第3話 二度目の人生にクローズアップ

 仕事に行かないといけない…行かなきゃ…。また謝るのか、面倒くさいな。ミリとも感情の籠もってない謝罪なんてどこに需要があんだよ…!

 起きるとまるで何処かの国の王様みたいな部屋にいた。ついでに河谷さんが召使みたいだ。

「おはようございます…」河谷は美味しそうにご飯を食べていた。

「おはようございます。田中、」違和感が消えなくて可笑しくなる。河谷は気にせずもぐもぐとご飯を食べていた。明はひとまず立とうとしたが激痛でうずくまってしまう。

「まだ動かない方がいいですね、車椅子は用意しておきました。手伝います?」明は変なプライドから拒否をしたが、正直手伝って欲しくて内心泣いていた。一人では何もできない程怪我をした事に自殺した時の事が頭に過ってきた。

「しょうが無いですね、」河谷が明をお姫様抱っこする。「お嬢様、これで自由に動けますよ」

「あ、ありがとうございます…」顔は真っ赤に染まっている。

「君達は元気だねぇ、珠姫さんと京君はもう行っちゃったよ」浩二が現れた。河谷はパパッと明を車椅子に座らせて恥ずかしそうにご飯に戻る。

「斎藤さんは仕事ですか?」明が聞く

「そうそう、オーストラリアに行っちゃったよ、京君っていう[e01y]てのに所属してる子がいるんだけどその子と新しい隊員の勧誘をしに行くんだ」

「京君ね、田中の先輩になるかも知れませんね」明は昨日転職した事を思い出した。

「きょーちゃんはまだ子供だよ?」

「この職場には子供も死者もいますよ」

「超がつくほど全世代向けだね、」二人の話は明を不安にさせてくるので明は自力でトイレへ向かった。


 明が戻ってくると、河谷が書類を眺めていた。浩二はもう仕事に行ってしまったのだろう。

「俺、まだ動けないけどできることありますか?」

「夜中からずっとうなされていましたし、一度仕事とは距離を置いたほうが良いと思いますよ。それでもと言うのなら手伝って欲しいです。」言わずとも思っている事を分かっていたらしく、早速仕事が始まった。

 明はご飯を食べながら河谷の仕事を手伝う。仕事内容は書類の仕分けだ。天に召された人は解、預金が足りない人は足りない分の値段を計算する。悪徳業者などには2131と書く。その他にもする事はあるが、そこは河谷が担当してくれた。

「この、2131って何ですか?」

「私や斎藤さんの役職の事です。本人の元へ出向いたり、悪徳業者を潰したりします。この業界では二番目に人口が多いですね」

「なるほど…」

「ちなみに一番人口の多いgpp1という役職は死者の監視と死者の処置を行います。海外の方が圧倒的に多いですね、日本は銃社会で無いので傷の手当は至って簡単です。でも海外はよく酷い遺体があるので、gpp1の事を2131では[ゴツい霊媒師]と呼んでいます」破壊力のあるあだ名に明は吹き出しそうになった。二人で書類を片付けていく、ちなみにまだ二箱分の書類がある。

「そう言えば、もう一つ、関わりのある隊がありました。e01yという役職は、言葉で戦います。まぁ、武器もあるにはありますが、言葉を使うのは恐らく最も難しいでしょうね、今では確か35名です。」

「言葉ですか…何か不思議ですね、ここの会社って、命懸けなのかそうでは無いのか、よく分からないです。」

「出社一日目で何ですが、この間、gpp1の方が数名精神科に送られました。e01yの方も数名辞めたそうですね、」

「辞めたらどうなるんですか?」

「その人が死者であった場合はあの世へ、生きていれば働いた分の記憶が空白になるといった感じです。」明の場合は後者になるのだと頭によぎる。

「本当にホワイト企業ですよね?」

「一日三食、家付き、休みは月に二週間分あります。メンタルケアもあるとかないとか」

「確かに設備は凄いですね、でも、仕事は…」

「gpp1が一番精神的にキツイと言われていますね、2131はまぁ慣れれば容易な事ですよ、e01yはメンツが宜しくないのでおすすめしません。」

「メンツ…」

「言葉を使う分、口が宜しくない方が強かったりもするんですけど、なんせ鼻につくので」河谷の表情を見るに怒りが伺える。

「e01y…」

「もしかすると田中はそこに配属されるかも知れません。e01yの中にもいい子はいますよ」

「そんな…俺、語彙力無いですよ」明は拒絶している。

「大丈夫ですよ、多分。」

「多分…」

「e01yは確かに難しい所です。でも、田中の仕事は簡単になります。その分死ぬ可能性も上がりますが…」

「どういうことですか?」等々明は冷静だ。

「e01yの子を見守っていて欲しいんです。それも三人だけ、皆いい子ですし、力も確かです。ただ、2131に育てられた子達なので周りのe01yが嫌がらせをしていて問題になったんです。」

