第3話 広がる波紋

デルフィが部屋にメイドを残してこもり、部屋を出て解散した家族たちは各々の仕事にとりかかった。



ロートンは目を覚ましたデルフィについての報告をするため、自室に戻ったのち外出用の服装に着替え、謁見の用があると執事に伝え、すぐに王宮に向かった。



エストビア国の王宮はアルヴェーヌ家の邸宅がある場所からそう遠くないため、使用人に馬車を引かせ、走り出した。



道中ロートンはどのように伝えるかを思い付きで考えをまとめ、別の仕事にとりかかった。


「talk。王宮のものよ。聞こえるであろうか?私だ、アルヴェーヌ・フォン・ロートンだ。緊急の用事で王に会いたい。すぐさま準備をしてもらえないか?」


「はい、可能であります。今すぐ準備を始めますのでそのまま王宮までお越しください。」


「感謝する。」


「ちなみにご用件は何でしょうか?」


「娘のことについて。とだけ伝えてくれ。」


「はっ!娘さんのことでらっしゃいますか。ということは、、、」


「余計な詮索はやめたまえ。それよりも早く伝えてくれ。もう半刻ほどで王宮につく」


「失礼いたしました。取り急ぎ王にお伝えしま─」


「おおい!そのこえはもしやロートンか?久々であるな!今そなたが話しておった彼から話をきいていたところだ!ガハハハッ!」


「お久しぶりです王よ。」


「なんだつれないな。昔みたいにチャールズ君て呼んでくれたっていいじゃないか」


「そういううわけにはいきません。昔と違い今の間柄は国王とそれに仕える侯爵。とても愛称で呼び合うことなどできませぬ。それに今このやり取りは私の使いの者も聞いているのですよ。とにかく、急いでますので話の続きは謁見室でいたしましょう。」


「む、そうか仕方あるまいな。だが、謁見室についたらため口な」


「はあ、」



そんなやり取りを続けながらもロートンは王宮へと向かうのであった。





半刻後。


ロートンを乗せる馬車は王宮へとたどり着いた。



クロビア領より南へ、馬車に揺られて一時間ほどかけて赴いたところにある王宮は、そこが国の中心都市であることを忘れさせるほど浮いて見え、この世であることすらも忘れるほどに幻想的な場所であった。


王宮の姿はとても大きく、見上げなくては全貌を見ることはできない。


門のサイズはブランデンブルク門の五倍はあるかというもので、外観は王の趣味により華やかな植物と水に覆われいくつもある庭の内いくつかは透き通る水に沈められており、これが神秘だとでも言わんばかりの荘厳さを湛えている。



「いつ見ても、不思議な場所だな。本当にここは私の生まれ育った国の中であるのか忘れてしまうな。ほんとうに。これより神秘的なところがあるのだろうか。、、、いや、いまは仕事に集中しよう。」



ロートンはそういうと服装を改めて整え、王宮へと入っていったのだった、



「お待ちしておりました。ロートン様。二階の謁見室で王がお待ちです。


ご案内いたします」


「うむ。助かる」



二人は歩き出した



広い廊下の床は大理石でできており、あるくたびにその足音が響き渡る。



そうして歩くこと数分。



ロートンは謁見室の扉をたたいた。



コンコン



「失礼いたしますチャールズ王に緊急の用事があり、はるばる王宮まで伺いました。」



ロートンが扉を開けると奥には立派な顎ひげを蓄えた男が黄金の椅子に座っていた。


風貌からにじみ出る威厳はまさに王そのものであった。



「待っていたぞロートン。まあ、姿勢をほぐせ。どうやらこれは長話になるであろうからな。」


「恐縮でございます」


「かたいわ」


「あんがと」


「いや、急に柔らかすぎな。まあいいんやけど」


「ではさっそく、緊急の話なんだが、、、デルフィがめをさましたぞ」


「ほんとうか!!!!!!」


「本当だよ。わざわざ嘘つくかいな。さらにな、精霊が見えるそうなんだが、たしか精霊使いの座があいていただろう?それをデルフィにやらせようと思うんだがどうおもう?」


「大歓迎だ!!にしても、やっと目を覚ましたのか。やっと、やっと目を覚ましたんだな!!!!!!!」


「ええ、わたしもはなしをし━」


「バタン!!!!」


「「ん!!?」」



「デルフィが目を覚まされたというのはほんとうですか??!!!」


「そ、そうだが」



突如謁見の間の扉を破壊する勢いで会話に乱入してきたのは、この国の第二王子「アーサー」であった。突然の乱入にもかかわらずロートンが落ち着き払っているのは、


彼がデルフィに関する内部事情を知る人物の一人であり、にもかかわらずデルフィを自力で自分の婚約者にしたとんでもない奴であるからだ。


ここで彼についての話をするが、彼は人柄がとてもよく、貧民から王族まで、どんな人間が相手であっても優しい態度を貫き通す人物であり、その評判は大陸全土どころか全世界に知れ渡るほどである。


