第9話 意外な結果

 一瞬にも、長くも感じた時間が、終わりを迎えた。 


「しょ…勝者高木ィィィィ!!!まさかあの豪勢のカイリバルを打ち破り、勝ったのは名もなき冒険者高木だぁ!!」


 初めての対人戦による一種の重圧ストレスから解放された。終わりの合言葉あいことばを聞いた高木はさわやかな顔で。


「ッシャァァァッッ勝っ…アッッブネェェェェまじで怖かったぁぁぁ…ヤッタカッター」


「えぇっと多分ですけど、心の声とか表の声とか以前の…って!!そういえば水の鎧アクアアーマー使ってるじゃないですか!?あっ…これ、高木さんも感電してる……まぁ、放っておいてあげましょうか。」


(油断天敵《ゆだんてんてき)のことも聞かないでおいてあげよう…)


 決闘が終わり、マーソが高木の元へと戻ってくる。前世でも経験したことのない初めての決闘デュエル。やはり荷が重かっただろうか。ちょっと狂ってしまったようだ。1分ほど待ち、高木が落ち着くのを待つ。


「…はぁぁ…あ、おはようマーソ。良い朝だね。」


 発言内容は滅茶苦茶めちゃくちゃかもしれないが、やっと高木が正気を取り戻したようだ。


「…やれやれ、中々治らないですねぇ。一発ぶん殴っとくべきかな?」


「あっ…戻ったからぁ…ぶたないでぇ…痛いのは嫌なのぉ」


「ふふっ、分かってますよ。元から滅茶苦茶めちゃくちゃですもんね。」


「いや、酷くね!?!?」


 くだらないし、何の中身もない会話。だが、こういう会話が一番楽しいを双方どちらも理解している。というより、単純に話すのを気に入っている。


「ところで話は変わりますけど、カイリバルさんは大丈夫なんですか?」


 青春アオハルを体現したような表情から一転し、会議中かというほど真剣な面持ちになる。


「ああ、多分大丈夫。初級雷魔術の電撃注入エレキショックで、少しの間だけ、しびれてるだけだから。しばらくしたら起きると思う…かなり弱めたしぃ…ほっといても大丈夫だよね?まぁでも、素人しろうとのおれが関与かんよするより、ギルドの人とかにやってもらった方がいいでしょ。今日はとりあえず帰るかぁ…」


 確かに、高木からは疲労ひろうが見て取れる。初の対人戦、精神的にも、肉体的にもそれは、並の疲弊ひへいではない。


「えぇっと、ギルドカードはいいんですか?」


 高木は、ハッと思い出したかのような表情になる。


「あぁぁぁ!忘れてたわ、じゃあそれだけやったら帰るか。」


「帰るって、本当にあの山奥に帰るんですか?それじゃ体壊しちゃいますよ。食事とかは大丈夫なんですか?」


 当然だが、高木は異世界転移しているわけだからお金を持っているわけでも住居を持っているわけでもない。


「まぁまぁ、1週間も大丈夫なんだから心配すんなよ。食事だって、マーソが持ってきてくれるし、それをちょちょいって調理すれば食えるさ。」


「うーん、それでも心配ですねぇ…あっそうだ!!それなら、僕のうちに泊まりませんか?」


「え?まじ?いいんすか?よぉぉし!!それなら早速ギルドカードつくりに行きますかぁ!!」


 と、マーソの家に泊まる約束にわくわくしながら、ギルドカードを作りにギルドへと行く。


 ギルドへともう一度入り、ギルドの受付へと歩みを進める。その道中のギルド内の人たちの視線が痛い。


「はい!何でしょうか!…あれ?マーソ君じゃない。もしかしてお友達?」


「あっ、はいそうです!マーソの友達の高木豪散たかきごうちです。それで、ギルドカードを作りたいんですけど。大丈夫ですかね?」


「はい!!ギルドカードですね。ということは、ご利用は初めてですね。それでは、先にギルドの説明をさせていただきますね。設備せつびに関しては先程ご覧になられたようなので、ランク制度せいどについて説明させてもらいます」


 その時、マーソに電流でんりゅうが走る。このままでは、いつものように高木が倒れてしまうのではないのかという懸念だった。


 そう思ったマーソは、いつでも支えられるよう高木の後ろに位置する。


「ランクは上からA→B→C→D→Eとなります。まぁぶっちゃけこのランクは強くなくても、仕事をすれば上がるし、強い人でも仕事をしないなら上がらないので、あんまり気にしなくていいです。つまるところ、これは強さじゃなくて、どれだけギルドにとって有益ゆうえきかということです。そして、これからこちらの水晶に手を置いて、もらいます。使用可能魔術属性が見れるので。その属性の多さによって初期ランクを決めます。」


「…は、はい。」


 高木は、流れるがまま手を置こうとした。だが、高木には一つ疑念ぎねんに思うことがあったようだ。


「あの、身体能力とか、武器とか、そういうのは見れないんですか?ステータスでも何でも」


「ああ…そういう、近接格闘きんせつかくとうの方は、地道な功績こうせきでランクアップということになっちゃうんです。何分、その身体能力だとか武器だとかの能力を図る物がないもので」


(ギルドの人とかでもステータスのこと知らないんだなぁ。まぁ良い。ふふふ…俺の力を知れ渡されるしかないなぁ!!この…世界にぃ!!いくぞぉ!)


 高木はその水晶に手を置く。そうすると、その水晶は7色に光り、最終的に水晶の先が見えないほどの黒色の光になった。高木はこの光を見て、これはこれはぁと思っていた。


「おおお!!!すごいですね!!まさか9属性使いなんて!!これは相当な逸材いつざいですね!!ギルドマスターに報告しないと!!はい、こちら、Cのギルドカードです。あとこれ、地図です。よかったらどうぞ!それと、1か月おきに、ギルドカードの更新をお願いします!!更新しないと、ギルドに所属していないことになるので。ギルドはどんな集落にも大小問わず存在しますので。それでは、ありがとうございました!!」


「…あ、ありがとう、ございます…」


 ギルドについての必要事項ひつようじこうを伝えると、受付嬢うけつけじょうは足早でギルドマスターがいるであろう部屋へと向かっていた。


(……意外と反応薄かったなぁ。)


 高木は少ししょぼくれた。この世界に9属性を扱える人が多いのは事実だが、その9属性をすべて一般人が使用可能な、絶級まで使用可能なのは、高木含め世界でも2人しかいないことを高木はまだ知らない。まぁ詠唱できないんだけどね!!


「高木さん凄いですね。あれだけの話を聞いて倒れないなんて。成長しました?」


「確かに!!…ギルドとかみたいな簡単な話だからかなぁ…まぁ何でもいいだろ!!」


 冒険者ギルドへの登録を終え、他愛もない会話をしながらマーソの家へと帰る。対人戦など、どっと疲れを溜める出来事が重なってしまったせいだろう。高木はマーソの家の寝室に入りベッドにダイブした途端とたん、深い眠りに入ってしまった。

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