった。


 神社の境内けいだいに、こんな近代的な施設があるなんて驚きだ。


「さあ、入って」


 音田おんださんは、ドームの自動ドアの入口に入っていく。私も続いた。


 ――ドーム内の内部は室内の芝生しばふ広場が広がっていた。


「うわあ……。何なの、ここは」


 木々がところどころに植えられ、まるで公園だ。噴水もある。


 しかし、ここはドームの屋内なのだ。


「おい! 何なんだ、ここは!」


 大声がした。ん? 聞き覚えのある声だ。


 女の子が叫びながら向こうのほうから歩いてくる。


 白いローブの人たち――「賢者」たちと一緒に歩いてきている。


「ん……え?」


 私はその女の子を見て、驚いて声を上げた。


「ア、アリサ!」


 まさか……! そんな! さっき夢で見た女の子がここにいる。


 着ている服は、中世ヨーロッパ風のシャツとぴったりしたスキニーパンツだ。髪の毛は肩まである金髪。


 まさにあの夢で見た、ブラン……何とか王国のアリサが私の目の前にいる。


「ん? ええっ?」


 アリサも私を見て目を丸くし、声を上げた。


「あんたは……えーっと、夢の中の! 確か、リナ?」

「アリサ! どうして私のことを知っているの?」

「だって、あんたのこと、夢で見たから」

「ど、どうなってんの? アリサ、私もあなたのことを夢で見たよ」


 何で夢で見た女の子が、現実の世界にいるの? 意味が分からない。


 すると……。


「ちっ。何から何までおかしなことばっかりだ」


 アリサは舌打ちした。


「……あんたらはあたしをだましてるんだ。リナだっけ? あんたもだよ。あたしはそう簡単に人を信用しないぜ」


 アリサは音田おんださんと私にそうすごんだ。


 すると音田おんださんが私たち二人に声を掛けた。


「色々疑問があるだろうけど、まずはリナ、着替えましょう。アリサも」

「え?」


 私は自分の着ている服を見た。確かに患者衣かんじゃいじゃカッコ悪いな。


「では、準備を」


 音田おんださんが言う。……準備?


 すると後ろから五名、青いローブを着た人たちが来た。


 私をドーム内の壁際の部屋のほうに案内しようとする。


 き、着替えるのに何でこんなに人が来るの?


「おい! あたしに気安きやすさわんじゃねーよ! 何なんだ、この世界はよぉ!」

 

 アリサは叫びながらも、隣の部屋に連れていかれた。


 私は嫌な予感がした。

 

 ◇ ◇ ◇


 部屋の中で人の手を借りながら着替えた服は、不思議な奇妙な服だった。


 全身鏡に自分の姿を映してみる。


 これはコート……? すそはひざまであり、長袖ながそでだ。


 よくサッカー選手が、冬の試合でベンチで体を温めるときに着る「ベンチコート」に似ている。


 色は真っ白。コートの素材の表面はつるつるしていて、中に綿わたが入っているのか、少し弾力性だんりょくせいがある。フード付きだ。


「ん? この肩のものは何?」


 左肩にはかたい素材でできた肩当てのようなものが一つついている。


 そこから透明とうめいな光るコードが三本出ていて、背中とつながっていた。


 私がドーム内の室内庭園に戻ってくると、アリサも同じ服を着て待っていた。


「何なんだ、この服は。何の冗談なんだ……ああ?」


 アリサも同じ服を着ている。そしてジロリと青ローブの人々をにらみつけた。


「体が軽いよ!」


 私はそう言いつつ、ぴょんぴょん飛びねた。


 本当に体が軽い。スポーツ選手にでもなったようだ。


 アリサも体を動かしている。


「何だこりゃ。確かに体は軽くなったが……。おい、あたしに呪術じゅじゅつをかけたんじゃねえだろうな!」

「……説明するわ」


 音田おんださんは静かに言った。


「その服は対邪霊物じゃれいぶつ戦闘衣せんとうい24にいよん式『EOSイオスコート』よ」

 

 は?


 タイジャレイブツ……イオス……。


 音田おんださんの言っていることが分からない。


 そのとき――。


 ドンッ

 

 地響じひびきが起こったような気がした、地面がれた――? 地震?


 音田おんださんが私に言った。


「来たわね」

「えっ? 何が?」

「ゼッコン様よ」


 え?


 ゼ、ゼッコン様? ど、どういうこと?


 あの「浄界じょうかい世界」と「アリサの世界」に出てきた怪物が……この令和の世界に来たっていうの?

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