第2話 運命の出会いはさようなら

「河谷、いつまでそうしてるの?」

「珠姫さんには分かりませんよ!この恥ずかしさ!」斎藤はニヤつきながら猫のように河谷をいじる

「モラハラだぁ!」病院食かと思えばがっつりとステーキ丼で驚きと嬉しさがあった。ちなみに二人の会話は美味しさのあまり右から左に流れていく。

「田中様は転職希望かい?」ステーキを頬張る浩二がお茶を片手に聞いてきた。

「拾われた命、流石に二度目はありませんからね、同じようにならない為にも今の会社は辞めます。」戯れていた河谷と斎藤がきょとんとして笑い出した。

「何言ってるんですか?もう、とっくにやめてるじゃない、あんな会社河谷なら一握りで終わりよ!」次はこちらがきょとんとなる。河谷なら一握りで…?俺を繋いでいた鎖はこんな黒スーツにとってはどうってことなかったのか、少し自身を無くす。

「まっ、まぁ、ワタクシ達はこの業界の中でも平和主義だし!悪は潰すタチなの!」

「悪側からすれば私達が悪よ?」

「もぉ!斎藤さん!やめてってばそういうの!」斎藤はいじるのが好きならしい。

「ご飯食べたら部屋も移動しましょう!桜が綺麗に枯れてしまったわ」フフッと笑いながら斎藤は部屋を出ていった。

「田中様、転職先は我が社なんて如何ですか?ユニークな仲間に超絶ホワイトですよ!」お願いと言わんばかりの誘いに俺は渋ることも無い。

「はい。こんな俺でもいいのなら!もう一度、今度は皆さんと生きてみたいです。」

「決定!よろしくお願いします。田中様!」

「河谷さんにはあった事あったわけですし呼び方変えません?」

「では、無難に田中とか?」

「はい!それで」

「じゃあ僕は明くんで!」

「下の名前…⁉」浩二の笑顔に明は何も言えなかった。

「準備完了!」斎藤さんが戻ってきた。河谷さんはそそくさと食器を片し、今度は俺のいるベットの左右を河谷、浩二、上を斎藤が持ち、少し部屋の物を確認すると「出発!」と言って走り出した。さっき二度目はありませんからと言ったが二度目はもう目の前にあるのかもと涙が出てくる。

「やけに長いんよこの廊下ー!」浩二が楽しそうに話しかけてくる

「長いって…」

「長いものは長い、おぉこのチョコ美味しい…」気づけば河谷はベットにのって優雅にチョコを食っていた。

「私も後でちょーだい!」髪がオールバックになってる斎藤の顔を下から眺めながら諦めた。この会社、いや、この病院はおかしい。


 病室は真っ直ぐな道を抜けるとガラス張りの渡り廊下があり、そこから少年とまだ幼い少女が見えた。緑になった桜の木の下で落ちた花びらを集めているようだ

「ここは本当に病院なんですね」

「んー、まぁそんな所ではあるけど、ここは少し特殊なの。河谷が説明してたでしょう?見送るか助けるかが私達の仕事」

「じゃあ、やっぱり見送った人は?」

「そりゃあねぇ」にまっと表情を変えた斎藤に明はそれ以上聞かなかった。

「もうすぐで着きますよ」河谷がもぐもぐしながら言う。

「こりゃあいい部屋選んだねぇ」浩二の声に少し顔を起こして前を見ると、やけにでかい扉があった。その扉をベットから降りた河谷がボタンを押して開ける。ゆっくりと開く扉の先に、高級そうなカーペットや時計、お伽話の様な風景に明はテンションが上がってしまった。

「ここが田中の病室です!」河谷は自信満々に部屋を指してキラキラした瞳で凄いだろ!と言わんばかりに笑顔を見せる。

 ベットから降りられない明は三人に持ち上げられて部屋専用のベットに移った。

「明くん軽すぎじゃない?ビックリしたよ」

「私も思った。体重何キロ?」

「仕事ばっかりでしっかり測っては無かったんですけど、最後に測った時は四二キロでした」

「河谷の方が大きいじゃない」

「斎藤さんこそ!」

「田中、身長は?」

「一七二です。」斎藤も河谷も目を泳がせて数えだした。

「一五八で…五四キロ…、えぇ、?やっぱやばい…」

「河谷、聞こえてるぞー」

「一五六で、四五キロ………」しれっと二人の身長体重がバレてしまっている。

「まあ、二人はいいけど、明くんはもっと食べないかんよ、食欲はありそうで一安心だけど、もっと食べてな!美味しいご飯用意したるわ!」

「はい、ありがとうございます!」

 新しいベットはもっとふかふかしてて気持ちがよかった。紺色の毛布に入り、手を出す。左手は今は使い物にならない。体もまだそこかしこ痛いし、足は動かす気にすらならなかった。一段落つくと改めて感じる。どうしてあんなことを軽々しくできてしまったのだろうか?河谷さんに初めて会ったあの日、河谷さんはどんな気持ちで飛んでしまったのだろうか…。

 窓の方から風が吹いた。春の暖かい風だった。もう一度、生きていくんだ。そう思うと気は重かった。でも、自然と笑っていた。

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青春ヒーロー @mimatomati

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