第5話 ふさわしい

 ”絶対無比ぜったいむひ

 そんな言葉がふさわしい人間は、この世には限りなく少ない。他者を寄せ付けない絶対たる存在。だが、そんな言葉がふさわしい人間になるためには努力をすることで近づくことはできる。なのに、人間というのはなぜ努力を怠るのか。


 それは絶対無比ぜったいむひという言葉にふさわしい人間になるためには、想像を絶する研鑽けんさんが必要だからだ。刃を研ぎ澄まし、振るう。たったそれだけのことであるのに、誰にも成れない。生半可な研磨けんさんでは意味がない。


 話を変えよう。実際のところそれは生半可な場合であり、一般の鉄凡才である場合の話である。それが|上質な鉄《天才)であるのならば話は別である。


 天才というのは素材だけで容易になまくらの価値を超えるだろう。


 そしていま、そんな魔術という分野において、この世界で彼の右に出る者はいないほどの才を持ったものが、鍛錬を始めている。才を極めし絶対王トップオブザトップにふさわしき存在。


「うおぉぉぉぉぉぉ!!いくぞぉ!!俺の魔術ぅ!!」


 高木は前回の反省を生かし、早々に魔術の練習を開始した。魔術を行使するときにもう前回の様な後悔が繰り返されないよう。そしてついに、自分が使用可能な魔術を発見した。


初級風魔術しょきゅうかぜまじゅつ 風切カザキリ!!」


 手を向けた方向に風の刃を放つ初級魔術である。そう【初級魔術】なのだ。


 高木は中級以上のすべての魔術に詠唱が必要なことを、確認した。そのため、例外として唯一詠唱を必要としない初級魔術の特訓にはげんでいるのだ。

 現在高木が使用可能な初級魔術は


 炎属性 炎球ファイヤーボール

 手を向けた方向に火の球をぶっ飛ばす。物理的なダメージはないが、熱量ねつりょうによって生物を容易に殺せる。


 風属性 風切カザキリ

 手を向けた方向に圧縮あっしゅくした風の刃を飛ばす。見えない刃物のようなものなので、殺傷さっしょう能力はダントツで高い。


 水属性 水の鎧アクアアーマー 

 自身に、水で生成した鎧を装着させる。熱によるダメージを完全に防げるうえに、水による衝撃吸収しょげききゅうしゅうも備わっている。


 土属性 石弾ストーンショット 

 手を向け、前方に秒速50m程度で石の球を飛ばす。だいたい小石程度の大きさである。なお、速度を犠牲ぎせいに石のサイズを大きくすることも可能。


 雷属性 電気注入エレキショック

 敵に手を付けた場合にのみ、使用可能 基本的に30V程度の電圧を与えて気絶させる。威力は変えることが可能。高木の場合は1000V位は容易に出せる。


 氷属性 氷の盾アイスシールド

 MND魔法防御力の値によって強度が変わる氷の盾を装着する。高木並みのMNDを持っているのなら、5.56㎜のアサルトライフル程度なら完封かんぷうできるだろう。ただし、熱には注意。


 光属性 屈折ライトフォールド

 光を屈折させ、自信の姿を隠したり、景色を変えることが可能。ただし、相手の視野を考慮こうりょしたうえで、光を屈折させるのは至難しなんわざであろう。


 闇属性 ダークネス  

 使用者の解釈により、何にでもなれる。相手を必滅ひつめつに追い込む最強さいきょうの刃となることも可能。ただし、絶対の確証が必要であり、イメージがかなり難しい。自身より弱い存在か、究極きゅうきょくの自信家しか使いこなせない。


 核属性 小核スモール・アトミック

 12じょう位の部屋が跡形あとかたもなく消し飛ぶ。放射線も一応存在するが、周囲にいる人が死ぬ程度ではない。

 の以上だ


 ガガガガ!!シュゥゥゥゥン


 森に放ったその風切は気を数本切り倒し、そして静かに散る。初級といえど、高木のその最高級のINT魔法攻撃力があれば、おそらく上級、もしくは超級ほどの出力を出すことも可能だろう。そして高木は魔術に関する新たなる発見をしたのである。


