第16話 狩るもの狩られるもの

「よぉしやっと村に着いたぁ!!いやぁ久々に疲れたわぁ…」


 ウサギとの激戦の末、高木たちは村に戻ってきた。かなり身体も頭脳も使った。いち早く休息をしたいと望んでいたが、どうやら様子がおかしい。


「何、あれ……?」


「なんだい?ありゃ……?」


高木とイロハはその様子に唖然あぜんとする。言葉が出ない。なぜなら村は――


「うおぉぉぉ!!あんのいまわしいウサギどもが来たぞぉぉぉ」


 マクノ村は高木が居ぬ間に、さっき討伐したウサギ型モンスターの群れに侵略しんりゃくされかけていた。村の戦える者が、総動員でウサギの駆除におもむいている。


 その中には、高木と戦ったことのあるカイリバルもいた。数少ないウサギと対等に渡り合えている存在であった。だが、全体的に見てみれば、戦況はあまりに劣勢れっせいであると言えるだろう。


「ちょちょちょちょちょいちょいちょい!!早く行かないと!!町が滅茶苦茶めちゃくちゃになっちゃう!!」


「…恐ろしいほどの数だね…こりゃ、骨が折れそうだ。」


 高木達はマーソをそっと安全な場に置き、イロハとフォスとともに町へと走る。




「がぁがぁ……ぜぇぇ…はんっ!!この、豪勢のカイリバル様に…勝てると思ってんのか…この雑魚もがぁぁ!!」


 冒険者豪勢のカイリバルは、その剛腕を駆使くしし、ウサギたちをなぎ倒す。だが、体力が長けているわけではない。スタミナ切れにより、ウサギたちに攻撃を許してしまったりなど、一方的な蹂躙じゅうりんとはいかない。


 だが、このカイリバルがいなければ、町はもっと早く壊滅かいめつしていただろう。そんな英雄級の働きをしてくれるカイリバルだったが


「おおん……?少しは骨のありそうなウサギ野郎が来やがったな……楽しませてくれよぉ?うおぉぉらぁぁっっ!!」


 ボゴォォォォォォォォォッッッガッッ!!


「ごほッッッ!!」


 カイリバルは、ひときわ異彩を放つウサギ相手に勝負を挑んだ。、だが、逆に返り討ちにあってしまった。あの巨獣きょじゅうごと体躯たいくを持つカイリバルを数十メートルは突き飛ばす。


「ありゃ…超が付くほどの化け物だね…」


 高木は、カイリバルとそのウサギとの戦いを見ていた。まがいなりにも、熟練の冒険者。高木との戦闘経験もあったあのカイリバルが、一撃により敗北を期してしまった。


「……なんだよ、あのバケモン……解析鑑定っと」


(名前は…ホーダラビット。これに関しては、種族名っぽいな…通り名がある…『足狩そくしゅのセイ』だぁ?ステータスが…はぁぁぁ!?STR2000にぃ!?DEXが4000だぁ?本物ガチのバケモンじゃねぇか…魔術が使えないにしても…このステータスは馬鹿げてるだろ。……?なんだ?この、精神干渉????って…え?操ってんの?操られてんの?誰を?誰に?えぇ…こわぁ)


「…まぁ…泣き言言ってても仕方ねぇか!!行くぞ、イロハ!!フォス!!」


「了解さね!!」


 呼応こおうするように、フォスも足狩のセイへと向かっていく。前衛はフォスとイロハ。後衛は高木となり、足狩のセイと対面する。足狩のセイは高木たちを目視し、牙と爪をあらわにする。


 高木たちとウサギとの距離は、数十Mはあったが、即座にその距離は埋まりそうだ。


 フォスが足狩のセイへと地を這うように進む。高木も、フォスをサポートするように、魔術を放つ。


「こんだけのバケモンなら手加減はいらねぇなぁ!!現段階、俺の最高火力マックスパワー でいくぜ!!初級核魔術小核スモールアトゥミック!!!!!」


「最大火力」と言えど、いわばマーソ状態。それに初級では、望ましいほどの火力を出すことはできなかった。だが、その核による少量の光線により、足狩のセイの動きがひるむ。


