第20話 マン・ニシラという男

 マン・ニシラは、マクノ村周囲の森で野宿をしていた。事前に用意しておいた食料を食べながら、時間を過ごしていた。特に目的があるわけではないのだが、マン・ニシラはマクノ村へと向かっていたのだ。


 その時、目的地であるマクノ村から巨大な火柱が発生した。


 その火柱は炎の上級魔術【爆炎拡散フレイムノヴァ】によるものだった。

 それは、俺が知りうる最も強い魔術師であるさん以上の魔術だった。


 その火柱を見た俺は、すぐさまマクノ村へと向かった。


 先日、この町で事件が発生したらしい。それは、ホンダラビットの大量発生による村の崩壊ほうかいだ。ある英雄えいゆう活躍かつやくのおかげか、未遂で済んだものの、被害はそう安くない。不幸中の幸いか、死者はほとんどいなかったらしい。


(もう少し早く動けていれば…助けられたのかもしれないのに…悔いても仕方ないか…死者がは、ない。命が廻ることを願おう。)


 話によると、以前からホンダラビットの発生が増えていたらしい。その度、冒険者に討伐依頼が回ってきていたのだが、まさか、これほどまで発生数が増加していたとは。もしかしてこれは、ドミネーションモンスター足狩のセイの発生が起こってしまったのではないのだろうか?


 ドミネーションモンスターとなると、脅威度はB+相当の文句なしの化け物だ。


 ドミネーションモンスターというのは種族間のいわば”英雄”


 卓越たくえつした肉体としての能力と、国士無双こくしむそうと評してもいいほどの指揮能力によって種を統率し、支配する能力を持ち合わせた危険な存在。


 マクノ村なんて、本来であれば滅んでしまってもおかしくはない。


 モンスターの脅威度きょういどというのは、ギルドの冒険者のランクと比例しない。冒険者のランクは、つまるところギルドにとっての有益度ゆうえきどだ。


 だが、脅威度というのは、Bでさえ、都市一つ滅ぼしうる可能性を持つ力を持つ。B+ともなれば、1村にどれだけ有力な冒険者が集まっていようと、対処することなど到底できない。


 だが、足狩のセイの発見報告はギルド内では見られない。


 ならば、なぜホンダラビット大量発生が起こってしまったのだろうか?足狩のセイがいないのにホンダラビットが大量発生することなど考えられない。となると考えられるのは。


(…利益とかを気にしない誰かが倒したってことだけかなぁ…)


 なら、そのウサギを倒したのは誰なのだろう。俺程度の実力なら、苦労することなく倒せるが、一般の冒険者には相当難しいはずだ。マクノ村にはモガナミさんがいたはずだが、モガナミさんでも、足狩のセイは倒せないだろう。可能性があるとすれば”スーソン”さん位だと思うけど、あの人でも多分よくて勝率は五分五分程度。


 他のホンダラビットの進軍を加味すると、到底、モガナミさんとスーソンさんでも、これ程まで被害を抑えることは出来なかっただろう。

 おそらくだが、足狩のセイを討伐したのは、あの火柱を発生させた張本人だ。だが、それは誰なのかわからない。


 そんな考えが頭を巡らせながらギルド内を歩いていると、ドサッと誰かとぶつかってしまった


「あ…すいません…」


「あぁ…こちらこそ申し訳ない。」


 マン・ニシラは、その誰かとぶつかってしまった瞬間顔がほんの少し強張る。


(っ…これは…存外簡単に見つけたな。この、周囲を丸呑みにしかねないほどの魔力の歪み。この男こそが、あのウサギを倒した張本人だ。絶対に断言できる。それに、なんだ?あのテイムモンスターは、見たことがない種族だな)


 相手の男は、こちらを観察しているようだ。まぁ仕方ないか、正直、俺は冒険者最強だ。冒険者界隈かいわいでは、もっとも有名といっても過言ではないかもしれない。ほかの冒険者に認知されててもおかしくはない。


 だが、当然俺は相手のことを知らない。足狩のセイを倒しうる実力を持っているのに俺が知らない冒険者…いや、俺が知らないのは当たり前かもしれないな。俺、あんまり働いてないし。


 ただそれを抜きにしても、あのテイムモンスターは俺ですら見たことがない種だ。何かあるに違いない。


「すまないが、少し聞きたいことがあるんだ。君たち、”ドミネーションモンスター”足狩のセイについて何か知ってるかい?どうやらすごい魔術師に倒されたっぽいんだけど。例えば、君みたいにすごい魔力を持ったね?」


 カマをかけるとするか。知らないのならば、探るしかない。当然相手は何もしゃべらない。だが、反応を見ればわかる。図星のようだ。なら―――


「あれ…もしかしてマン・ニシラさんじゃないか?」


「え?マン・ニシラって、現代の伝説級の偉人レジェンドじゃん…なんでこんなところにいるんだ?」


 気づかれてしまったか、まぁ仕方ない。


「おっと、お話はここまでみたいだね、周りの人たちが騒がしくなってきた。君とはまだ話したいけど、ここで話は終わりにしておこうかな?それじゃ、またね。次に会うときはそこにいるテイムモンスター君とも対峙たいじして話したいね。」


 少々惜しいが、事を荒立てるわけにはいかない。別れを告げ、その場を去る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る