第3話 その先にあるもの
「おい!痛てぇな!前見て歩けよ!」
俺は故郷にも戻らず、近くにあった街で当てもなく彷徨い歩いていた
「おい!」
夜が明けてからどれくらいたっただろうか
「聞いてるのか!」
俺は何者なんだ
魔王を倒して何がしたかったんだ
「おい!兄ちゃん!」
その時だった。肩をガッと掴まれた
「兄ちゃんどうした、うわの空で歩いてたらあぶねぇぞ」
「あ…」
気付くと大柄な40くらいの男に肩を掴まれていた
どうやらずっと声をかけてくれていたらしい
「何があったかわからんが、その疲れ切った顔に汚れた服って…兄ちゃんいいとこの坊ちゃんじゃねぇのか?大方家から追い出されたとかか?」
「いえ…まぁ…」
「ん~」
大男は少し考えると良いこと思いついたといわんばかりにいい顔をした
「よっしゃ、家来い!飯と風呂くらいごちそうしてやる!」
「え?どうして…」
「なんとなくだよ」
ガハハハッと大笑いしながら答える
どうしてこうなったのか考える脳のキャパシティーもないので、とりあえず付いていくことにした
道中いろんな話をされたが、どんな話をされたか覚えていない
しばらく歩くと街のはずれに小さな家が建っていた
「ここが俺の家だ、おう!かぁちゃん帰ったぞ!」
家の中に案内されると中から女性が出てくる
「お帰り!ん…?この子は?」
「おう、帰り道でしょぼくれた顔してたんで連れてきた!風呂入れてやりたいからタオルと着替え準備してやってくれ!」
その女性は俺をまじまじと見つめる
「確かに!これじゃあいい男が台無しだよ!」
ほい!タンスからタオルと着替えの服を出して手渡してくれた
風呂まで連れていかれる
ここまで来たのだお言葉に甘えて風呂に入ろうと思った
「ふぅ」
体を洗い湯船に浸かる
湯船に浸かるのもいつ振りか
普段は川で汚れを落とすか、宿に泊まってもシャワーだけで湯船には入らなかった
水の音だけしか聞こえないこの空間で色なことを考えそうだが、リラックスできたのかあのことは出てこなかった
「お風呂…ありがとうございました…」
「出たか、さぁ、飯できたから一緒に食べようや!」
風呂を出ると机の上にこれでもかというくらいご飯が用意されていた
手招きされ椅子に座る
「あの…色々とありがとうございます!」
「いいんだよ、困ってるときはお互い様だよ」
泣きそうになる
旅をしていたころは、どこでもお偉いさんとの会食だけだったから…
「あ、あの、お名前をお伺いしてなかったのでお聞きしてもいいですか?」
「そうだったな、まだ名前言ってなかったな」
大男は再び高笑いした
きっと、切符のいい人間なのだろう
「俺はガーランド、でこっちはジェイミー」
「ガーランドさん、ジェイミーさんありがとう…」
「兄ちゃんこそ名前なんていうんだい」
「カノ…」
カノンと言い切る前にやめた
カノンは彼であって俺ではない
俺は…俺は…
「レオ…レオです!」
「レオ、たくさんお食べ」
ガーランドさんとジェイミーさんに進められて手を進める
楽しく色んな事を話しながら…
そして、夜が更けていく
ここであることを切り出す
「あの、何も聞かないんですか?」
すると二人は見合って突然笑った
「そんなもん、無理に言わなくていい!言いたいことは言いたい時に言えばいい!」
「そうさ!この人の言う通り!それに何かあった時は美味しいごはんと楽しい話!それですっきりすればいい!悩みなんてものはずっとついてくるの、でも忘れちゃいけないのはそれでも前に進むこと!時には立ち止まってもいい!けど、進むことを忘れないこと!」
立ち止まろうとしてた俺には心に深く突き刺さる…
まだ胸のつかえは取れないけどとりあえず前に進もうって思えた
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「お風呂にご飯ありがとうございました。」
「ほんとに泊っていかなくていいのかい?」
「ジェイミーさん…ありがとうございます。行くところがあるので…」
「かぁちゃん、男はやると決めたことはやるもんなんだよ、レオ行ってこい」
「ガーランドさん…今日は本当にありがとうございました。楽しかったです」
「おう、何かあったらいつでも来いよ!」
二人に見送られ目的地に向かう
どうするかは分からない
でもとりあえず進もう、魔王を倒さなきゃいけない
この時代のミュラも生きてる
まずはできることをやる
だとしたらここで止まっていられない
夜だけど歩みを進めたくなった
ゆっくりゆっくりと前へ進む
振り返ると街は静かに眠る
そしてガーランドさんの家は赤く燃えている
そう赤く赤く…
「何が起きてる!」
