第2話 初対面

「君と会うとなると…緊張しちゃうなぁ…僕を楽しませてくれよ」

 

―――――


 目を覚ますとそこは、宇宙のように神秘的しんぴてきで暗かった。心の奥底から根幹的恐怖こんげんてききょうふを感じる空間。周りには何もない。

 だが目をよく凝らしてみると分かる。高木の位置から100mほど前にイスが一つだけあった。質素しっそではない。だが豪華ごうかともいえず、何とも言えない椅子だった。

 

 高木はまばたきをした次の瞬間、先ほど呆然ぼうぜんと見ていた椅子の御前ごぜんへと移動していた。

 高木はこの空間に来た時点で脳のキャパが限界を超えていた。そのせいか高木は、瞬間移動相対性理論の否定をしたことをうまくとらえられていなかった。


「よっ!!」


 突如上から老人が降ってきた。薄汚うすぎたない白いローブに身を包んでいる。だが顔には立派な白いひげたくえた、サンタのような見た目。だがやはり高木にはそのことが認識にんしきできていない。


「おおおおおい!!起きろやぁぁ!!」


 その老人の声によってようやく俺は意識を取り戻した。

 

「あ…?おれ…さっきまで試験会場にいたはずじゃ? 」


 困惑こんわくしていると、その老人が突如様子を変え、真剣な面相めんそうに変わった。


「今から話すことを、おどろかず聞いてくれ。お前は死んだんだ。」


 余計な表現親切心はなく、突発的とっぱつてきで、大胆だいたん。そんな発言にまた放心状態になりそうだったが、何とか言葉を捻り出す。


「は…え?し…死んだ…??…どゆことっすか???はは…おれは試験会場で試験を受けていただけですよ!死ぬわけないじゃないですか!!」


 焦りと困惑により少しずつ感情がたかぶっていく。最終的に老人への怒鳴り声のようになってしまった。


「…お前は脳がはち切れてしまったんじゃ。受験という気を抜くことのできないイベントで、脳の限界を超えてな…」


「………はい?」


(訳が分からんて。脳がはち切れる?なぜ?)


「いや…確かに、今思い返してみれば!!勉強を少ーししただけで、頭痛だったり目眩めまいだったりはしてたけど…死ぬほどじゃないだろうが!!!」


「酷なことに…これが現実じゃ」


 そういい老人はホログラム画面のようなものを見せ、そこに現世の高木豪散たかきごうちの姿を投影させる。


 その姿は、狂田くるた高校の教師たちに担架たんかで運ばれている姿であった。 


「嘘…だろ?…まんま俺じゃねぇか…」


 頭の悪い俺でも事の重大さが理解できてしまった。俺の表情はどんどんと青ざめていく。なす術もない絶望現実を見せつけられた俺は、地面にうつ伏せになってしまった。


 そんな俺の様子を見た老人は、すぐさま俺に駆け寄る。その表情は歓喜かんきに溢れたような表情だ。


「そんな!かわいそうな君にぃ!今ならビッグニュースがあるぞぉぉ!!」


 にやにやとしながら俺を見つめてくるその老人は、なんとも薄気味悪い。


「そもそも、お前は……なんなんだ?」


 「ん?僕かぁ…そうだなぁ…まぁ近い存在だと、君たち人間があがたてまつる【】のような存在だね。といっても厳密げんみつには違うけど。」


「神だぁ?頭おかしいんじゃねぇのか?」


「神に謁見えっけんできるのは、人間にとって至上しじょうほまれだと思うんだけどねぇ。まぁそんなことはどうだっていいさ!そんな僕の神の力ゴッドパワーを使って、君に転生券をプレゼントしよう!!」


「はぁ…お前の茶番に付き合ってやるよ。えぇ~転生券?なんだぁそれぇ?」


 明らかに演技っぽい対応だが、それでも神を名乗るその老人の顔は追加でにやにやと歪んでいく。


「そ・れ・はぁぁ…僕が作った世界で、君の望むものを以て、スローライフを送ってもらうことさ。例えば、他者を寄せ付けない絶対無比ぜったいむひな力。あらゆる存在を穿ちうる武具。王として君臨くんりんすることさえ可能なほどの地位。可能な範囲だが世界概念の操作の権利すらも、君の望む性能チートを一つだけ!プレゼントしよう。まぁあくまで可能な範囲だけどね。」


(長すぎん?頭がズキズキなっちまうわ。)


