第1章 マクノ村

第4話 再スタート

 ピヨピヨと、小鳥たちが詩をかなでる。そんな中、高木はまたも眠っていた。


「ヘァッァアアッッ!!!」


 高木は目を覚ました。もう目覚めにトラウマさえ覚えそうなほどだ。だが、今までの目覚めとは確実に違うことがわかる。高木が眠っていた場所、それは安全であふれている室内しつないであった。

 高木はその見知らぬ天井を見つめる。呆然ぼうせんと見つめ続け、やっと思考がまとまってきた。


 負傷ふしょうがあるか確認するために視線を自身の体へと移し、肉体を確認する。怪我けがはないが、服が着替えさせられているようだ。いかにも異世界の村民のような服装だ。


 そして隣には、同種の衣装を身にまとった青年がいた。


「エテニティ―レゲンドルイン!!エテニティ―レゲンドルイン!!」


 これは高木なりの威嚇いかく行動である。どんな人間だろうと自分に危害を加えられないようにする術である。


「あ…目を覚ましたんですね。お体大丈夫ですか?」


(あれを聞いて怯むことなくこの俺の体を心配できるとは…中々やるじゃあないか。)


 内心高木は感心しつつも、ぶっちゃけ怪しいのでその人物をじっくりと観察してみる。青年なのだろうが、少年だろうか?と見紛うほどに幼い容姿。

 目、髪の色は黒色で、東南アジア系の色味である。だが顔つきは北欧寄りの美少年であり、非常に現実離れした見た目だ。だが、容姿に相反するように身長は高木と同等かそれ以上ある

 顔は男と事前に言われれば男と確実に判別できると思うが、女性と言われれば女性とも見間違えてしまうような、中性的な容姿をしている。

 服装は、高木に着せられた服と同じようなよそおいである。


 明らかに日本人離れした見た目だが、日本語を使っている。これが、神の言ってた異世界語翻訳サブオプション的な奴なのだろうと高木は思う。


「……いや、誰だ…?」


 高木は、その青年を警戒している。やはりどれだけお安全だと感じようとも、ここが異郷いきょうの地であることに変わりはない。前提ぜんてい知識ちしきが全くと言っていいほどないのに、更なる危機到来などシャレにもならない。

 警戒心けいかいしんマックスでその青年にガンを飛ばす。


「あの…そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。僕はここ、『マクノ村』にあるギルドの受付係をやってまして。あ…名前、名前ですね!僕の名前はグレイ・マーソです。よろしくお願いします。」


「……なるほど…多分、おそらく、なんとなく大丈夫そうだな。良いやつっぽいし…よっし!よろしく頼む!!」


 高木はその、青年マーソの紳士的な態度をある程度信用し、警戒けいかいゆるめたのかマーソに手を差し出す。青年マーソは差し出された手にパァッと表情を明るくし、高木の手を握り返してくる。


「よ…よろしくお願いします!!」


 マーソは誠意せいいを込めた姿勢しせいで手を握り返してくる。

 マーソもそれで気が休まったのか、高木に対して喋りかけてくれる。


「それより、森で見たんですけど、あの魔術すごかったですね!!」


 高木は確かに、魔術まじゅつを放った。だがあの魔術の程度レベルをあまり理解していなかった。

 そして高木はその発言を聞き、思い出したかのように、手を視界の右下あたりに動かす。

 やはりだ、何か小さいボタンのようなものがある。そのボタンを押すと、ピコンと音がなり、高木の視界にウィンドウが現れる。


「…っ!?なにこれ!?」


「ど…どうしたんですか?なにか体に不調などありますか?」


「ご、ごめん」


(マーソにこれ見えてないのか…もしかして。マーソ目が悪いんかな?それか…俺だけの特別…って、そんなわけないかぁ!!) 


 そう心の中で一人芝居した高木は、ステータス画面に視線を戻す。そのウィンドウにはこのような内容が書かれていた。



名前 高木 豪散 

種族 人

通り名 全てを操る魔術神…


ステータス

HPヒットポイント  50/50

MPマジックポイント  10000/10000

STスタミナ 1000/1000


STR物理攻撃力100 DEX素早さ・器用さ 100 

INT魔術攻撃力1000000

VIT体力50  DFS物理防御力 50

MND 魔術防御力 1000000


保有スキル

不屈の精神

 あなたは鋼の精神を持っている。状態異常じょうたいいじょう精神干渉せいしんかんしょうへの耐性を持つ。


野生の勘

  突発的危機とっぱつてきききに反応する、瞬発力しゅんぱつりょくの成長速度が劇的げきてきに速くなる。これはステータスに表記されない能力ステータスである。


解析・鑑定

 物体、生物に対する情報を見ることができる。熟練度レベルが上がることで、見られる内容が増えることもある。


天性のバカ

 あなたは天性のバカである


神の使徒マスターマニピュレーター

 あなたはすべての魔術系統まじゅつけいとう魔術階級まじゅつかいきゅうを操ることができる。そして新たに6つ目の魔術階級【】を使用する資格を得る。


使用可能魔術階級しようかのうまじゅつかいきゅう

 初級しょきゅう 中級ちょうきゅう 上級じょうきゅう 超級ちょうきゅう 絶級ぜつきゅう / 神級しんきゅう 


使用可能攻撃魔術系統しようかのうこうげきまじゅつけいとう

 ”炎魔術”風魔術”水魔術”土魔術”雷魔術 

 ”氷魔術”光魔術”闇魔術”核魔術”??? 