しかし彼には不思議なところがある。それはかれの友人が男しかいないということだ。


噂によると、かれは極みが付くほどにおとこが好きであるらしい


そして暇さえあればデルフィのことを想い、誰の声も届かなくなるというレベルだ


それに何度か夜這いに行ったこともあるとかないとか。



などと乱入があり話はだんだんとデルフィに対する愛は誰が一番強いのかを争う戦いへと流れていくのだが、真実は三人のみが知る。





一方そのころ、王宮内寝室ではヴァイオレッタが専属メイドのアリサと会話をしていた。


「そうよね。あの子からはかつて英雄と言われ、大魔導士と謳われた人たちよりはるかに強い意志や力や、なにより秀でた魔力量を感じるのよね。やっぱりあの子のために専用の訓練場や自室、いろいろと作ってあげないとね、、、」


「ええ、そうしなければこの屋敷のありとあらゆるものが壊され、屋敷毎無くなってしまうでしょう。いくらかわいいからと言ってさすがに許すことはできません」


アリサはこぶしを固く握りしめ、天に突きあげるようなポーズでそう語っていた。


「ええ、幾らかわいいからといってもそれは許されないのよね。」


対するヴァイオレッタもアリサと同じように不思議なポーズをとっていた。



ところどころおかしなところがあるが、要するにこの屋敷において天使のような存在であるデルフィのためにどんなことをしてあげようかと悶絶しながら頭を悩ませているのである。



2人の会話はどこかで熱く語り合っている王様や侯爵様や王子様と同じように長々と繰り広げられていくのだが、その詳しい話はまたどこかで。



この話はだんだんと猥談に発展していったのだが、およそ一時間後のこと、疲れ果てた二人はこんな結論を出していた。



そのⅠ:大魔導士の一人であるヴァイオレッタのユニークスキルである空間魔法、並びにレベルマックスまで上げられた建築スキル、装飾スキル、鍛冶スキルを用いて、デルフィのための訓練部屋を屋敷内に増設。


また、同じスキルを用いて部屋を作成することが決定された。



会話を終えてから10分後、


ついさっきまでほとんど溶けながら熱く語り合っていたふたりは人が変わったのかと錯覚するほどに背筋よく立っていた。


メイドのアリサは乱れなどどこにもない制服に身を包み、


ヴァイオレッタは濃い青色を基調としたローブに身を包み、デルフィの部屋の前に立っていた。



しかし、背を向けて。


そう、正装に身を固めた二人は扉が並ぶかべではなく、青く澄み切った空が見える窓がある壁の方を向いて立っていたのだ。


二人は訓練部屋と新しい部屋を作ろうという提案に対して、会話の中でそれだけではつまらないからひと工夫を入れようと決めていたのだ。


その一つがこれである。



「あえて窓側に扉を作って、「え?これ扉開けたら落ちるよね」と思わせて、いざ開いたら中には屋敷を超えるほど広くて、なおかつ頑丈な壁で出来た訓練部屋が広がっているという仕掛けよ」



そう、ヴァイオレッタは胸を張っていうのであった。


しかしこれに対して同じく建築スキルと装飾スキルを持つアリサは


「それでは面白みに欠けますね、こうしてはいかがでしょうか。


扉を開けたらそこに屋敷よりも広大な、、、までは同じです。


そこから先を、「なぜか室内なのに太陽の日が差す場所で奥行きが見えないほど広い場所が広がっていた」


とすればもっと面白いでしょう」



「ムムム。面白い発想ねそれは認めましょうだけどそれだけじゃ足りないわよ!


もっと季節ごとに代わるとか、昼や夜が変更できるとか、、、」


「ならば時間の流れを遅くするのはいかがでしょうか?」


「ならこれは、、、」


「それならこれも、、、」



二人の会話はまたしても熱い語り合いへと発展していくのであった、、、



どんなものが出来上がったのかは、デルフィが次に目を覚ました頃にわかるだろう。



次はアリスだ。


アリスは本名をヨーゼフと言うが、好きでこの名を使っている。この家の生まれでも最も強く優秀な剣の実力を持つ人物であり、明晰な頭脳や冷静な判断力を持ち合わせる人物だ。


しかし彼には、この家の誰よりもデルフィを愛していて、シスコンであり、三度の飯よりデルフィが好きという徹底ぶりである。


しかし、彼には彼が所属している王立剣術学園の会長であるため、必然的にデルフィのために仕える時間はあまりないため、今もすぐに頭を切り替えるのであった。



彼は今、初等部・中等部・高等部と、全行程十年の学生生活の中五年目にしてすでに会長という座にいるのだが、それには深いわけがあったのだ。



話はさかのぼる事、五年前、時はまだアリスが入学したばかりのころだ。


彼は入学試験にて受験した誰よりも優秀な剣術の腕を見せたことで最上級クラスに割り当てられていた。


中には親のコネで入った実力のない貴族の坊主もいたのだが、入学二日目にしてこのクラスの担任として割り当てられた現剣聖の「フェルミ=マクスウェル」の指示のもと模擬試合をすることになり、総員30名を超えるクラス一行は訓練場内にある大型の円形闘技場に来ていた。



