第11話 混ぜてくれよ

 マーソの緊急クエストの通達を受けて高木はギルドに向かった。 


 ギルド内には、先日来た時よりも多くの人で溢れていた。その中には高木とのかかわりが唯一あるカイリバルがいた。


 ほかにも屈強くっきょうそうな冒険者。そして、全身がおおわれるほどのローブを着た魔法職のような人もいた。


「あっ、カイリバルじゃん!お前も来てたんだな!」


「お?高木じゃねぇか!!おまえもすみスライム討伐に来たんだな!お前が来てくれるなら百人力だぜ!」


「へへ…照れるからやめてくれーや!」


 カイリバルと他愛もない話をしていたそんな時、場の空気が変わる。無造作むぞうさに放たれる威圧感いあつかん、その発生源を向く。その先には、一人の巨人がいた。


 髪色は青藍せいらん色で、異世界感を感じる髪色だ。そして、顔の左側に大きな引っかき傷のようなものがある。瞳の色は鉛色のようで、もしかすると失明しているのかもしれないと感じる。


 特に目を引く肉体は、カイリバルと比べても見劣りしない筋肉。筋骨隆々きんこつりゅうりゅうという言葉がふさわしい風貌ふうぼう。左目の目立つ傷以外にも、顔には細かな傷跡が複数あり、その男の歴戦具合が見て取れるだろう。おそらくマーソの父のギルドマスターなのだろう


「あっ!お母さんだ!」


「やっぱりギルドマスt…って、えぇ!?お母さん!?!?女性であの筋肉に古傷?いやぁ…すっげぇなぁ、まじかぁ…ちょっと自分に自信無くす…でもかっけぇ!」


 あの人はギルドマスターでもなければ、マーソの母でもなかった。だが、女性とするなら、男性以上にきたえ抜かれたその肉体は大衆の目を引くだろう。


「うぉぉぉぉ!!モガナミさんだぁ!!現役時代かつてマロシルビの王都で、名を馳せていたAランク武闘派冒険者のあのモガナミさんがよぉ…すげぇ…こんなところで見れるなんて。滅多に姿を見せないってことで有名なのによぉ」


「それだけ大事ってことでしょう。今回の件は。あの歴史上でも稀な、すみスライムの大量発生ですよ?ギルド、いや、この村すべての総力を挙げてでも、逃がしてはいけないということでしょう。急速な増援ぞうえんも期待できないでしょうし。」


 そんな、ギルド内の冒険者たちが話し合いをしている最中。モガナミの後ろから魔術職のような服装の男が出てきた。


「マーソよ。あれが父さんだろぉ?俺にはわかるぜぇ」


 流れと位置的に誰でもわかるだろうが。先手を打つ。マーソに先行はゆずらないとばかりに高木は、先にマーソに詰め寄る。


「あっ…そうです!よく貫禄がないとか言われてるんですけど…なんでわかったんですか?」


かんってやつだな。まぁ俺程度になるとわかるんだよ。すげぇだろ?」


「す、すごいです!!うわぁすごいなぁ」

 

 笑いにもならない自慢話をしている中、ギルドマスターがモガナミの前に立ち、ローブを脱ぐ。 


 顔は中性的な顔というより、まんまマーソである。マーソを中年男性にしたような顔。当初マーソの顔を見て、中世的だから母似だと思っていたが、父似だったのかと高木は思う。


 身体は、肉があまりついてなく。いかにも引きこもりのような見た目である。だが、それはニートというより、魔術を研究しているということなのだろう。


「ここにいる皆よ!!本日は集まってもらい感謝かんしゃする!!他国でも類を見ない、すみスライムの大量発生。冒険者よ!すみスライムの粘液ねんえきは…高く売れるぞぉ。金が欲しいか!!名声が欲しいか!!それでは!!これより、正式に緊急クエストを発令する!!」


 ギルドマスターが来るとモガナミは、身振り手振りで冒険者たちを鼓舞こぶする。話が一段落つくと、1階にいた受付の人達が、壁に紙を張り付けた。


「すみスライムを倒し、ギルドに納品できたものは!!一匹ごとに、10万円を特別報酬とくべつほうしゅうとして用意する!!そして!最もすみスライムを討伐し、納品できたものは!ランクを一つ昇格させてやろう!!さぁ勇猛ゆうもうたる冒険者達よ!!スライム共を狩りつくせ!」


 その号令を聞き、ほかの冒険者たちは、出口へと向かう。中にそこそこ人数が詰まっていたせいか、出口も詰まってしまっていた。


「さぁ!!高木さん!早く行きましょう!!」


 高木たちもすみスライムの発生地である森へと向かおうとしていたが、高木はなぜか動かない。高木は、異世界で出会うはずのない言葉を聞いた。


(いま…円って言ったよな?聞き間違えじゃぁ…ねぇよなぁ?えぇ?異世界で?10万円?そういや具体的に知らないけど、神が言ってた異世界語翻訳チート能力の一端的な奴なのかな?)


