第4話 あなたへ。都を照らす桜の下で

 病院で過ごして三日が経った。

「めい、お薬よー」桜都は明に懐き、朝から部屋に来るようになった。

「桜都ちゃん、おはよう。」桜都は浩二に作ってもらったワンピースにエプロンを着ている。

「素敵な服だね」

「お医者さんの服!」桜都は嬉しそうにエプロンを見せた。

「おはよう御座います。田中様」清麿がやって来た。

「おはよう。今日は何か、いつもと違うね?」清麿の表情を伺った明は何となく聞いてみた。

「えぇ、無理も御座いません。今日は桜都の誕生日なんです。それに、京も帰ってきますから。」京というのは、明の子守の一人であり現在はオーストラリアにいる。

「そうか、じゃあ饗さなきゃね」清麿も桜都もついでに朝から上に呼ばれて不機嫌だった河合も祝い事が好きなようでご機嫌だった。


 明はまだまだ車椅子生活が続くので河合が常についていてくれる。桜都は浩二に呼ばれて何処かへ行き、清麿はのんびり京の帰りを待っていた。

「今更ですけど、田中って褒め上手よね。着眼点が的中してるというか、、」長い廊下を歩いていると河合が話しかけてきた。

「多分、ブラック企業の名残だと思います。上司の機嫌取りでしたから体が慣れちゃって、結局怒られてばっかだったんですけどね」河合の動きが止まる。明が振り向くと、河合はなんとも言えない表情で口をもごもごさせていた。

「どうしました?」

「その能力、私も欲しい…」どうやら今朝、上司に面倒な仕事を押しつけられたようで同じく呼ばれていた2131の隊員は媚を売ってその仕事を回避したそうだ。

 屋上へやって来ると、二人の他に清麿、浩二に桜都もいた。

「皆ここにいたんだ。」

「勿論です。もうすぐ来ますよ、」言葉の通り、ジェット機が離陸した。ドアが開き、ウットとルネスタが降りてきた。「新しいgpp1の方ですね」河合が挨拶する。浩二が案内する事になり三人で会議室に行ってしまった。浩二は仕事がやけに多い。「京はまだ?」桜都の期待とは裏腹に出てきたのはe01yの隊員である佐谷田誠と八乙女来夏だった。瞬間、桜都も清麿も戦闘モードに入り、二人の前に立つと怒りの形相で話しかけた。

「京に何した…!」明が子守担当にならなければいけなかったように、現在e01yは凄く緊張感が走っている。

「京は無事、…私と誠は2131に行くことになった。悪かったわね、償いはする。」清麿は今にも手が出そうだが、桜都はもう既に手が出ていた。

「御免なさい、御免なさい、御免なさい!!」普段絶対に言わなそうな言葉を連呼していたのは誠だった。桜都はとっておきの怒りを込めて誠によじ登ると髪を鷲掴みにしていたのだ。

「お…とちゃん?」明は唖然とする。他の人は知っていたかのように笑っていた。

「桜都、もう大丈夫。それより、京の所に行っておいで」清麿の指示に笑顔で従うと走って行く。

「清麿、本当にごめん。」

「そんな謝罪で許すと思った?e01yは言葉を使うんだ。言葉の重さは分かるだろ?2131に入るなら丁度いい、償いは桜都を守る事だ。分かったか?」清麿の目は一切笑っていなかった。

「分かったよ。後、京は酔って吐きまくってる。」しょんぼりとした誠に返って清麿は苦笑いをしながらジェット機の中へ向かった。

「そろそろe01yが崩壊しそうですね、」河合が言う

「俺そんな役職に入るんですか?本当に死んじゃいますよ…」

「まぁ、何と言うか、ここに居る住民は大きく分けて四つです。生きて一般的な生活を送ってきた人間。契約をし死を逃れた人間。これが田中ですね、それから死後に契約をした人間。後はここで育った人間。人間以外もいないことは無いんですが、死に近いと言う事は地獄にも天にも近いという事で1%にも満たない数です。そんな、違う種の人間が集まっているので対立もあるのでしょう。田中にはその四種全ての護衛がいるようなものです。」

「そうなの!?」斎藤が降りてきた。

「あ!河合ぃ、すっかり仲良くなったのね!」隠しきれていないニヤニヤが迫ってきた。

「お疲れ様です。私は仕事をしてるだけです!」

「地獄の業務が天職に変わったわね」斎藤の可憐な手先で触られた明と河合はゾワゾワが止まらなくなり鳥肌が立った。然し、鳥肌が立っていたのは二人だけでなかった。

「おぇ…気持ち悪い、」和山京。話にはよく出ていたが明と会ったのは初めてだ。

「例の京君です。お互い初対面ではマズい姿ですね」明と京は目があったが、なかなか会話までいけなかったので庭に集合する事にした。 

 庭で明は久しぶりに車椅子とベット以外の所に座った。桜の木の下は居心地が良く、桜都は寝てしまった。

「先程は失礼しました。e01y所属の和山京と言います。」まだ顔色は悪いが随分マシになっていた。

「e01yに新しく入った田中明です。これからお世話になります。体調…大丈夫?」

「はい、良くなりました。田中様は年上ですしタメ口で構いませんよ。」明は京の感じに安心しつつもやはりまだ緊張していた。

「桜都、寝てますね」京は桜都を撫でる。

「三人は本当に仲が良いんだね」

「初めて会ってする話でも無いのかも知れませんが、僕達は裏切られたみたいです。e01yの全員がグルでした…。」木の上にいた清麿が驚いたのか降りてきた。

「でも、じゃあ、、…」二人は明には分からない何かに怯えていた。

「俺達は、弱いもの虐めを楽しんでたんだ。軽い気持ちで…」誠と来夏が現れた。

「きよ怒らないでね」京が清麿の怒りを止める。

「最初は言葉が本当になるのが面白くて、お前達の事も皆が慕ってた。でも、お前達は必要最低限力を使わなかっただろ?だから、段々見下しに変わったんだ。弱いから使えないんだって…弱いから武器を使って、礼儀や作法も、此処でこき使われてきた証拠だって、多分お前達が知らぬ間に俺達の玩具になってるのが楽しかったんだ。ただ、感がいい清麿は俺達を問いただした。」

