第5話 植物の固有能力
町を出た私達は森の中を歩いていた。兵士のみんなは警戒心と恐怖心に顔を歪めながら震えている。私もルインと会うまではこの森は怖いと思っただろう。だってここは…、
「ねー、ルイン。なんでいくら森を横断するのが近道だからって…なんでクラインの魔境を通ろうっていう考えになるの!」
そう、ここは八大魔境の1つ、クラインの大森林。異常な毒と胞子を撒き散らし燃えも腐りもしない花々に木々。そしてその環境に適応し襲い来る動物モンスター。そして…
「毒はソフィアの権能で無効化してるが動物や虫の毒はこいつの権能でもまだ無理だ。俺も一応は警戒しとくが気を緩めんなよ!」
私の能力は植物を操るのが唯一の攻撃手段なだけで本命は治療と強化にあるらしい。でも私にはまだそこまでできないと断言された。今でも思い出せる。出発前…、
「お前みたいな脆弱、軟弱、貧弱、無力の権化に一発でそこまでは無理に決まってんだろ。」
「むー…そこまで言わなくても…、」
「先ずは色んな命と向き合うことだな。お前には命を捨てる覚悟があっても命と向き合う覚悟が無い。そんな中途半端な状態で使えるわけがねーだろ。」
あれは流石にちょっと頭にきたよね。何さ向き合う覚悟って!そもそも捨てるんじゃなくて一矢報いようとしただけだし。
でもに森の中入ってからモンスター襲って来ても全部気付かない内に倒してるから固有能力の練習もルインの援護も出来ない。その実力が無ければあのとき言い返せたのに…。実力があるのなんかずるくない?
私と同い年くらいでしょ?それなのに強くて?かっこよくて?ちょっと口悪いけど真面目で?私達を何度も助けてくれる優しさがあって?なんかもう反則じゃない?あーもうちょっとイライラしてきた!
「ねー、ルイン。夜。この森で野宿するとか言い出すんでしょ?」
「おー、良くわかってんな。それがどーした?」
「ちょっと固有能力の練習付き合ってくれない?」
「この森での練習は勧めないぞ?やるなら国に戻ってからにしろ。」
「え?どうして?」
ここは森。植物を操る私からしたら良い練習場だと思ったんだけど。
「この森の植物は全て1つの植物だ。だから1つ操るのにこの森全体を操るだけの力が必要になる。」
「え?この森が1つの植物って、どうゆうこと?」
「この森の植物は全て土の中で繋がっているんだよ。1体のモンスターに。」
「へー、なんてモンスター?」
「酷蟲帝 アブラム。」
「へー、そんなモンスターがいるんだ。聞いたことない。どんなモンスターなの?」
「神に連なる全ての生物に寄生する事が可能で寄生した生物を操り猛威を振るう。その生物が使い物にならなくなれば新たな生物に寄生する。…名前を口にしただけで虫唾の走るゴミモンスターだ。」
「ねー、もしかして…、」
「そうだ。…この森の植物を操ってた奴に寄生したんだよ。」
「…因みにその情報世界に発表したら一生遊んで暮らしても余るくらいの大金貰えるよ?」
「いらんわ。」
「そう言われると思った。…話を戻すけど国に戻ったらちゃんと固有能力の練習付き合ってもらうからね!」
「あぁ、それは約束するよ。…なー、ソフィア。」
「ん?どうしたの?」
「この近くに俺の暮らしてた洞窟があるんだ。そこに行ってきてもいいか?」
「そう言えばこの森に住んでたって言ってたね。良いよ。少しの間なら兵士のみんなでなんとかなると思うし。」
「ありがとな。…んじゃ、ちょっと行ってくるわ。」
そう言うとルイスは目の前から空気と同化するかの様に消えていく。
→ルイスside
俺はソフィアに嘘をついた。俺は今、自分の居た洞窟になど向かっていない。行き先は森の中心部、ゴミムシの居る場所だ。
「そろそろだな…、っ!」
森を高速で移動していた俺は森の中心部の広場までやって来て目を見開いた。
広場の真ん中には背丈の小さい緑髪にバラけた長髪の男の子が仰向けに巨大な岩の槍に串刺しにされていた。彼の周りは異様な事に植物が枯れ果て近づく生物は皆腐敗していっている。
「おい。大丈夫か、パナマン。」
生命の精霊 パナマン。二代目の生命の精霊にして生きる最古の伝説。生命の管理人たる彼が神より与えられた役割、それは自然の守護。その世界の歯車に引きを取らない役割と重要性から彼が二代目を継いでから長い時を経た今尚、神聖視されている。そんな生命の王たる彼が死にかけている。その異様さはルイン以外の者が見たら困惑していただろう。しかしルインは動じずに声を掛ける。
「パナマン。あのクソムシにやられたのか?」
「申し訳無い…な。森全体を守っていたが…流石に…限界でな…。」
「…そうか。ゆっくり休めよ。」
「最後に…いい、か?」
「なんだ。言ってみろ。」
パナマンは最後にという言葉と共に指を首筋に当ててきた。死に行く者の冷たい指先。その指先を突き付けられた俺はパナマンにより首に契約紋を入れられた。そして…、
「………………………」
契約内容を口にする前にパナマンは塵となり風に飛ばされてゆく。
「良く守った。後は任せろ。」
俺はその場に背を向け来た道を駆け抜けて行く。
→ソフィアside
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