第22話 旅立ちの日に

 ギンッッッ!!


「目覚め、よし!!」


 すごく気持ちの良い朝である。日差しが眩しい。気温も適度に高く、絶好の旅日和である。

 ベッドから飛び降りる。気持ちを抑えることができていないのか、体に現れてしまっている。鼻歌交じりに軽快なステップで準備をする。

 

 今日は旅立ちの日だ。少し心細いが、イロハやマーソは連れて行かず、フォスとの二人旅。


「よし!!こんなもんかな」


 時刻はだいたい7時程度。早急に旅をしたいと考えている高木は、マーソたちを起こさぬようそろりそろりと、マーソの家を去る。


「確か、あっちだったっけ?」


 ギルドからもらった地図を確認しながら、道の確認をする。村の敷地から、出ようかといったところで


「あれ?…あんた…」


 後ろから、誰かに声をかけられた。振り返ると背後にいた人物の姿が確認できる。


「イロハぬんぅ…何故ここにいるのだぁぁぁ!!」


 背後にいた人物。それはイロハだった。スケジュールを完璧に把握してるわけじゃないが、なぜこんな朝早くから外出などしてるのだと理不尽な怒りを向ける。


「こんなところで何してるんだい?日課というには少し早い時間だろうし…それにマーソ君も居ないようだね…」


(や、やばぴぃ…このままじゃバレちまうゥ…頼むフォス!!俺を助けてくれ)


(…七転び八起き…人は失敗があるから、成長できるんです。ご主人、どんまい。)


(うるせぇよダボがぁぁぁぁ!!)


 ずっと黙りこくってしまうのも何か申し訳ない。ここは何か話題を逸らさないとならない。


「エテニティ―レゲンドルイン!!エテニティ―レゲンドルイン!!」


 高木流、謎の威嚇いかく行為の炸裂さくれつだ。


「ど、どうしたんだい?本当に狂っちまったのかい?」


 傍から見れば、完全に狂瀾怒濤きょうらんどとうだ。ただ、高木には思惑がある。


(たのむ…!俺が気を逸らすから…何か策をぉ…)


 フォスペットに情けなく助けを求める。


(…そもそも、正直に話しても別に大したこと無いんじゃないですか?一緒に旅しましょうよ)


「……確かに。そうだなぁ…一人旅にこだわる必要ないじゃん。」


「旅?まさか…アタシ達に隠れて旅する気だったのかい?」


 もう決意は決めたはずだろう。高木豪散よ!!


「いや、イロハを誘いに来たんだ。一緒に旅でもどうだ?」


(いいですよご主人!!これが成長の味です!!良く噛み締めましょう。)


 高木は考える。イロハを誘ったとなると、マーソも誘うべきではないのかと。


(流石にマーソを誘わないのは可哀そうだよなぁ…)


「ま…待ってください!!」


 後ろから声が聞こえてくる。これは、マーソの声だね。濁す必要もなくこれはマーソ君だ。


「あえ!?マーソじゃん。丁度良かった。お前も―――」


 高木は先程考えていた通りマーソを誘おうと声をかける。だが、寸前のところでイロハに口を抑えられてしまった。


「いや待ってくれ…もうちょっとだけ待ってみないかい?」


「え?…何故なにゆえ?…良く分からんけど…了解」


 理由は解らないがイロハから注意をいただいてしまった。高木は思い出す。そういえば、兎を倒した後からマーソに対して少し様子がおかしい気がするが…何かあったのだろうか?


「僕も…僕も」


「僕も?」


「僕も…マーシネーへの旅に連れてってください!!」


「……え?なんで?」


 それは、マーソからの旅の同行の申し出だった。なぜ、今になってそのことを話すのだろうという疑問と、あれほどまで毛嫌いしていたマーシネーへの旅になぜ、同行させてほしいと願うのか理由がわからない。


「実は…僕、地理に詳しいだけで、マクノ村から出たことないんです!だから、高木さんと一緒なら、旅ができるって思ったんです…あ!もちろんパパとママにも言ってますよ?」


 どうやら、以前説明してくれたように、周辺国に行ったことがあるというのは嘘だったようだ。マーソなりの強がりなのかもしれない。だが、まだもう一つの疑問が解決していない。


「別に良いんだけどさ、なんで今頃になって…1週間前とかでも、昨日とかでも言えばよかったじゃん。」


「いえ…その…」


 また口がくぐもりだす。


「まぁまぁそういうのは別にいいじゃないか!!そんな細かいところはさ!!さぁ、旅立ちと行こうじゃないか!!」


「それもそうだな。じゃあ、3人旅と行こうか!!」


(私がいるんですけど??ぶっ飛ばしますよ?もしかして、私ってお邪魔なのかな???ぽっと出の謎の生物には…)


 袖の中に隠れていたフォスが、嫌味な言葉を言いながら顔をのぞかせる。高木は何とか黙らせたいと考える。高木は、フォス相手に生半可な物理技が効かないことを分かっている。なので日々の練習の中で編み出した技を魅せる。


岩弾ストーンキャノン…」


(そんなの、主人の魔力じゃ村に危ないからやめたほうが良いですよ)


 それは、初級岩魔術の岩弾であった。だが、普通に使うのであれば、袖の中にいるフォスだけには到底当てることなどできない。周りにも被害が出てしまう。


 だが、日々の魔術練習により、熟練されていった魔力制御技術により、その大きさは、フォスにのみ当たるよう調整される。神のごとき魔力制御。まさに神業かみわざ


 その一撃は、ほとんどの速度を殺しているものの、高木の絶対の魔力量+超圧縮ちょうあっしゅくにより、かなりの威力を誇る。もちろんだが、それは死なない程度にだ。袖の中に腕を通し、その小さな弾丸をフォスめがけて放つ


(いっっっっっっっっったぁぁぁ!!!)


 いい反応をするじゃないかと、内心にやけが止まらない。


「行くかぁ!!イロハ、マーソ!!


「はい!!」


「あいよろこんで!!」


(くそ主人めぇ…)

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