第15話 謎のモンスター

「ふむ…豪散、警戒しとくべきだ。おそらくモンスターが近くにいる」


 マーソを担いでいたイロハだったが、マーソを地面へそっと置く。音こそ聞こえないが、高木も何となくわかる。野生の勘というスキルの恩恵おんけいだろうかと高木は思う。


「おやおや?ウサギかな?久々の異世界動物モンスターだなぁ。でも…なんでこんなところに…ていうか目赤いし、よだれ垂れてるし、めっちゃ凶暴きょうぼうそうだな」


 目の前にいるウサギと思われる生物には、瞳に赤を宿し、岩すらも切り裂けそうなほど尖った爪がある。いかにも理性がなさそうで、獰猛どうもうそうに見える。


「ガルルゥグゥッグガガガァァァ!!!」


 そのウサギは、高木たちを見るやいなや襲い掛かってきた。


「ふはは!!向かってくるのかこの俺に!!今の俺は、強いんだぁぁ!ウサギなんかに負けねぇよ!!」


 以前のオオカミとの戦いと違い、高木はある程度自分が強いことを自覚じかくしている。あの歴戦のカイリバルにも勝利したのだ。

 高木は魔術を放つ態勢たいせいになり、そのウサギに対して魔術を放つ。


「ちょっとまちな!!今のアンタじゃ無理だよ!!」


石弾ストーンショット!!」


 高木はこの一撃で確実に倒せるつもりで魔術を放った。だが、その石弾はのサイズは半径3㎝程度で、勢いもかなり弱かった。当然だが、殺傷能力ダメージなど無に等しいほどだった。


「はぁっっ!?」


 高木は忘れていた。能力交換により、自分のステータスがマーソのステータスになっていたことを。


 突如、頭に軽い衝撃しょうげきが走る。


「アンタは何度言ったら分かるのかいな!ここはアタシが何とかしてあげるからそこでおとなしくしときな」


 イロハは高木の頭を軽く手刀しゅとうで叩くと、すぐさま戦闘態勢せんとうたいせいに入った。


「さぁ、ここからはアタシが相手だよ。」


 イロハとウサギとの近接戦闘の幕が開かれた。今までのステータス通りの高木なら、サポートできたかもしれない。だが、マーソのステータスの状態じゃあ、逆に足手纏あしでまといになってしまうだろう。


「どうすんだ?…さっさと仕掛けてきなさいな。」


 イロハが獲物を追い詰めるようにじわじわと、ウサギとの距離を詰めていく。ウサギもそれを見て安易には攻めてこない。


「だったらこっちから仕掛けさせてもらうよ!!」


 しびれを切らしたのか、イロハの剛斧ごうぶがウサギに振り下ろされた。地面が軽くへこみ周囲に砂埃すなぼこりが舞う。ウサギどころかそれ以上の猛獣モンスターでさえ殺せそうな威力だ。

 だが、現実はそう甘くはない。


「はぁっ!?なんで俺の方にくるんだよ!!」


 イロハの斧をくぐり、その俊足矛先は高木へと向かう。高木はただでさえ近接格闘能力が低い。それに合わさってマーソの虚弱きょじゃくなステータスが合わさってしまえば導き出される答えは一つ。


(あっ…俺死んだなぁ…)


 死を覚悟した。目を瞑り、死後の世界の虚像きょぞう構築こうちくしようとする。


「くっ…間に合わ――」


 イロハの声が聞こえてくる。最後にイロハの美しい声を聴きながら死ねるなら俺は幸せ者だと高木は思う。


「…………あ…れ?おれ…死んでない…?」


 死を覚悟した高木だったが、どこに痛みも感じない。だが少しだけ異常を察知さっちした。異常を感じたのは聴覚ちょうかくだ。風の音とだけが聞こえてくる。


 高木は目を開く。目の前には、先ほどのウサギと少し遠くにイロハ。そして高木とウサギの間に一匹の生物がいた。


「なっ…なに?でっかいけど…蛇?…いや、待て!…?もしかして、チンアナゴか!?」


 高木の目の前にいたウサギと対面しているもう一匹の生物は、海洋生物でありウナギ目アナゴ科の【チンアナゴ】であった。


「アタシが見たこと無い生物なのも驚きだが…それ以上にこれは何となくだが…あまりに…でかすぎやしないかい?」


 イロハの足が一歩も動かなくなるほど、そのチンアナゴは超が付く巨大さだ。本当にチンアナゴなのかと疑うほどの巨躯ボディーバランス

 体長は大体1m以上はあるだろうかというほどで、厚みは直径30㎝程度だ。


(いやいやいやいやいや…陸上にチンアナゴいるのもビビりポイントだろ)


