第18話 ご褒美の譲渡

「……どこ?」


 夢のような世界。意識は朦朧もうろうとしている。あたりは暗い。本当に夢を見ているのだろうか?と思ってしまうほどに何もない空間。現実味を感じない空間。どこかで見たことがある気がする。それはいつだったかわからないが、最近見たような気がする。


「やぁー!!」


「ほおっっ!!」


 何もなかった空間に、突然人が降りてきた。それは、道行く誰もが振り返るほどの美人だった。すらりと流れるつややかな長い金髪。

 少し薄い空色の瞳、身長も高く、170㎝以上はあるかというほどの身長だ。体型はスレンダー体型で、おしとやかに見える


 だが、俺の脳内には狂いが生じている。先ほどの登場シーン、しゃべり方、そして、そのにやけた表情。それは明らかに


「…おまえ、シュランだろ。それだけ面変えてるけど」


 その美女は少し目を見開く。そして、姿を変える。粘土をこねるように、その姿は以前見た老人の姿へと変化を遂げた。


「よく気付いたねぇ。やっぱり君、相当勘が鋭いみたいだ。ただのバカじゃないね。」


 正体がばれたはずだが、その不気味なにやけた余裕の表情は崩さない。


「でも今の僕、こっちの姿が気に入ってるんだよね。」


 シュランはそう言うと、もう一度粘土をこねて変形させるようにもう一度美女の姿へと変貌する。


「そういえば、お前と話したいことがあったんだ。」


 いつも以上に暗い声色で、シュランに対し話を続ける。どれだけ威圧をしても、シュランはにやけたままだ。


「おまえ…なんで、なんで…詠唱なんかつけたんだよおおお!!」


 世界最強という前置きがあったというのに、なぜ制約せいやくなど付け足したのか。詠唱があの世界の常識なのかもしれないが、例外であってもいいだろう!


「おまえさぁ…ゴッドパワー持ってるならさぁ…詠唱ぐらいなくせるだろ!!なんで詠唱残したんだよ!!」


 俺がシュランに対して怒鳴ると、シュランは顎に手を置きにやにやする。


「いやぁ、最初から最強だなんて言ってないし…それに、最初から『世界で一番強いぜがっはっはっはっは』なんて、別に面白くないでしょ。ある程度強くなる過程が大事じゃん。あ、でも、一応詠唱がある魔術を無詠唱にする方法だってあるよ?まぁ、教えないけど。」


 俺は煮えたぎっている。淡々と正論を突き付けられている。そんな状況が何とも腹立たしい。だが、正論は正論だ。少年誌のように、弱い主人公が強くなっていく過程というものは、確かに大事だ。


「まぁいいや。僕が君をここに読んだのは、さっきのウサギの討伐報酬とうばつほうしゅうをプレゼントしてあげようってことだ。」


「…?なにそれ。お前が俺にその、討伐報酬ってのを渡す必要あんの?」


「んーまぁ『レベルアップ報酬』みたいなものだよ、ゲームとかであるね。流石に成長云々うんぬんを言ってるのに、何も渡さないのもおかしな話だろう?」


「でも俺、ステータスほぼカンストしてるし、必要なのか?」


 事実俺は、異世界でのトレーニングにより、魔術レベルを上げ、体を鍛えたりと、異世界転移時よりも着実に強くなっている。魔術の火力はほぼカンスト状態だし、何をプレゼントしてくれるのだろうか?


「いま、何をプレゼントしてくれるのかって感じのこと考えてるでしょ?まぁ中々いいプレゼントだと思うよ?それは、【中級魔術の】だ。どう?いい提案でしょ?」


「…まじか……」


 非常に魅力的みりょくてきな提案である。魔法攻撃力まほうこうげきりょくだけはおそらく異世界最強。そんな俺の唯一の欠点は、中級以上の魔術の詠唱というものが欠点であった。それを取り除いてくれるとなると、それは土下座してでもお願いしたい事だった。


 だが、俺は考える。考えた末、返答を決める


「……すげぇありがたいけど、いいや。神様お前ばっかに頼るのも、良くない気するし。さっきお前が言った通り、ほかにも無詠唱化をする方法ってあるんだろ?ならいいよ、特訓でも、特別な方法でも、何でもいい。分かったんだけど、強くなっていく過程ってなんかすごい気持ちいいんだ。


「へぇ…」


 シュランの余裕の表情が少し崩れる。ある程度想定内だが、まさか拒否するなんて。といった様子だった。


「まぁ、だからこれからは!!俺は自分の力でこれから強くなりたいんだ。もちろん、最初は憎かったけどな。余計なもん付け足してくれやがって!!ってな。でも今は感謝してるぜ?俺に成長するためのきっかけを与えてくれてな」


「そうかいそうかい…なのにあんなに怒鳴ったんだ。」


「いやぁ…それは、あれだよ!ただ思ってたことを言いたかっただけだしぃ。いやごめんって」


「それなら、ここで君とはお別れかな?ん~~何にも渡さないのはなんかあれだし、MPを上げといてあげるよ。それじゃあこれからも頑張ってくれたまえ~~」


「まて!まd」


 高木はその空間で、意識を失う。それは無理やり、神経を切られたかのように、突然だった。

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