こうして模擬試合をすることになっただが、なんと一回目に選ばれたのはアリスと先ほどの貴族の何タラというやつであった。


相手はテンプレであるかのように我が血族のだとかなんとかほざいていたのだが、試合開始の合図を出されたために半ば強引に試合が開始された。



しかし試合が開始した直後、そこにアリスは居らず。


経過した時間は一秒にも満たぬというのに貴族の方は倒れており、アリスはそいつの10メートル後方で納剣しているところだった。



(何だ今の動きは!?抜剣から攻撃、納剣までのスピードが異常なスピードで行われていた。これは、、、どれほどの力があるのか確かめるために一つ模擬試合をしてみようか。)



仮にも剣聖と崇められ、世界に七本しかないとされる聖剣の使い手である彼がここまで心を動かされ、剣を交えようと言い出すのも無理もない。



ここでアリスが何をしていたのか解説すると、まず構え方から異様であるのだが、


貴族の息子がヘラヘラとつらつらと自慢をしている最中、右手で剣のグリップを握り、左腕はやや下に下げて肘は曲げるというポーズを取っていた。


そして試合開始の合図と共に駆け出し、その走りよりも素早く剣を抜いて貴族の息子に回転切りを浴びせた。そしてその勢いのまま駆け抜け、10メートルほど駆け抜けて停止し、静かに剣をしまったのだ



しかしこの動きを見ることができたのはフェルミただ一人であった。



始まりと終わりのみしか見えていなかった者たちは唖然とし、しばらくは誰一人として発言することができず頭がやっと追いついた生徒たちは口々に


「お前すげえな!」「なんだ今の!動きが全く見えなかったんだけど」「弟子にしてください!」


と、驚き畏怖するのではなくむしろ賞賛の声が溢れだした。



その時今だといわんばかりに話し始めたフェルミの言葉にその場はさらに沸き上がった。



「素晴らしかったぞアリス君!だが今の戦いでは君の力を図りきることができなかった。


故にこれから私と剣を交えてほしいのだがいいかな?」


「そんな!いいんですか剣聖さま!」


「ああ、全力でぶつかってきてほしいんだ。いいかい?」


「もちろんです!いつか憧れの剣聖様と戦ってみたかったのです!よろしくおねがいします!」



ならば、とフェルミ指を鳴らし、一人の魔導士と思しき人物を呼び出した。


そして何やら耳打ちをすると、その魔導士は結界を張り始めた。



「剣聖様、あれは何でしょうか、、?」


「あれは結界だ。それも最上級のね。今結界を構築している彼の名は「オルト=パラ」


我が国が誇る魔術師たちの中でもそれらを統括する座にいる人物だよ。」


「その結界は、うわさに聞く最強の魔獣の進行を足止めすることが可能という、、、」


「そうだよ。彼の結界はこの世界で最も強靭なもので、並大抵の攻撃lじゃ傷をつけることすらできない。だけどなんでこんなに結界を張ってるのかが聞きたいんだよね?それは先程の試合で君が見せたあの一瞬の動きに誰よりもずば抜けた強さを見たんだ。それに君はさっき僕相手に全力で挑んでくれると言っていたよね。まだ若い少年が善力を出そうと言ってくれたんだ。仮にも剣聖である僕が細野気持ちに手抜きをして戦うなんて僕の誓いが赦さない。


本気の僕が途方もない力を持つ君と全力でぶつかったらどうなるか?彼の結界がなかったら周りにいるみんなの命は衝撃波で吹き飛んでしまうだろうね。そんなことになったら僕はこの国を去らざるをえないだろうね。だから彼を呼んで結界を張らせたんだ。」


フェルミが指さす方向を見ると、いつの間にか結界は10枚にもなっていた


余りに多すぎるのではないかとも思うがたしかに剣聖が相手なら当然か。と、アリスは思うのであった


「じゃあ、そろそろ準備もできたことだし始めようか。」


「よろしくお願いします!!」


「うん。あ!その前にごめん!条件を決め忘れていたね。そうだなあ、この戦いで君が一度でも僕にその刃を当てたなら今日から君にの剣術の授業は免除。代わりにこれからの10年間、僕がつきっきりできみに稽古をつけよう。さらに、君が評価基準を大きく超えるような結果が出たら、きみは今日から僕の付き人だ。じゃあ、はじめよう!」



フェルミはそう言い、構えをとったのであった。

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