 もうあらゆる点に注目すべき程の謎の生物だが、更に注目すべき点は、ウサギの攻撃を完全に防いでいたところであろう。チンアナゴは、ウサギをその巨躯きょくぎ払う。


「まぁ…そんなん関係ないか!!とりあえずお前…俺を助けてくれたなら、力ぁ貸してくれ!!」


 チンアナゴは全身を使い、うなづくような動作をする。


「今のおれは、めちゃくちゃ弱い!!だが、魔術を使うことはできる!!だから……えっと…いや、俺足手纏いだよなぁ…まぁぁ頑張ってくれ!イロハと!!」


 チンアナゴは、またも頷いたような動作を取りウサギへと向かっていく。


「よっし!そんじゃ、アタシに合わせな!!」


 イロハとそのチンアナゴは、ウサギを挟み撃ちするように動く。それを見たウサギは、もう一度高木の方へと矛先を向ける。


「二度も通じねぇよバゥアァーカ!!」


 高木もウサギの行動を予測し、ウサギに対して下級ファイヤーボールを使う。今までの高木の威力では周囲に燃え移ってしまうが、今なら相手を怯ませる程度で済む。

 

「ナイスだよ!豪散!!そんじゃ、けりつけようか!!」


 その間に距離を詰めていたチンアナゴとイロハの同時攻撃がウサギに炸裂さくれつする。イロハの剛力ごうりきほどではないが、チンアナゴも中々の攻撃力だ。だが、その攻撃すらも寸前のところでかわす

 が、それすらも高木は読んでいた。


「だと思ったぜ…フィナーレのお開きは…俺だぁぁぁぁ!!」


 高木は目の前に燃え盛る火の玉を顕現けんげんさせる。だが、圧倒的に気迫きはくいと速度が足らず、先程の攻撃とは比べ物にならないほど容易く避けられる。


「おいおい、そっちはだぜ?」


 ウサギが逃げた先には、斧を天にかかげたイロハと、自身の体を極限きょくげんまでひねらせたチンアナゴがいた。そして、勢い無く進み続けるの赤い光があった。

 3方向からの攻撃が、今度こそウサギに命中する。


「ナイッスゥ!!ヒャー危なかったなぁ!!イェイ!!」


 高木はイロハとチンアナゴに対し、握りこぶしを差し出す。グータッチのつもりだ。イロハは当然グータッチし返してくれる。チンアナゴも、その意思を汲んだのか、全身を高木の拳に当てる。


「いやぁ…なかなか壮絶そうぜつな戦いだったねぇ。アタシと相性の悪いすばしっこい相手で負けるかと思ったよ」


「本当そうだよなぁ…俺もこのチンアナゴが来てくれなきゃ多分死んでたぜ」


 この場にいる皆が息を荒げ、疲労を体現する。


「いやぁ、この良く分からない生物も驚きたけど…アンタ、バカだと思ってたけど戦闘IQの方は本当にすごいねぇ。最後の連携攻撃コンビプレイも、あの予測がなくちゃできなかった。よく避ける位置を予測できたね。」


「そうか?いや、確かにそうかもな…へへ、テレテレ//…あっ…そういや忘れてた。マーソ連れて町戻らんとだな…そういえば、お前もついてくるか?」


 高木は基本的に野生の勘というか、そういう怪しい生物は警戒をするものなのだが、助けてくれたチンアナゴを信用する。それに、単純に戦闘能力が高い。その問いかけにチンアナゴは、全身を使い頷いて見せる。


「よっし、それなら、町に戻るか……あぁ…一応解析鑑定しとくか、まぁ…おまえ、変だもんな」


 チンアナゴに対して解析鑑定を行うと以下の情報が出てきた。


 Name   チンアナゴ

 通り名  勇者

 通り名2 旧世代の生物


 ステータス

 HP  500/50

 MP  400/400

 ST 100/100


STR物理攻撃力200 DEX素早さ・器用さ100      

INT魔術攻撃力100

VIT体力 500     DFS物理防御力 200

MND魔術防御力 100


 保有スキル

 テイムモンスター

 このモンスターは主を決めることができる。

 現在の主 【高木豪散】


 サイズクリエイト

 体の大きさを自由に変えることができる。なお、質量自体は変わらない。


 解析・鑑定

 物体、生物に対する情報を見ることができる。熟練度が上がることで、見られる内容が増えることもある。


 コピー

 対象者のステータスを完全に模倣《コピー0する。


 ランダムマジック

 コピーをした相手の使用可能魔術をランダムで発動することが可能。


 使用可能魔術なし



「……つえぇ…けど、なんじゃこりゃ?ランダムマジック?コピー?あと…勇者?勇者であるはずの俺に勇者とかついてないのに…でも解析鑑定使えるしなぁ…それに…主が俺?ぇえ?おれこいつの飼い主になった…の?」


 見た目、ステータス、二つ名、何一つ、何もかもあっていない異様な生物に困惑は必然であろう。高木は、いま、正常な判断をすることができない。


「どうしたんだい?珍しく動揺してるようだけど?」


 イロハの声も、高木の耳には入ってこない。


「じゃっじゃあ…お前の名前、決めんとなぁ…森で見つけたから、森が確か…英語でフォス…みたいな感じだったよな?…じゃあフォスで...」


 名付け、高木にとって初めての体験であった。だが、冷静に考えてみよう。

 高木は今日、チンアナゴの飼い主となった。そして片手にはマーソ。そんな混乱を招きすぎるような状況に、すぐ冷静になれるわけない。


 だが、時間がたってしまえば誰しも冷静になれる。


「…………………なぁんで異世界初のテイムモンスターがチンアナゴなんだよぉぉぉぉぉ!!!」


 旧世代の生物、チンアナゴが高木のテイムモンスターとなってしまった。


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