第19話 真の強者との出会い

「回復魔術を使える人は、支援をお願いします!!」


「ここ……あぁ…ギルドか…」


 シュランとの対談を終え、現世に戻ってきた。ここはギルドみたいだ。あの化け物足狩のセイとの激闘げきとうはとりあえず終わったようだ。それだけでもう安心だ。


「…俺って一応回復魔術使えるけど、階級とかないし、回復するかな?とりまやってみるか…」


 左腕を自分に向けようとしたが、腕が上がらない。何故だろうと思ったが、左腕を見てみるとマーソが腕をつかんでいた。とりあえずは身体に別状はなさそうで安心だ。


(しかも寝てるし…まぁ右腕があるしな、俺には)


 ならば右腕でと思い右腕を上げる。だが、右腕も重い。もっと言えば、左腕よりも重い。ただ違うのは、右腕は何もないように見える。しばらく右腕を動かそうとすると、すそからぴょこり、と小さなチンアナゴが出てきた。


「…フォス、か?おまえ、小さくなれたんだな。」


 高木のすそから顔をのぞかせたのはフォスだった。かなり小さくなっている。


(私のスキル知らないんですか?サイズクリエイトってあったじゃないですか…うわさ通りの馬鹿ですねぇ。ま、聞こえてないでしょうけど)


「あぁ、そうだったそうだった、そんなのあったね。」


 両者の間に、奇妙な空気がただよう。


「………はぁ?」


 高木はフォスを凝視ぎょうしする。背中を合わせて共に戦った仲間だというのに信じられない敵を見るような目で。


(…あれ?声、聞こえてます?)


「う、うん。き、聞こえてますけども…」


(あの人たち…いや何でもないです)


「う、うん。そうか…」


 何とも言えない空気が流れ続ける。ほかの人たちは、忙しく働いているというのに、両者は全く動かず、時間が過ぎる。


「と、とりあえず、一回、この布団の中でもいいから、右腕からどいてもらえる?」


(あ、はい…)


 そう高木がお願いすると、フォスは右腕からどく。

 そして高木は回復魔術を使った。完全にとは言えないが、気怠けだるかった身体が、楽になった。


 正直、超絶気まずい。何とか話題を変えたい、そう思う。


(そういえば、MP増えたって言ってたよな?ちょっくら確認してみるか。ステータスチェックと…お!MPが20000に増えてる!!いやぁ…良い神だ…ん?なんだこれ?『???率16%』…なんだこれ?)


 ステータスの最も下に、謎の項目が一つあった。それは何かの状態の変動を表しているようだった。今現在の%は16%これが何を意味しているのかは分からない。当の本人もこの数字を見てピンとこない。


(そういえば、なんか、気になるし、フォスのステータスも見てみるか。明らかに、おかしいよなぁ…えーなになに?スキル【意思疎通】…あらかじめ対象を選択し、その相手に意思を送ることができる。これは飼い主が決めることもできる。なんだこれ?新しくスキルを手に入れてる…なんで?)


 フォスは、なにやら新しくスキルを手に入れたようだった。なぜ手に入れたかもわからない、どうして手に入れられたのかもわからない。だが、わかるのは、これからフォスと会話することができるということだ。


 気まずい空気の中、一人の人物がこちらへ近づいてくる。


「おお…!あんた目が覚めたんだね!」


 食料のようなものを手に持ち、こちらに近づくその少女はイロハだ。


「やっと信頼に値する人間きちゃぁぁぁぁ!!」


 迷惑にならない程度の大声でそう叫ぶ。


「ど、どうしたんだい?頭でも打ったか……って、こうなるのも訳ないかね。アタシ達が来るまでずっとあの化け物の相手しててくれたんだもんね…ご愁傷様しゅうしょうさまだよほんと…」


「いやいや…勝手に俺をそういう扱いしないでくださいよ…」


 マーソもそうだが、なぜ高木を異常者にしようとするのか。まぁ実際異常者といえばそうだが。


「ん……あれ?高木さん…目覚められたんですね…」


 無駄話をしていると、いつの間にかマーソも目覚めたようだ。


「なになに…マーソ君には関係ない話さね。ところで豪散、マーソ君から事の顛末てんまつを聞いてみたらどうだい?あの兎がどうなったのかとかね」


「あぁ、確かにそれもそうだな。なんで俺が生きてるのか気になるし。マーソ、聞いてもいいか?」


「分かりました、高木さんが倒れた後ですね。かいつまんで説明すると、このフォスという謎の生物に叩き起こされたんですよ。そして連れてこられた先にいた…あのおぞましい生物あれは”ドミネーションモンスター”足狩のセイだったと思います。