詳細な情報は各系統の魔術を押してみてね。


その他の魔術

 転移テレポート 事前に転移魔方陣てんいまほうじん設置せっちすることで、その場所への転移が可能となる。ただし、転移魔方陣てんいまほうじんを描ける場所は1か所のみである。


 能力交換ステータスチェンジ 自身と相手の承認を通して、初めて使用可能。自分と相手のステータスを交換できる。


詠唱一覧←ここを押してね!!


 ???%  0%


「ほぉぉぉぉぉ…」


 高木は煌々こうこうとした表情を浮かべる。


 普通の人間なら、これらの情報を見て困惑したり、ステータスとかゲームかよwと嘲笑あざわらったり、最後の???%という謎の項目に注目するかもしれない。だが、高木の目には一つの項目しか目に入っていなかった。

 【】高木にとってはこれ以外の情報はほとんど無駄な情報ノイズと言っても差し支えない。


「す………す……すげぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 高木は高らかに叫ぶと、余計なことは考えず、マーソの家から全速力で飛び出ていった。


「あ…あのぉ!!もう体大丈夫なんですかぁ!!」


 そう叫ぶマーソの言葉に聞く耳を持たず高木は村を疾走しっそうする。

 この村はあまり繁栄はんえいしているとは思えないような見てくれであった。

 だが、辺りは見渡しやすかったので、目的の場所を素早く見つけることができた。高木は目的の場所を見つけると。


 「ウォぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


 またも全力疾走しっそうする。まるで暴走機関車ぼうそうきかんしゃごとき走り様である。

 はたから見たら、ものすごい形相だが、その本人はとても晴れやかな気持ちである。中二病であった高木にとって、その「魔術」という言葉の響きは最高に素晴らしいものである。


 そして目的地の、村から相当離れてかつ、開けた場所へとついた。


 「魔術…魔術ぅ!!!!あいつは!!!俺ぉ!理解しているぅ!!!」


 高木はもう一度ステータスウィンドウを開き、魔術を使ってみる。それは、高木にとって心地良く響き、そして最も高木にとって好奇心が湧く魔術だ。


 ステータス画面を開き、”炎魔術”と書かれた場所を押してみる。そうすると、初級~神級という文字と技名が表示される。

 もちろん高木は、妥協だきょうしない。


「これが…神の力ゴッドパワーだぁ!!神級炎魔術【憤怒の発散ヴァルカン・メテオ】!!」


 この地は、風に包まれ、静寂せいじゃくが世を渡り歩いているかのようだった。ただ一人の勇者を除いて。


「ウォぉぉぉぉ!!」


 魔術という言葉にテンションブチ上がりの状態の高木は雄叫びをあげ、開けた平原に向かって、手を向ける。

 静寂が歩く自由の道オープンロードが今崩れ落ちた。


『30秒以内に詠唱をお願いします』


「……うぇ?」


 (どゆこと?詠唱?なにそれ?さっきはそんなのなかったよね?)


 焦る高木の額に汗が垂れる。一度落ち着いた頭でもう一度ステータスウィンドウを見る。そうするとステータスウィンドウの一番下に【詠唱一覧】という文字があった。

 もちろん今新しく追加されたわけではない。元々ステータス画面の欄にしっかりと記入されていた。

 なら、なぜ高木がこの事に気づけていないのか。それは明々白々めいめいはくはく単純明快たんじゅんめいかいである。

 ただ、魔術本体以外に興味がなかった。これに尽きる。


 だが、高木は何としても自身の意識下で魔術をぶっ放したいので、憤怒の発散ヴァルカン・メテオの詠唱を確認する。


『大地より湧き出でし炎の渦よ

神聖なるヴァルカンの息吹いぶきを以て爆裂ばくれつさせよ

空に昇りし熱き光、我が手に集え。燃え盛れ、砕け散れ、

炎の神 ヴァルカンの威光いこうを世界に知らしめよ

炎の神 ヴァルカンの怒りを その手により、発散させよ

天空にとどろき、きらめく炎よ!!今、ここに降り注がん!! 【ヴァルカン・メテオ】!!』


 高木はこの詠唱を見て「ヴァルカンの怒り」の時点で目眩めまいと頭痛を起こし、最終的にその場に倒れた。


 目が覚める。


「目覚めすぎっだろうがぁぁぁぁぁぁ!!」


 憤怒の発散ヴァルカン・メテオを使用しようとしたせいか、高木自身が憤怒を発散ヴァルカン・メテオしてしまっている。

 頭がふつふつと燃えたぎる感覚を落ち着かせ、天井を見てみる。今回は見知らぬ天井ではなかった。

 しっかりとこの天井は理解している。ここはマーソ家の天井であった。どうやら高木を心配したマーソに後をつけられていたらしい。高木は普段ならあの叫び声を聞かれて恥じていたことだろう。だが今は違う。


「……俺じゃ…俺じゃ使えねぇじゃねぇかぁぁぁぁぁぁ!!!

あんの……くそボケがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」  

   

 詠唱という多量の情報を覚えなければいけない。それに、見ながら詠唱というのも時間制限タイムリミットによってできない。ということは、高木は神級魔術という自分だけの特別な力アイデンティティを使うことができない。

 今、高木はその世界最強の力を持て余す。

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