第17話 ドミネーションモンスター

(この世界では、筋力とかみたいなステータスによって可視化されている。素早さもそうだなぁ。だが、格闘において重要なもう一つの要素。それは――)


 そんなことを考えていると、足狩は高木に対して噛みつき攻撃を行ってくる。身体能力ステータスが高くない高木。普通に考えたら、もろに食らい大ダメージを受けるだろう。だが高木はその攻撃を最低限の動きで回避し、カウンターを当てる。


瞬発力しゅんぱつりょくゥゥ!!」


 高木は毎朝、暇なのでトレーニングをしている。ステータスが上がったりなどという効果はあるが、それは天性てんせいのものに勝ることはない。


だが、身体を鍛えることにより、更に磨かれるものは他にもある。それは瞬発力だ。瞬発力というのは戦闘において重要な要素の一つである。ステータスに反映されない隠された戦闘要素。


 そこに、高木の固有スキルである野生の勘も上乗せされ、高木の瞬発力は世界でも相当高い。


「あっあぁぁっっっとぉぉ」


 だが、一度避けた後にもう一度反応できるほど、ステータスの差は埋まらない。当然避けれたからといって自惚れてはならない。


「とりま…時間稼ぐしかないよなぁ…。ふぅ…集中しろ、敵を見るんだ、全神経ぜんしんけいふるい立たせろ…研ぎ澄ませ…」


 高木は全神経をウサギへと向ける。魔術職としては、異例な光景だが、魔術を使うことができない現在の高木は、近接戦闘しかできない。


 だが、高木のスキル野生の勘と、生前の身体能力による戦闘勘、何とかしのげるかもしれない。そう考える高木だが


 ボゴォォォォォン


「グハッッッッ!!」


 腹に特大の一撃をもらってしまい、血を吐く。おそらくだが、骨が折れ、内臓が潰されてしまった。もちろんのことだが、前世では内臓がつぶれた経験など到底とうていない。想像を絶する痛みが高木を襲う。


『スキル不屈の精神の特殊効果【踏ん張り】が発動しました。』


(痛い、痛い、いたいいたいイタい…血?…うへぇ……?あ…あはは…俺、死ぬのか?このスキルによって生かされたっぽいけど…こんなんじゃ生き地獄だな…》


 高木は正直、初級と言えど、今までの状態でも敵なしの魔術出力に自惚れていた。己は強い存在であると。最強の存在であると。


 実際、最初のころは期待したほどでなくて肩透かたすかしであったかもしれない。だが、異世界に来てすぐに高木はこの世界でも有数の実力者であるという事実を理解した。


 なのに、今の現状。


 絶望ぜつぼうだ。そうだよ。高木、君は絶望ぜつぼうしたんだ。自信を砕かれてしまった。その時高木は、この村が目に入る。ウサギにより、被害を受けた村。


(なんで俺…頑張ってんだろ…この村と関係ないでしょ、俺)


 大層な理論だが、誠に正論である。一度死に、この村へと流れついた。だが、その期間も、あまり長いものではない。高木が死ぬ気で頑張る道理どうりはないのかもしれない。


 だが、今、高木の脳内に異世界での唯一ほとんどの時間を共に過ごしたグレイ・マーソの姿がフラッシュバックする。


(そうか、走馬灯そうまとうにも出るくらい、俺はマーソのこと大切な友人だと思ってたんだな…そうか…この村は、マーソにとって大事なもんだよな…目覚めたときに…故郷が無くなってるって知ったら…悲しいもんな。)


 薄く、脳裏に映る。気絶しそうな高木にとっては、今にも散りそうなほどの記憶だった。だが、なぜかその記憶は残り続ける。それどころか、より鮮明せんめいに、濃く、変化していく。


「……しゃーなし。そんなに俺にとって大事だってんなら…!この世界に、この村に、そして、俺の友人様達にちょっとでもいいとこ残してから逝ってやるか…!」


 高木は、自他共に認めるバカだ。だが、バカにはバカなりの良さがある。それはどんな人間よりも純粋じゅんすいなことだ。


 死の恐怖は、並大抵の人間では打ち消すことなどできるはずもないだろう。だが、一度打ち勝ってしまえば、それはどんな生物にも勝るアドバンテージとなる


 悔いを残しては死にたくない。まがいなりにも、1週間程度お世話になった場所だ。なら、死ぬ気で守るしかないだろ。思考は変化する。きっかけが何だろうと、それは重要ではない。”守りたい”そう思うことこそが大事なのだ。


「来いよ、俺がとことん相手してやるよ!」


 そう意気込むとウサギの口角が少し上がったような気がする。




 一方フォス

 フォスは、走り続ける。振り返りはしない。もしかしたら、高木がウサギに倒され、すぐ後ろにウサギがいて、後ろから攻撃されるかもしれない。だが、ただ一心不乱に走り続ける。


 何を目的に走っているのかは分からない。




「はぁ...っ…」


 ピンピンとしているウサギ、もう瀕死の高木。依然劣勢であり、死を覚悟してもおかしくはない。だが、フォスが返ってくるのを信じ、町を守る抜くと誓い、目は輝きを失いはしない。


「……ふぉぉ…こいやぁ…ウサギぃ全部捌ききってやるよぉよぉぉ!!……・・」


 バタン!!


 だが、そこで高木の意識は途切れた。さすがに、全神経を集中させた回避行動は、相当な疲弊を招いたようだ。


 ウサギは、高木を確認し、ほかの獲物を探しに行くように、高木の元から去ろうとした。だが、そこに、細長い体をウサギに向けながら、佇んでいる生物がいた。


 蛇のような見た目、異世界生物としては、あまりに異様な気配を放つそんな見た目。旧時代の生物チンアナゴフォスである。

 フォスはウサギを確認し何か動作を行う。

 高木の目前にウィンドウが発言する。


『フォスがスキル「ランダム」を発動しました』


 そう、ウィンドウに表示され、フォスが、地面に体を突き立てる


『上級炎魔術【爆炎拡散フレイムノヴァ】が発動されました』


 またウィンドウに表示されると、フォスの周りが火炎に包まれる。そしてその火柱は町を包む木々よりも大きく、山よりも高く、ウサギを包み込んでいく。


 爆炎が散ると、ウサギがいたはずの場所が跡形もなく消えている。そこには灰すら存在せず、何も存在しなかった。飼い主である高木は、そのことを知る由はなく、気絶していた。




「…なんだ?あれ。驚異的な爆炎拡散フレイムノヴァだな。あれだけ強いのは賢者さん…いや、それ以上かもな。もしかして…」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る