「だから、より酷い事をして怖がらせてやろうと思ったの。私も皆も力には自信があったし、目障りは消すべきだって…少し英雄気取りですらあったわ、でも、次第に嫌がらせが殺人に変わって、京が上に知らせた事で私達もバレるのが怖くなって…今度は京に標的が向いたの。」

「……。」明は、二人の信頼を汚された気持ちが痛い程感じ取れた。

「清君も京君も、今回の事ばかりは上からの指示で要経過観察になったわ。」河合が唇を噛み締めている。きっと、幼い頃から顔馴染の子達が虐めの対象になり、傷つけられたのだから気づけなかった悔しさと起こってしまった事件に対する恨みがあるのだろうと明は思った。

「…桜都に危害が加わらなくて良かった。」京が口を開いたが、「ぅ…、」小さな悲鳴を上げると何処かへ走っていった。恐らくまた戻してしまったのだろう。

「京の言ってた通り、桜都に危害がなくて本当に良かったよ。誠も来夏も今臨済桜都に一切の危害を加えず、尚且つ桜都を幸せにするんだ。分かったな」清麿も言葉を置き去るように京の元へと走っていった。


「京?」庭のトイレの外についた洗面所で京はうずくまっていた。

「どうしたら良かったの?俺は俺が大嫌いだ…気持ち悪いよ、きよは何で耐えられるの?ねぇ…きよ、」

「なに?」

「ごめん、一部前言撤回…大丈夫?」清麿は頬が紅色に染まっており、目も虚ろだ。京は水で冷えた手で清麿の額に触れる。瞬間、熱がある事は一目瞭然だった。

「やばい…どうしよ、うぇ…きよちょっと待ってね、」既にカオスな二人の元に桜都が現れた。

「桜都?なんで、起きたの?」

「桜都はお医者さんなの、誠は運んであげて!」

「桜都様、私は…」

「来夏ちゃんは浩二を呼んできて」桜都は幼いが的確な指示を出した。


「こりゃあ夏バテか、ストレスが大きな要因だろうね」浩二は清麿をベッドに寝かせて書類を書く。京も胃薬を貰い、しばらくは戻して寝込んでをくり返した。

「こんな事になっちゃうなんて…思って無かった。」来夏の本音が漏れる。

「二度としない事ね」河合が静かに叱ると来夏は何度も頷いた。

「桜都。」清麿が桜都を呼ぶ。

「なぁに?」

「俺達はもう少ししたら元気になるから桜都はお祝いの準備をしてきてくれる?」少し戸惑う桜都の頭を撫でて納得させる。清麿は微熱ではあったが疲れ切っているため辛そうだ。

「なぁ、一つ聞いても良いか?」誠が冷えピタを貼りながら清麿に尋ねる。

「何でお前ら二人は桜都を守るんだ?桜都って強いだろ」

「確かに桜都は強いよ。でもまだ稚児だし、何より嫌な思い出を残らせたく無いんだ。俺も京も時取り嫌な思い出を引き出して戦うけど、それは良いものじゃない。だから、桜都は俺達で守るって決めたんだよ」誠は黙り込んでしまった。

 二人は応急処置が終わり、後は安静にするだけだったが、今日は桜都の誕生日という事もあり、気合で何とかした。


「桜都!」桜都は斎藤に着せられて花柄のドレスを着ていた。

「お姫様だね。」

「まろはお熱さんね!」抱っこを求める桜都を後ろから京が拾う。

「京!元気になったの?」

「うん、大丈夫!」桜都は目を輝かせて喜ぶ。斎藤と河合は庭に設置されたテーブルに食べ物を乗せた。明は持ち物役だ。

「こんな豪華な料理、どうしたんですか?」

「全部ウット君とルネスタ君がやってくれたの」

「あの新人の方ですか?凄いですね、この会社じゃなくてももっと良い所で働けそうだな…」ウットとルネスタは日本に来る前から計画をしてくれていた。京がオーストラリアに滞在中何度か桜都のプレゼントを用意していたのを見て協力してくれたのだ。

 小さな椅子に桜都が座った所で清麿と京がプレゼントを明から受け取り、桜都に渡した。

「お誕生日おめでとう!」

「ありがとう!」

「はい、これも」二人は大きな花束を渡す。

「この花は桜都の花だよ。黄色は僕達だけどね」ブーゲンビリアの花束はピンクとオレンジの中に二輪黄色がある構成になっていた。

「お花!」桜都はこれ迄にない程喜ぶ。

「大きくなったね、桜都。元気でいてくれてありがとう。俺達は桜都が元気でいてくれる事で元気になれるよ」

「これから先、僕達は誰かの為に戦わなきゃいけない。でも、僕らは生き抜いて笑おう。」

桜都は桜の様な温かい笑顔で「うん」と答えた。

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青春ヒーロー 一都 時文 @mimatomati

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