ガーランドさんの家が燃えていた
進行方向を180度転換して街に戻る
急げ、ガーランドさん…ジェイミーさん…
頼む生きててくれ…
あんないい人たちが何でこんな目に…
とにかく急ぐ、急いで急いで
そして心の中で祈る
無事であってくれと…
近くなってくると人だかりが既に出来ていることに気付いた
あれだけ人がいるなら大丈夫だろう
きっと大丈夫
少しだけ安堵して現場へ向かう
近づくにつれて様子がおかしい事に気付く
火災と人の声で耳が裂けそうだ
それも救助する人の声ではない…
罵声、誹謗中傷の嵐だった
どう見ても人を助ける様子ではない
「どけ!」
周りにいる人間をかき分けて救助に入る
が、もう遅かった…
家は燃え尽きていないのに二人は…
二人を外に運び出す
「おい!あいつが出てきたぞ!」
「てめーなに出してきてんだよ!そんな汚ねぇもん!」
「今すぐそのごみを燃やせ!」
二人を家の前に丁寧に寝かせる
「いつでも来いよって言ってくれたじゃん…」
「おい聞いてんのか!ゴラァ!」
「この人たちが何をした…」
「は?そいつらは街の組合に所属してねぇんだよ!俺らのルールに従ってねぇんだから当たり前だろ!」
「それ如きで?」
「ここにはここのルールがあるんだよ!」
「あ、そういえばこいつガーランドの家にいたやつじゃねぇかよ」
「は?ならこいつも」
やじ馬たちは武器を手に持っていた
「困っておるようじゃのう、貴殿」
「いたのか、別に困ってない、必ず捕まえて…」
その瞬間、何かが切れる音がした
「必ず殺す」
リリスは微笑む
その顔を見ると頭の中に新たな剣の名前が刻まれた
今までの剣は脳の図書館からすべてが消えた
その代わりにとてつもない力を感じる
×××××よ
その名をよべ
その問いかけに呼応するように剣を呼ぶ
俺の新たな力
「来い、ダインスレイフ」
レオをの手には赤黒く光る刀身の剣が握られていた
その色はまるで人の血のように赤く、人の憎悪のように黒く濁っている
迫ってくる奴らを一人一人見つめる
動き遅く見える
まずは一人
近くにいた男の喉に剣を突き刺す
そして素早く喉に刺さった剣を抜く
抜いた個所から鮮血の花が咲く
ダインスレイフは大きく脈を打ちより黒く染まる
まるで、血を飲み込み喜ぶかのように
「…?動いてないのか?」
一人目を処分してから気付く
やじ馬たちは1ミリも動いていなかった
少しづつ動いてはいるが、まるで時を止めたかのように見える
「なんだ、もっと早くからこの力に気付いていれば…」
レオは一呼吸も置かずに次へ次へと人を切っていく
そのスピードはどんどん上がっていく
ようやく、新たな剣に慣れていたころには周りにいた人間は全て倒れていた
緑の絨毯にはワインがこぼされたかの如く真っ赤に染め上げられていた
「リリス、魔法は使えるか?」
「使えるぞ」
「そうか、ここ一面を燃やし尽くしてくれないか?」
「ふむ、かまわんぞ?」
~第五階層 宿怨の炎~
リリスの炎で全てが焼き尽くされる
異変に気付いた街の他の住民たちが集まってくるがそこにはもう何もない
先ほどまでたっていた二つの影ももういない
「こんな力があるならもっと早く教えてくれよ」
「貴殿もせっかちじゃのぉ」
「この力があれば世界を、全てを破k…」
頭が割れるような痛みに襲われる
立つのもやっとなほどの痛み…
「あ…あ…ガァァァァァァっ!」
何が起きたのか
突然、心の底から何か黒く汚い感情が湧いたと思ったら…
そのあと…ヒトヲコロシタ
殺した?どうして?殺さずに罪を償わせればよかったのに
「リ、リリス!俺は…俺は…殺したのか?」
「あぁ、それはとてもかっこよく妖艶であったぞ?」
嗚咽が止まらない
この手で人を殺した?
「貴殿は何を感じておる?殺しなど何度もやってきたではないか」
「俺は今まで人を殺したことなんかない!」
「傲慢な人間だな、魔獣は敵だから良いと?ならば先ほどのやつらも同じではないか」
「魔獣は違う!」
「人に称賛される殺しは良いのか?魔獣にも生あるものそれは殺しに入らんのか?」
「違う……違う…違う違う違う違うチガウチガウ」
あぁ、またどす黒い感情が湧き出てくる
「違う!俺は違う!」
息を乱しながら答える
『ふむ、今はまだ保てているか…まぁよいこれから時間をかけていけばよい』
様々な感情が入り乱れる夜
それを眺めるもう一つの影
道を切り開く2つの光
世界が歪みを生み出し始めた
Alternation End~最強の勇者は過去を変える~ たかてぃん @takatin1020
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