第21話 そろそろ旅立ち

 高木は、マーソの家で眠っていた。ウサギの襲撃しゅうげきにより、休養きゅうよう余儀よぎなくされていた。マーソは、魔術訓練と受付としての仕事を両立しているらしい。高木はというと、もう既に20日程度は、マーソの家で休んでいただろうか。


 これほどまでに休養するつもりはなかったのだが、やっと体が元の状態に戻った。特別に日付への執着はなかったが、旅立ちの日までには間に合いそうだ。


「よっし!活動再開しますかね」


 旅立ちの日はもう間近である。いろんな行事が重なってかなり準備が進んでない。大体5日後。それまでに、旅の準備をしないといけない。


「まずは…どこ行こうかな?」


 旅支度といえば、やはり食事は大事だろう。野宿の心得などない。それに、モンスターとかの解体が簡単にできるとは思えない。高木は調理自体はできるので、食材だけでも買うべきだろう。


 そして高木的に睡眠はかなり重視したい。寝床を絶対に取るべきだ。


「うーん…結構ほしいものが多いなぁ…とりあえず、考えるの面倒くさいし外行ってみるか!!」


 あらかじめ計画建てをするより、その場その場で行動する方が高木の好みである。


 村を散策し、商業店を探す。最近、村を見渡せているといっても、どこにどういう店があるのかわかるほど詳しくはない。

 ある程度村を散策していると、気になる店を見つけた


「ふぉぉぉ!!あれは、まさか、異世界の武器防具を売ってる店!」


 それは【マクノ鍛冶店《かじてん】】という名の店だった。名前通り、武器と防具を鍛冶により生産し、それを客に売るという店である。


「入りますか!!」


 高木は足をはずませながら入店した。


 中には、様々な武器があたりに置かれていた。お手頃そうな武器は、かごに雑に刺されていた。壁には、明らかに高級品のような武器防具がある。


 高木はRPGで言うならば防具より武器を買う派である。武器にのみ注目する。というのは冗談で、武器にしか興味がないだけである。


 武器種は、剣、槍、杖、斧、大剣など、オーソドックスな武器以外にも、むちニブーメランのような少し癖《くせ】のある武器もあった


(…大分ずるいけど、解析鑑定させていただきますかぁ。                                                   俺の場合は杖かな?まぁ剣とかもいいけど。えぇと?ふむふむ、杖はステータスで言うとINTが上がるんだな、高級品にはMPが上がるものもあるんだなぁぁ。あん?はぁ?え? まって…なんだこれ?まじかよ…)


 一際、いやそれにしか目が向かない。それは、おそらくだが、商品として売られている物ではない。特別な品


 高木にとって至高の逸品にして、絶対の価値をもつ物


(特殊効果”中級魔術の詠唱破棄えいしょうはき”!?こんなとこで無詠唱化…まじで…?)


 ステータスの上昇。そんなものは、ほぼカンストステータスの高木にとってさほど意味はない。無詠唱化、高木にとってこれ以上ないほど魅力的で、魔性ましょうの効果。


 武器名「呪奏の杖カオスサルべ


 高木にとってそれは正真正銘、まさしく超絶の杖である。


 全長は40cm程度で他の杖に比べると少し短いかという程度である。

 見た目は、黒を基調きちょうにした金細工きんざいくが目立つ絢爛けんらんな杖である。マーソに聞いたのだが、杖というのは先端部せんたんぶの宝石が重要らしい。当然この杖は、誰が見てもその価値に気づくほど美麗びれいだ。持ち手も、非常に持ちやすそうであり、使用者の願いニーズをすべて満たした武器であると感じる。


「おっちゃん!これ売ってる!?」


「お、おう…売ってはいるが、どうしたんだ?」


 一応買うことはできるらしい。まぁ当然といえば当然だ。並べられているのならば、商品であるということだ。


「じゃあ、俺に売ってくれ!!いくらでも払う!」


 出し惜しみはしない、さほど金を持っているわけではないが、有り金全てを叩いても手に入れる価値はあるだろう。


「別に売るのはいいが、本当にいいのか?これはマーシネー産の杖だぞ?世間一般的に呪われてると言われている杖だ。まぁそれでも買いたいって言うなら…特別に30000円で譲ってやろう。」


「早い!!そして案外安い!!けど、マーシネー産っていうのと、呪われてるってのはどういうことなんだ?」


 安いと言うのは嬉しい点だ。だが、呪われている武器が、安いと言うのは、なにか勘ぐってしまう。


「おまえ、知らずに買おうってのか?まぁ知らねぇなら説明してやる。感謝しとけよ?…マーシネー産の杖が呪われてると言われている理由。」


 神妙な表情になり、高木もそれにつられ、強張った表情になる。


「一言でいうと、マーシネー産の杖が呪われていると言われている理由は、魔術の威力いりょくが全く上がらないからだ。だが、そのくせに高ぇ。高い理由は杖に必須とされている宝石が、美麗びれいかつ、それなりに高級品だからだ。宝石というのは、綺麗に加工され、高級な品であればあるほど、魔術の威力が上がる。逆に言えば、それほどまで整った杖なのにもかかわらず、魔術の威力が上がらねぇ。呪われていると言われても仕方ねぇだろ?」


 そう言われ、高木は、辺りの杖を見渡す。この人が言った通り、綺麗きれいな杖ほどステータス上昇量が高くなっている。本当のことを言っているのだろう。だが、魔術の無詠唱化、魔術師にとって、これに勝る効能はないだろう。なのになぜ売れないのか、それはおそらくだが


(俺以外の人にはというより、解析鑑定持ちとか、魔術の無詠唱化の概念がいねんを知っているやつしか、価値がわからないのか?)


 この世界の一般常識として、マーソに聞いたことがある。この世界には初級魔術以外に、無詠唱で扱える魔術など存在しないと。


「まぁ難しいことはいいや、とりあえず買わせてくれ!」


「ここまで言われちゃ、仕方ねぇか。あいよ!いやぁこんなの、マニアなコレクターしか買わないもんだと思ってたぜ!」


 1万円札を3枚置く。やはり、札の制度だとか、札の見た目もそうだが、日本と全くと言っていいほど遜色そんしょくない。


 杖を受け取り、背中に担ぐ。高木は、その間考えていることがあった。それは、マーシネーに関することだった。元々の旅先ではあったものの、無詠唱化の杖を生産しているとなると、ますます興味が湧く。もしかすると上級、はては、神級の魔術まで、無詠唱で使用可能になるかもしれない。


(楽しみだな、マーシネー!)


 高木は店をあとにする。


 その後の高木は、雑貨屋や、精肉店、青果店等で、旅の支度を整え、マーソの家へと帰宅する。


「ただいまぁ!!」


 それだけ言い残すと、高木は足早に風呂へと行く。あらかじめ用意されていたのか、風呂は溜まっていた。ありがたいものであるなぁ。風呂に浸かり、一日の疲れを洗い流す。


 風呂を出たら、直行で寝室へと向かう。


「高木さん!!」


 後ろから話しかけられた。それは、マーソの声だった。


「ん?どした?」


 言葉を交わそうとするが、何も話してくれない。あちらから先に仕掛けてきたというのに、なぜ何の応答もないのだろうと疑問に思う。


「えっと…その、なんでもないです…」


 やっと口を開いたかと思ったら、「なんでもないです」だ。何だったのだろうと思うが、高木は振り返り、もはや走りの領域りょういきで寝室へと入る。

 即座そくざに布団へとダイブする。1日の疲労と旅行へのワクワクから、すぐさま眠ってしまった。


 その間、マーソは何やら暗い表情をしていた。

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