第4話 ゼッコン様が来る①【浄界八年】

「ん……?」


 私はハッと目が覚めた。


 そして周囲を寝ぼけまなこで見回した。


 ここは……神社? 神社の境内けいだいには避難ひなんした人たちがたくさんおり、私といえばベンチに座っていた。


(私、また眠っていたのか……。はあ、まいったな)


 ――私は浄界じょうかい八年の善川ぜんかわリナだ。


「どうなってるんだ! おい、情報はねえのかよ!」

「ゼッコン様は来るのか? はっきりしてくれよ」


 人々が境内けいだいさわいでいる。


 私といえば、さっきまで令和とかいう年号の、「引きこもりのリナ」の夢を見ていたらしい。


「命が危ないんだぞ、若いヤツらは神社を出て戦え!」

「なんだと? 老人だからってあんたこそ逃げるな!」

「うるせえ、この野郎!」


 避難ひなんした人同士でつかみ合いのケンカが始まった。


 皆、イライラしている……。


 ここは高台にある神社だが、神社の横が坂になっていて足腰の弱い老人でも参拝できるようになっている。


 私は学校の放課後、喫茶店で「ゼッコン様出現」のニュース速報を見て、高台にあるこの南日みなみび神社にけ込んだ。


 するとなぜか途端とたんに、極度に眠くなったのでベンチに座って……眠ってしまったようだ。


「おい、文句があるのかっ。てめぇ」

「あんたこそ」


 これから本当に化け物が攻めてくるのかどうか分からないので、皆、不安になっているのだ。


 相変わらずケンカが続いていたが――。


 え……? うわっ!


 空には巨大な円形のにじができていた。


「『車輪虹しゃりんにじ』!」


 私は思わず声が出た。


 車輪のような七色の巨大な輪が、空に浮かんでいる。


 まるでパイナップルの輪切りをたてにした状態のにじだ。この車輪虹しゃりんにじは不吉な前兆ぜんちょうと言われる。


「あら? こんなところにいたの?」


 聞き覚えのあるトゲのある声……! 私はハッと見上げた。


 坊原ぼうはらモニカだ! 手下のパン子もいる。


 モニカは私の座っているベンチを、ガツガツ蹴りながら言った。


「プルプル震えちゃって、何ビビッてんの? ダサいわね!」

「モ、モニカは怖くないの?」


 私が思いきって聞くと、モニカはクスクス笑いながら言った。


「ゼッコン様なんて見たことないし。そんなわけの分からない化け物が、こんなところに来るかしら。何か信じられないのよね~。そうでしょ、パン子」

「大人がでまかせ言ってんじゃないの?」


 パン子も伸びをしなら言う。


 こ、この子たち、危機感がないのかな。


 私はモニカに左ひざを蹴られた。


「フン、ベンチは私たちが座るのよ。邪魔よ、どいて」


 モニカとパン子は南日町みなみびまちに住んでいる。家は少し離れた場所にあるが。


 パン子は新宿区の大久保に住んでいるが、モニカとつるんでいるので、この神社に避難ひなんしてきたんだろう。


 また蹴られてはたまらないので立ち上がったたとき、神主かんぬしさんが声を上げた。


「ジャドロモノだ!」


 神社の横にある、ケヤキの木の近くに人々が集まっている。


「は、初めて見た」

「ほ、本物か」


 私が立ち上がって見に行くと、大きなネコくらいの大きさの芋虫いもむしがこっちを見ている。


 これは教科書で見たジャドロモノという生物だ。


 ゼッコン様が出現するとき、ジャドロモノが発生するという。


 毒をまき散らすので、早めに駆除くじょしなければならない決まりになっている。


 ちなみにジャドロモノは「邪泥者」と漢字で書き、この生物はゼッコン様とは違い写真が出回っている。


「どなたか、小銃しょうじゅうあつかえる人はおりませんか?」


 私はドキッとした。


 神主かんぬしさんは小銃しょうじゅうを持っていた。


「我が神社に政府から支給された、緊急きんきゅう用の23にいさん小銃しょうじゅうです。どなたかあつかえる人がいたら、装備してくださいませんか。ジャドロモノを駆除くじょしていただきたいのですが……」


 周囲の人々は、顔を見合わせている。


 学校――高校が軍隊式教育になったのは、八年前から。


 軍人以外で小銃しょうじゅうてる一般民間人は、十六歳から二十四歳までの若者だ。


 だけど、この神社にはそれに該当がいとうする人間は、私かモニカ、パン子くらいしかいない?


 すると……。


「俺にまかせな!」


 私を押しのけて、男の子が前に出てきた。


 間山まやま高校の制服を着ている? ん? 彼は……。


「よぉ、お前、善川ぜんかわリナじゃねーか」


 同じクラスの山内レイジだ。彼も南日みなみび町に住んでいる。


 一応、イケメンではあるほうだが、女子の人気はあまり高くない。お調子者で、成績があんまり良くないからかもしれない。


「俺にしてみ? じゅうなんか嫌いだけどさ」


 山内レイジは神主かんぬしさんから小銃しょうじゅうを受け取った。


「安心しな。俺がやっつけてやる!」


 山内レイジは、不安気な顔をしている人々に言った。


 そして――山内レイジはジャドロモノをにらみつけた。

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