 なにか、聞きなじみのない未知の言葉が聞こえた気がしたが、真剣に話すマーソを前に高木は口を開くことはなかった


「僕は、正直驚いたと同時に戦慄せんりつしました。勝てるわけがないって。ですが、その僕を連れて行った謎の生物が一撃にして、足狩のセイをちりにしたんです。その圧倒的な規模間きぼかんに、腰が抜けました。」


「な、なるほど。な、長い…って、あれ?あれ?」


(頭が痛くならない…なんでだ?いつもの俺なら、こんだけ長く話されたら。絶対頭痛くなってまともに聞けなくなるのに…それに、内容が頭に入る…どうしてだ?)


 謎が謎を呼ぶ。フォスの新スキル、謎のステータス?それに、頭が痛くならない理由。


「まぁいっか!!」


 もう、思考を放棄しよう。考えるのは面倒くせぇ!!なんだよ、意思疎通いしそつうできるチンアナゴに?なんか変なステータスとかさぁ。もう考えるの面倒くさいよね!

 内心の整理など面倒なことは全て取っ払ってしうべきだ。


「帰るか!もう動けるくらいには元気になったし。」


「そうですね。帰りましょう…僕の家ですよね?帰るのって」


「うん」


「わかりました!」


(…これがボーイズラブってやつですかね?これ?)


「……さぁ?まぁ…お手並み拝見ってところかね」


(言っとくけど…お前がいくら小細工をしようと俺には聞こえてるからな?)


 高木は服の中にいた小さくなったチンアナゴを可能な限りの力で握る。だが、チンアナゴには全く効いていなかった。サイズが変わっても硬度こうどは変わらないらしい。


 ドサッッ


「あ…すいません…」


 誰かとぶつかってしまったようだ。


「あぁ…こちらこそ申し訳ない」


 高木はぶつかった男と視線を合わせる。見た瞬間少し瞳孔どうこうが小さくなる。


 細身だが、がっしりとした体形。身長は、高木とは比べ物にならないほど高い。190以上はあるだろう。黒寄りの茶色の髪色。目元には気怠げさを感じる。いわゆる、面倒くさがり屋なクールイケメンという様子だ。だが、そんな容姿などよりも圧倒的に目立つ点がある。


 高木の中での空気が一転する。


(っ!?!?こいつ、バケモンだ…居合わせただけでわかる。あの化け物ウサギですら比にならないならないほどの怪物だ……解析鑑定っと)


 佇まい、オーラ。すべてが混ざりあい、圧倒的な存在感オーラを放つ。異世界転移以来これほどまでの化け物は存在しなかったと断言だんげんできるほどの強者のオーラである


(名前は、マン・ニシラ…通り名は、剣豪?……は?INT以外のすべてのステータスが10000だと?それに、STRとVIT、DFSに関しては30000?まじかよ…スキルもあるな、第六感?『五感のすべてを極めた者のみ習得できる至高の頂』スキルは解らんけど…ステータスがあたおかすぎる)


「すまない、少し聞きたいことがある。君たち、”ドミネーションモンスター”足狩のセイについて何か知ってるかい?どうやらすごい魔術師に倒されたっぽいんだけど。例えば、君みたいにすごい魔力を持ったね?」


(っ!?なんでバレてんだ!?こいつの目の前で魔術なんか使ったことないだろ?)


 おそらくこいつは、異世界でも指折りの実力者だろう。五感の全てで感じる。だから、高木の実力もおそらく見抜かれている。直感でまずいと感じる。だが、逃げでもしたら即座に殺されてしまうかもしれないのではないか?と感じさせるたたずまい。高木はその場から動けない。


「あれ…もしかしてマン・ニシラさんじゃないか?」


「え?マン・ニシラって、現代の伝説級の偉人レジェンドじゃん…なんでこんなところにいるんだ?」


 辺りで休んでいた冒険者たちが一人、また一人と、ニシラのことについて話し出す。


「おっと、お話はここまでみたいだね、周りの人たちが騒がしくなってきた。君とはまだ話したいけど、ここで話は終わりにしておこうかな?それじゃ、またね。次に会うときはそこにいるテイムモンスター君とも対峙たいじして話したいね。」


 すべて、筒抜けであった。服の中に潜伏せんぷくしていたフォスですらも、その男にはお見通しだったのだ。何がしたいのだろうか?そもそも、なぜ自分たちと話そうとしたのか、何もわからないままその場を去った。ただ、一つわかることは


「あいつ…俺より強くね?」


 ぼそりとつぶやきながら、ギルドを後にする。

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