第7話 ルインの権能

「骸の兵士達よ。あれをやるぞ。俺のもとに来い。」

『きゃギャぎゃ?』

「俺の権能の説明がまだだったな。害虫。俺の権能、それは…『ぎゃぎぎゃぎゃ!』さすが害虫、知能が足りてねーな。」

 虫の塊となっていた虫たちが骸の兵が俺のもとに集まるのを見て襲い来る。しかし…



「次元断絶。」

 


 虫達は次元断絶によりその空間ごと切り離され潰されていく。まるで空という絵画に穴を開けそこに押し込まれていく様にその場から消されていった。そしてルインは地上に降り立った。



→ソフィアSide



 その様を地上で虚しく見ていた私の心には一人で化け物を倒してしまったルインへの畏敬でも圧倒的な力を持つルインへの嫉妬でも無くがあった。悔しい…あの場で仲間を守れなかった私が…、ルインに守られてばっかりの私が、守られることを受け入れてしまっていた私が!守られていることを言い訳にこの事実を受け入れている私が!!

 強くならないと。


「おい、ソフィア。仲間は何人殺られた。」

「121人。残っているのは私とルインだけだよ…。」

「…そうか。もう、暗い。今日はもう、寝ろ。」

 弱くて、惨めで、情けなくて、助けられてばっかりで、それなのになんの恩返しもできなければ恩人達を力不足を理由に見捨てた。…なんで生きてるのかな。これから何を背負って生きていけばいいのかな…。誰も助けてくれない。助けられない。こんなことならいっそ、あの時…、

 私は俯向いたままルインに聞く。

 

「ねー、ルイン。」

「…」

「私って何なのかな?」

「…お前は、独善者だ。自分の為に物事を歪曲し、否定し、都合の良い時のみ受け入れる。他者を、自分を、責任を、全て歪める。独り善がりな存在だ。しかし…「なら!どうして止めるの?」…、」

 そう叫ぶ私は首元に今、こんな私の為に消えていった兵士の剣を押し付けようとしている。しかしそれを邪魔する様にルインの手により止められている。そして私は顔を上げる。初めてだった。ルインと目を合わせたのも、誰かに本心を告げた事も、誰かに泣き顔を見られたことも…


「独り善がりな用無しのお姫様…。そんなの居るだけ邪魔じゃないかな?居ても…周りに迷惑かけるだけだよね。やっぱり、このまま…」

「…」

 私は握っている剣を更に強く自分の首へと押し付けようとする。しかしそれを止めているルインの手によりそれ以上、刃が進まない。剣がギシギシと音を立て始める。


「ねー、このまま、死なせてよ…。」

 消えそうなくらい小さな声で私はルインに笑いかける。うまく笑えているかもわからないしましてや涙で、顔がぐちゃぐちゃかも知れない。けれど、笑わないと…最後くらい、笑わないと、私なんかの為に死んでいった兵士達に顔向けできない。だから…笑え、笑え、笑え、笑え、わら…


「お前はそれで満足だろうな独善者。背負っていたもの全て投げ出して考え、抗い、生きる事を放棄する。その方がお前は楽だろう。…だが、お前の為に死んでいった兵士達はどうなる?その家族は?その仲間は?その友達は?…お前を死なせる事はできない。…騎士として死んでいったあいつらの為に。」

「じゃあ…どうすればいいの?このまま何もせずにまた、生きていかなきゃいけないの?この重い罪を背負って?そんなの…もう…、」

「ふざけてんのか?重い罪?確かに現実と向き合おうとしなかったのは罪だ。だがな、今、お前が背負うべきは無き同胞たちの心だろうが!何もせず生きていかなきゃいけない?当たり前だ!お前一人で何かができる程、世界は甘く無い!重い罪?一生背負って生きてけ!…それがお前のできる償いだ…。」

「…償い?消えた命は…、潰れた彼等の意志は…、私の罪は…、どれだけ真っ当に生きても…、償えるものじゃ、ない…。」

「そうだ。お前の魂が尽きるその瞬間までお前は背負っていなければいけない。あの…優秀であった騎士たちの心を…。だがそれは罪の対価とは言え耐え難い修羅の道…、だから俺がいる。」

「え?」

「お前が辛くなったとき、苦しくなったとき、悲しくなったとき、そして、死にたくなったときにお前を支えられる様に…、少しでもその心が晴れるように、俺がいる。これでもまだ死のうとするか?それなら俺が相手してやるけど?」

 正直、私には眩しくて痛かった。それはまるで暗がりにポツリと置かれた一つの灯火のようにあったかく、優しく、眩しく、そして自分に現実を突きつけてくる。それでも一緒にいてくれると言うその言葉に私は救われた。今度はちゃんと笑顔になれてるかな?


「…ううん。ありがとう。ルイン。私と一緒にこれから生きていくって約束したの後悔しないでよ?…ふふ、よろしくね。」

 私は満面の笑みで、笑いながらルインと目を合わせて言う。


「あぁ、よろしくな。ソフィア。」

 ルインもきっと笑っていた。



 そんな私の逃避行が終わり王国に向かって歩いていた時、ふと私は思い出した。


「ねー、ルインの能力って結局何なの?骸骨出したり、空に穴開けたり。どんな能力なの?」

「…俺の権能は人に教えると教えるだけその効果も変わってくる。だから俺の権能について詳しくは教えられない、が、」

「が?」

「強いて言うなら創生と破滅の相反する二つの力を許容し、混ぜ合わせた様なものだ。」

「ふーん、よくわかんないね。」

「…今はそれでいい。いずれわかるよ。」

「わかるようになったら、また教えてね。」

「あぁ、約束な。」

「うん、約束。」



 






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