「子守…みたいな感じですか?」明は元ブラック企業の社畜で子供の世話はこの方してきた覚えが無い。「中学の職業体験どこでした?」記憶を辿る、何となく思い出した。

「小学校」

「大丈夫そうですね、」

「何も大丈夫じゃありませんよ、」

「大丈夫です。」河谷は断言してくる。明も文句を言い過ぎても良くないと思い受け入れる事にした。

 

 昼になる。ようやく片付いた資料に感動しながら、息抜きと例の三人に挨拶を兼ねて車椅子で河谷と庭に行くことにした。

「桜、緑だけど綺麗ですね、」

「ワタクシはこの木が一番好きです。」桜の木に近づくと小さな少女が毛布に包まって寝ていた。

「桜都、おはよう」河谷が少女の横に座って話かけた。

「ん…寝てた、あ、きょうちゃん!」少女は無邪気な笑顔で河谷に手を伸ばす、河谷はそんな少女を優しく撫でると膝を上に乗せた。

「桜都、この人は桜都や清麿や京を護ってくれる人よ」明は少しぎこちない笑みを作る。

「はじめまして、e01yの花車桜都です。」

「はじめまして、よろしくね、」見た目と礼儀正しさや話し方が違い過ぎて戸惑う。

「桜都、清麿は?」

「まろは池の所で俳句書いてたよ、呼ぶ?」

「お願い」桜都がポケットから笛を取り出した。鳥の形をした笛に「水聲」と呟いた途端、笛に水が満ちる。

「綺麗だ…」明は笛の音に取り込まれるかの様に感じた。少年が走ってくる。足が早い。

「起きたか桜都、希鏡様も御一緒で、そちらは田中様ですね、私は多門院清麿です。e01yに所属しています。」

「はじめまして、田中明です。これから宜しくお願いします。」清麿は美しい程袴が似合っていた。

「清麿、田中はこれからe01yに入るわ」

「私達の為に?」河谷は黙り込んでしまう。清麿は桜都に俳句の紙を渡した。そこには静寂と記されており、清麿が暗唱すると桜都は空を見上げてぼーっとして動こうとはしなくなった。

「e01yから追放された五名は共犯でした。田中様を危険に晒す可能性がありますよ」

「確かにそうね、でも桜都に危害を加えるわけにもいかないわ。田中はブラック企業で働いてた分謝罪っていう武器があるわ、私や浩二さんも護衛につく。これでどう?」「あの…」明は自分の名前が出てきていたので声挙げた。

「嗚呼失礼、最近e01yの方で殺傷事件が起きたんです。未遂に終わりましたがね、被害者が桜都であれば命が危なかったです。それで、そんな部隊に田中様を配属しても良いのか気になって」

「俺…早速二度目の死を迎えそうだな…」

「今はこれしか無いわ」河谷はいつもより声が小さい。清麿は桜都を見て明をみるとニコニコした顔で明に紙を手渡した。

「なにこっ…」「行読」清麿の言葉で明は呆然とし、脳が思うように動かなくなった。


 守らなければいけない。でも、力は無い。勝てない、どうする?明は途端に死の淵に立たされていた。知らない顔の人が五人、明を囲っている。明はその五人が自分を殺そうとしているということだけを理解できた。

 どうしよ、どうする?まずい、怖い。死ぬかも…何かあのクソ上司に似てるな。待て、クソ上司?あの人は謝る人間が大好物だったな。

「本当に申し訳御座いませんでした。こんな役立たずの私にお時間を割いて下さりありがとうございます。粗相を致しましたこと責任を持って対応させて頂きます。」周りの五人は少し引いていた。


「これは面白い。良いですよ、希鏡様の仰る通り、謝罪という武器をお持ちの様で、私は護られつつ田中様を守る事にします。」河谷はホッとした様で胸を撫で下ろした。明はまだ何が起きたか理解していないようだ。

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