 それを確認したイロハとフォスは、速度を上げ、ウサギに攻撃を放つ。速度による慣性かんせいも合わさり、相当なダメージなはずだったが、そのウサギは、大した外傷もなく、たじろぐ様子もない。


「はっ!やべぇなぁ…こいつぁ…つかぁ本当にやばい…な…現段階の俺らの最高火力だぞ?」


 高木自身には火力支援をする能力はない。相対的に火力要因となったフォスとイロハが、ほとんどダメージを与えられないとなると手詰まりとなってしまうのだ。高木は足らない頭で、打開策を考える。


 刹那せつな、風が切られる音が聞こえる。それは鋭く、速く、重い一撃だっただろう。だが、その一撃は寸前の所で避けることができた。


 高木はフォスに体を引っ張られていた。だが、頬には軽い傷がついた。高木が考えている間に、足狩が距離を詰め、高木にひっかきを繰り出していたのだ。


「あっぶねぇぇ!!マジありがとう!!フォス!」


 フォスは、そんな高木を確認し、少し離れていたイロハと高木を引っ張る。


「えっっ…ちょちょちょちょいちょいちょおい…どこ行くんだよぉ!!」


「ちょっと…!急にレディを引っ張るなんてしつけがなってないよ!豪散!」


「知るか!!お前こそしつけ方法知らないだろうが!ボケ!!」


 フォスは、どこかへ向かって一直線に向かっている。高木にはその意図を上手く汲むことができない。だが、フォスには何か策があるということだけはわかった。


 とはいっても、足狩のセイも簡単に逃がしてくれるような相手ではない。高木たちを追いかける。素早さは、比べるまでもなく圧倒的に足狩のほうが速い。すぐにでも追いつかれてしまいそうだ。


妨害ぼうがいくらいは…任せろやぁぁぁぁ!!火球ファイヤーボール!!!」


 小核スモールアトミックなんかよりは、威力が数段落ちる攻撃。だが、遠距離から使うことのできるのであれば、妨害としては有用だ。


 それにウサギは、光に敏感よわい。火球から発せられる光により、ウサギは足を止めた。


「よっしラッキー!!足止め成功!!」


 光によって足止めしたとは分かっていない。


「もういっちょ…火球!!!」


 『MPが不足しています』


「マジかっっ!?すまん!!フォス、スピード上げてくれ!!」


 高木の言葉に、フォスはスピードをさらに上げる。体力を考えず、一心不乱いっしんふらんに走っている様子だ。だが、足狩のセイはそれ以上に速い。全速力状態のフォスでも、すぐに追いつかれてしまいそうだ。


「まずいよ!!このままじゃあのウサギに追いつかれちまう!!」


イロハも珍しく焦っているようだ。


「フォス…ここで俺を下ろしてくれ。俺が何とか足止めしてやる。イロハは、フォスのサポートをしてやってくれ。なんか考えがるんだろ?俺は主として、それに賭けてみることにするよ」


「早まっちゃいけないよ高木!!正直に言うけど、アンタじゃ、あのウサギに手も足も出ない…」


 イロハの言うことは事実だ。高木のステータスじゃあ、どう足掻いても足狩のセイには勝てない。


「馬鹿には…馬鹿なりの考えってもんがあるんだよ。何も考えて無いようで、何かは考えてんだ。それで他人に迷惑だってかける。だから俺は何も考えず、人に迷惑をかけないよう生きてきた。でも今回は、久しぶりに馬鹿させてくれ、迷惑なお節介させてくれ」


 フォスはその言葉を聞くと、高木をその場に置いて走り去る。言葉を交わす術がない


が初めて功を奏したかもしれない。もし話してたら…泣いてたかもしれないから。


「…結構、従順な奴じゃねぇか。気に入ったぜ。戻ってきたら、ちゃんと躾てやる」


 高木は、その場に仁王立ちし、ウサギを待つ。もう数秒すれば届くだろうという距離。高木はいつもの魔術を使う体制ではなく、になる。


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