「まぁまぁ、これからは補足情報ですぐ終わるからもうちょっと頑張ってくれ。」


 しれっと神を名乗る謎の老人から思考を読まれたような発言をされたが、気づかない。それほどに脳が摩耗まもうしているのだろう。


「聞いてない…まぁいっか。それと、その世界の人から聞こえる言語は日本語だから安心してね。さらに、今回特別サービスとして、君の記憶、肉体を引き継がせてあげよう。まぁ、一度死んだといっても、複製というのは思想によっては転移というのかもしれないね。あと、神についての言及はできないよ。すまないね。」


(な…長い…話が長い…頭痛いぃ。こいつが作った世界?胡散うさん臭さMAXだな…まぁ好きな能力もらえるっていうなら少しだけでも考えてみるか。あと、神についてなんか、話流されてね?まぁいいや。)


 響きだけ聞くとよさそうに聞こえるが、嘘を貼り付けまくっているようなその薄気味悪い顔により、信憑性しんぴょうせいが全く持てない。この不気味な空間に、異世界という話。馬鹿であっても、そこに興味本位きょうみほんいで行ってみよう!!と思うほどの、間抜けではない。


「そもそもさぁ…なんか魔王とかそういう存在とかはいないの?そういうのを倒すのが目的とか…」


「んー魔王自体はいるけど別に倒してほしいわけじゃないし…それに僕はただ単に、君にスローでセカンドなライフを送ってほしいだけなんだよね。君に平穏な生活を送ってほしいみたいな。」


「まぁまぁ。別に君を取って食おうとしてるわけじゃないんだから気楽に考えなよ。」


 情報を出しているようで、何も出していない。そんな返答に俺はあきらめて、ギフト能力について考える。


「…例えば…そうだなぁ…すげぇ知能ってのはどうなんだ?」


 俺は自身のコンプレックスである頭の悪さを克服こくふくしようと考えた。知能を求め、神にたずねる。


「んーー、なかなかに難しい質問だね。確かに君の中身を見たら誰しも頭を良くしてほしいと思うだろう。だけど…これから行く世界でのスローライフにその頭脳は必要なの?あくまで僕の考えなんだけど、平穏な生活スローライフに頭脳は不必要なんじゃないかな?偉人レベルの頭脳を持ってる人って、あんまり私生活を楽しそうに出来てるとは思わないんだよね。」


「グッ…」


 確かにごもっともかもしれない。神が提示してきたのはスローライフだ。戦争、経営、それらと一切の関わりのないスローライフ。怪力ならともかく頭脳はスローライフに必要なのだろうか?わからん、わからねぇ!と思考を何とか巡らせる。

 俺は悩んだ末に一つの答えを出す。


「なら…その世界で最強の存在になりたい!!」


 いかにも中学生のような願いだが、もう考えるのが辛くなってくる頃合いだ。自暴自棄じぼうじきに、昔に夢見た野望のようなものを神に告げる。まぁ世界最強とか無理だろうけど。そんな、甘い考えだった。


「あぁ…良いよ!楽しそうじゃん!じゃあ、能力とかそこら辺は僕が勝手に決めとくね。」


「え?」


 俺は若干困惑した。賢さがだめで最強の存在というのがOK?優劣はどうなっているのだ?となってしまった。

 だがそんな些細ささいな不安を完全に殺し、世界最強というものに興味があった俺は――


「じゃあ!!それでお願いします!!」


 あれだけ薄気味わるがっていた神に頭を下げた。 


「よぉぉぉし!!それじゃ転生儀式を始めるぞぉ!!」


 そういい高木は少し身構える。未来の自分を見据え、過去最高潮さいこうちょうのワクワクが抑えられない俺の頭には、既に高校前世のことなど頭に入っていない。実際、本当に死んだのなら、気にする必要もない。


「はぁぁぁぁおおおおおお!!!」


 神がそう念じると、神のいた謎の空間は光に包まれた。おそらくだが逆なのだろう。神目線だと俺が光に包まれのだと思う。


 そうして高木豪散たかきごうちは、神々しい光に包まれながら、この場を去る


「最後に、俺の名前を教えておいてあげよう!!俺の名前は

『ハライドゥ・シュラン』だ!これだけはしっかり覚えておくんだよ!!」


 去り際に、高木の耳から神の声が聞こえてきた。その声は、何かに期待する少年ような声色であった。

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