 まず一つ目


「よし!またレベルが上がった!」


 そう、魔術にはレベルという概念がいねんが存在する。レベルが上がることで、威力以外の魔力の全てが上がる。高木の場合は例えば、魔術の射出速度が上がる。

 今現在、一週間程度、満遍まんべんなく魔術の訓練をしていることから、小核スモールアトミック以外のすべての魔術が、5レベルになった。 


「すごいですね!!また洗練せんれんされた魔術になってるじゃないですか!!」


 余韻よいんに浸っていると、マーソが祝福の言葉を送ってくれる。この世界でマーソとともに魔術のレベルを上げ続けて数日が経ったが、マーソの反応を見て気づいたことがある。

 おそらく、この世界の一般常識にはレベルという概念はない。もしくは、レベルという概念が可視化されていないが故に洗練せんれん、もしくは熟練度じゅくれんどなどという言葉で可視化されているものなのだ。

 それに、ステータスという言葉も知らないようだし、これまた特別な能力なのだろう。


 そして二つ目


 魔術には、魔力制御まりょくせいぎょというものがある。魔力制御まりょくせいぎょというのは、”魔力まりょく”。この世界における魔術を使うための力であり、それを制御する力である。ステータスで言うと、厳密げんみつには違うが、MP魔残留量INT魔法攻撃力MND魔法防御力を混ぜたような概念である。


 魔力制御は、魔術の威力をあえて下げたり、魔術を特定の一点に集中させ、威力を上げることができる。だが、一点集中の逆をもしかり。範囲を拡散かくさんしてしまえば、威力が下がってしまう。


 異世界転移した日から、すでに1週間が経過している。そんな高木は、この世界での夜を幾度いくどか経験し、山奥で魔術の修行に励んでいたのだ。

 だがこの場にいるのは高木だけではない。


「あ…あの。毎日毎日、なんでこんなところで魔術の訓練なんかしてるんですか?すでに僕からしたら無比無双むひむそう級ですよ?」


 グレイ・マーソもなぜか高木に同行しているのだ。そして

 その少し棘のある言い方だが、多分悪意を含んではいない。そんな発言に高木はどのような反応をするのだろうか。


「むひ、むそう…って…何?」


「…簡単に言うと、とっても強いってことです。」


 難しい表現をしてしまったことで、高木の脳内がフリーズする。透き通る青い空を眺めながら高木は微動だにしない。


「そういう意味ね…まぁでも、そういう事なら俺は別に他人より特別強いってことないと思うよ?弱点もいっぱいあるし。」


「そういうものなんですねぇ…強くなっても慢心まんしんしないとは、流石ですね!」


(なんか…言葉のところどころにあおりの波動を感じるなぁ…)


 とのことを考えたが、善意であろうし気にしない。実際、高木は魔術が好きなのもあるが、高木は中級以上の魔術を実質扱うことができない。相対的に無比無双むひむそうと評すほどに強いとも言えないのだ。

 つまりマーソは拡大解釈かくだいかいしゃく神格化しんかくかのしすぎなのであった。


「いやぁー本当に面白いな。この世界は」


 高木は危機に瀕しつつも、この状況を楽しんでいた。元の世界じゃどう足掻いても体験できない未知スペシャリティー。もう何も考えず魔術だけを使っていたいとも思うようになる。


「ところで、聞く機会がなくて今更感あるんですけど、どこから来たんですか?」


 高木の表情筋が消えうせる。


「……あっ…えぇぅっ…えっとぉ…あのぉ」


 高木はとても困っている。魔術という響きのせいで、最も懸念けねんすべきはずだった「どこから来たんですか?」問題をすっかり忘れていた。さすがに「日本」だとか、「地球」だとかいうわけにはいかない。そう高木は直感した。

 

 高木至上、最大の危機である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る