第3話 レグルシス王国

 私は正直レオンを敵と思いたくなかった。それは助けられたからと言うのもあるが彼が敵だった場合勝ち目が無いからと言うのもある。だから私はこの軍の総司令官として聞かなければならなかった。


「貴方がもしレグルシス王国の敵なのであれば、私は恩人だろうと容赦無く剣を向けます。」

 その質問と牽制に反応も示さないレオン。正直今のレオンは何を考えているのかソフィアにはわからなかった。暫くの静寂の後にレオンが閉ざしていた口を開ける。


「はぁー、いやそもそも俺はずっと森で暮らしてたんだよ。敵も味方も居るわけねーじゃん。」

「はぁ!?森に?あの近くの森ってクラインの魔境くらいだよ!?あんな所に住んでたの!?」

 それはソフィアですら驚く様な解答であった。しかし何処か納得する解答でもあった。


 いや良く考えればあそこで暮らしていたならあの強さは納得できる。あの魔境は生態系に色々と難があるし。あとシンプルにモンスターが強すぎる。王国の兵達でも入口より先に進めないくらいだしだとしたら…


「なー、」

「ひゃ!ふぁ、ふぁい!」

「いやそんな驚くなよ。」

「ご、ごめんね。考え事してたんだ。それでどうしたの?」

「お前は王国って所に着いたら俺をお前の家族に会うんだよな?」

「うん、そうだよ」

「自分で言いたく無いがこんな怪しい奴会わせて良いのか?」

「うん、大丈夫。王国には将軍と騎士団長が居るから。二人とも強いんだから!」

「ふーん…、それでこっからどれくらいでお前らの国に着くんだ?」

「馬を失ったので歩いてだいたい3日間位ですね。」

「いや、なげーよ。明日朝兵集めとけ。自己紹介ついでに面白いもん見せてやるよ。んじゃ、もう寝るからー。おやすみー。」

「うん、おやすみなさい。」

 そう言ってレオンがテントを出たのを確認するとソフィアはベッドに横になる。そして彼女も知らない内に深い眠りへと誘われていた。



 その日の夜、全員が眠りについた頃。の事であった。そう見張りも含めて全員である。村の入口から堂々と黒い鎧を纏った騎士たちが行軍してくる。しかし誰もその状況に気付くものはいなかった。普通は有り得ないことなのだ。全員を同じタイミングで深い眠りに誘うことなど。誰にも気付かれずに堂々と行軍するなど。しかし現在起こっている。その原因は一つの壺から発せられる匂いであった。


「魔導具 淫魔の転寝」

 行軍してきた軍隊の前には一人の銀髪の男が立っていた。そしてその声と立ち姿を見た軍を指揮しているのであろう派手な黒の鎧の男がビクリと肩を動かし驚いた。 


「その魔道具は夜を生業とする淫魔ですら眠りにつかせるという催眠系統の食人話を壺の中で蠱毒させ合い、勝った一体を殺し術者本人も自害する事により呪いの縛りを破棄する縛りを自らに科すことで完成させた眠りの魔導具。その魔導具は百人以上と使用者本人の魂を注ぐまで対象に機能し続け永遠の眠りにつかせることを可能とした。」

「何者だ!?何故、淫魔の転寝の中で起きていられる!?答えよ!?」

 その動揺と警戒と不安に埋もれた大声。純粋な疑問。それに対して銀髪の男は気怠さと冷静さを含んだ声で答える。


「俺はルイン。お前らの怨敵だ。」

「ルインか。聞かぬ名だな。まぁ、この際お前の素性などどうでも良い。それで何故お前にはこのクラリスが効かんのだ?」

「クラリス?あー、古代の機械と書いてクラリスか。機械神クリスが由来か。そんなもの機械ではなく呪詛だと言うのに。」

「そんなものどーでも良い。質問に答えよ。三度目は無いぞ。」

「機械は平等に。呪いは同等に。力は不条理に。運命は理不尽に。そうやって世界の歯車は動いている。」

「何が言いたい?」

「呪いは自分より下の者。あるいは自分と同等の者にのみ一本の管となって代償無く効力を発揮する。そして人間が呪いを代償無しでかけれない相手がいる。」

「あぁ、知っている。代償無しで呪いをかけられない相手は九体だ。神、天使、悪魔、竜種、精霊、神聖種、神聖物、概念、世界。この絶対的上位存在である九体のみが呪いの対象外とされている。しかしその殆どが存在する生物か怪しいものだがな。」

「存在するさ。そしてその九体で正解だ。しかし何事にも例外はある。そのうちの一つが俺だ。…俺は現存するこの世のどの生物にも属さない怪物の類らしくてな。程度の低い物だと無効化してしまう体質なんだよ。」

 その言葉に驚いた黒い鎧の軍の指揮官らしき男は思わず声を荒げる。


「程度の低い物だと!?ふざけるなよ!?これは古代の代物だぞ!?そこら呪具とは埋めれぬ差があるのだぞ!?それをなんなのだ、貴様は!?貴様の様なや「うるさいぞ。」!?」

 ルインの発したうるさいの一言で男は黙った。しかし口を閉ざした理由は別にある。先程まで気配や感情の起伏すらも感じさせなかった目の前の男から異様な気配を感じたからである。しかしそれも一瞬の事。その気配は直ぐ様消えて無くなる。


「下がれ。引き返せ。逃げろ。これが最後の通告だ。そこから一歩でも前に進んでみろ。殺すぞ。」

 ルインの言葉を聞き男は叫ぶ。


 「突撃!!」と、しかしその声が最後まで響く事は無く男とその男の後ろの兵士達の上半身は消えていった。そして下半身だけとなったかつて兵士であった者たちが崩れていく。


「何が起きてるの?」

「やっぱりお前も起きてたか。ソフィア。」

 ルインが振り向くと家の影に隠れていたソフィアが姿を現した。

 

 




 





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