“円”それは日本独自の通貨である。異世界だとしても、ドルだとかポンドとかではなく、円である。バカな高木でも、異世界で急に円とか出てくるのは明らかなる違和感いわかんである。


「えぇっと、高木さん!!大丈夫ですか?考え込んでるようですけど。もうクエスト始まってますよ!」


 円のことについて考えていた高木を気にして、マーソが声をかけてくれる。その声により、高木は――


「あぁ、ごめん。ちょっと深刻な考え事をしてて...よし、切り替エール!!よし!切り替えた!!行くか!スライム討伐」


「本当に大丈夫ですか?」


「もちろん!元気ぴんぴんさ!」


 胸を張り、ドンと胸をたたく。それは、高木なりの元気の見せ掛けであった。


「そっちじゃなくて、情緒じょうちょ…まぁ一旦散歩してから行きましょうか。」


 傍から見れば、高木は静かな中、急に大声を出したただの変人である。ここに大勢の人たちがいなくて良かったと思う。


「ん?急がなくていいの?」


「まぁ大丈夫でしょう。すみスライムはスライム種の中では暗い色なので、森のように、暗い場所となると少し見つけにくいでしょう。それに、散歩といっても気を落ち着かせれるまでですし。」


「…?おれ別に、冷静だけど。」


 そう、高木はいたって冷静である。だが、もう一度言おう。傍から見れば、高木の行動は少し異常だ。頭を落ち着かせるべきだろう。

 そんな会話をし、高木たちは村を軽く散歩してから、森へと向かう。


「待てぇぇぇ!!」


 後ろから、がなりのきいた可愛らしい声が聞こえてくる。この愉快な運命が、いつしか高木たちに波乱はらんをもたらすこととなるだろう。




『おいお前らぁ!!気ぃ引き締めろぉ!!あんのいまわしい人間どもに負けるな!!反逆の狼煙のろし上げろぉ!!』


 ピチョピチョピチョ


『よっしゃ!行くぞぉぉぉ、ぶち殺しに行くぞぉ!!』 


 そんな、水が凝縮ぎょうしゅくされたといった姿を持った生物。スライムが、仲間のスライムに向けて反撃の意思を表明している。

 そんな中一人の冒険者が現れる。


「おぉぉぉ!?ありゃあすみスライムの大群じゃねぇか。俺ぁついてるなぁ。よっし、おとなしく狩らせてくれよぉ?」


 その集団はすみスライムの大群だったようだ。そしてそんなすみスライムを刺激しないようにじりじりと詰め寄る冒険者。一歩、また一歩と詰め寄る冒険者にすみスライムは動かない。スライムはあまり知能が高くないので、緩やかに詰め寄る冒険者に反応しないのだろう。そう冒険者は考えた。


『お前らぁ!!こいつは俺たちのことを殺戮するつもりだぞぉ!あの人間を殺せ殺せ殺しきれ!!慈悲など持つなぁ!!』


 その中のリーダー的存在が仲間に叫ぶと、反応をしなかったスライムたちが、一斉に冒険者へと向かう。


「な、なんでさっきまで反応しなかったのに急に反応しやがる!?まさか特殊知性個体スぺシャリーか!?な…なんだとぉぉぉ!?」


 特殊知性個体という謎の単語を残したままスライムにポコポコにされる。一体一体の強さは高いとは言えないが、その集団が襲ってくるとなると、抵抗する暇もなくスライムたちに包み込まれる。


『我々を舐めすぎたようだな!人間よ!あの世で懺悔ざんげするがよい!!さぁ進軍するぞ!!わが軍よ!』


 リーダーが命令すると、そのほかの大群が一斉に動き出す。高木を含む冒険者たちはどうなってしまうのか!?

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